嫉妬深い黄色いパンツの女
お料理研究会の部室で林田さんと二人お弁当を食べているのだけれど、いつもとは違って空気が重いように感じていた。
思い返してみると、一昨日の昼休みに先輩四人に言い寄られてから林田さんは僕の事を睨んでいるように感じていた。
僕は無言の圧を気にしないタイプであるので箸が時々お弁当箱に当たる音以外聞こえないこの時間もそれほど苦ではない。林田さんもそうなのかもしれないと思っていたのだけれど、林田さん自身は無言でご飯を食べ続けることに抵抗があったみたいだった。
「ねえ、昌晃君って女の子だったら誰でもいいの?」
「誰でもいいとは?」
「だってさ、一昨日の昼休みにここの奥にあるよくわからない部活の部室にいたでしょ?」
「うん、よくわからないまま連れて行かれて陽香の事について色々聞かれたよ」
「それだよ。前田さんの事は陽香っていうのにさ、私の事は全然名前で呼んでくれないじゃない。二人の時はもっと私を見て名前で呼んでくれてもいいと思うのに」
「陽香の事は名前で呼び慣れているってのもあるんだけど、今ここにいないから話題を出すのに名前を呼ぶ必要があるんだよね。でも、僕は二人の時は桃ちゃんって呼んでると思うな」
「そうやってさ、私が呼んでって言った時しか名前で呼んでくれないよね。別に呼びたくないならいいんだけど、名前で呼んでもらえないなら私もアレをみんなに見せちゃうかもしれないよ。昌晃君は皆に見せた方が嬉しいのかな?」
「そんな事はないけど、それを見せたら桃ちゃんも変な目で見られちゃうんじゃないかな。桃ちゃんはそれでも平気なの?」
「私は平気だよ。誰にどんな風に思われたって所詮は他人だし、昌晃君が私を見てくれればそれでいいもん。でも、昌晃君が二人っきりの時も他の人の事を考えているって言うんだったら、私しか見れないようにしちゃうかもしれないよ」
「それって、昼休みに毎日一緒に過ごすって事?」
「違うよ。それも魅力的だけど、他の女のいないところで二人で楽しく過ごすって事かな。私もそこまでは望んでないんだけど、昌晃君がそうすることを望んでいるんだったら仕方ないなって思うよ。でも、それはそれでいいかもしれないよね」
「まあ、そんな事は難しいと思うけどね。ところで、今日の小テストはどうだったの?」
「小テストは、数学だけ一問間違えちゃったよ。昌晃君はどうだったの?」
「あ、今回も同じなんだね。じゃあ、間違えたところも一緒なのかな?」
「私は最後の問題文を読み間違えて答えも間違えちゃった」
「へえ、僕は単純に計算ミスをしたけど、間違えたのは最後の問題だったよ」
「そうなんだ。同じところを間違えたけど、間違えた理由って同じじゃないんだね。もしかして、これって、昌晃君が私と一緒の運命じゃいやだって事なのかな?」
「どうだろう。でもさ、今までずっと同じところを同じよう理由で間違い続けた事の方が凄かったんだと思うよ。カンニングして無い限りそうはならないと思うけど、僕と桃ちゃんは席も教室の端と端だからカンニングなんて出来ないしね。もちろん、スマホで何かしているわけでもないんだし、偶然なのか桃ちゃんの言う通り運命なのかはわからないけど、これから毎日のように続く小テストで間違えた場所が違っても同じ点数を取り続けることも凄い事だと思うよ」
「まあ、それはそうなんだけどね。私はちょっと寂しかっただけなんだ。昌晃君が他の女の子ばっかり見ているような気がして寂しかったのかもしれないよ。でも、その寂しさは昌晃君が悪いわけじゃないんだけど、他の女の子とどうにかしないといけないのかな。前田さんはいとこだからいいとして、一昨日昌晃君を誘惑した人達はどうにかしないといけないよね」
「別に僕は誘惑なんてされてないけど」
「じゃあ、昌晃君にとって女の子のパンツを見ることってなんて事のない日常の一部だって事?」
「そう言うわけではないけど。でも、沙緒莉姉さんとか真弓は下着姿でウロウロしていることがあるかも。陽香はそういうところはしっかりしているんだけど、二人も陽香がいないところでだけそうだったような気もするな」
「ちょっと、それって本当に日常生活の中で女性の下着姿を見てるって事?」
「まあ、見ているって言うか、見せられているって言った方が正しいと思うよ」
「見ているか見せられているかはどうでもいいの。昌晃君って下着姿を見ただけじゃ何も感じないって事?」
「いや、さすがに何も感じないって事はないけど、早く何か着ればいいのになとは思うよ。最近じゃ、部屋から出た時に下着姿の沙緒莉姉さんがいても驚かなくなったし、真弓がわざとらしくパンツを見せてきてもリアクションしなくなってきたかもな」
「じゃあ、私が今から昌晃君にパンツを見せたとしても、何にも思わないって事?」
「そんな事はないけどさ、自分から見せるのって良くないと思うよ。それに、僕はあまり自分から見せてくるって状況は好きじゃないんだよね」
「それって、自分から見せる人よりたまたま見えた瞬間の方が好きって事?」
「そうかもしれない」
「そうなんだ、良い事聞いちゃったかも。それって、前田さんは知ってるの?」
「知らないと思うよ。誰にも言った事ないし」
「それって、私だけに教えてくれたって事?」
「うん、そうだよ」
「それって、私だけ昌晃君の特別だからって事なのかな?」
「それもあるかもしれないけど、僕の思っていることを言わないとずっとそのままパンツが見えた状態でい続けるような気がしたからね」
「もう、なんだかんだ言ってしっかり見てるじゃない。でも、次からは見えないように気を付けて見せるね」
林田さんは少し嬉しそうにそう言っていたのだけれど、僕は林田さんの履いている黄色いパンツを見て昨日食べたパイナップルの事を思い出していた。
色味が似ているだけだという事はわかっているのだけれど、少しだけ美味しそうに見えてしまっていた。昨日食べたパイナップルは甘さと酸味のバランスが良くて美味しかったのを思い出していたのだった。




