真弓の強権発動
「じゃあ、沙緒莉お姉ちゃんが起きてきたらみんなで外に行こうよ。それまではこのままゲームでもして待ってようよ」
「いや、それは無いわ。だって、お姉ちゃんは予定が無い限り起きてこないからね。今日は何の予定もないって言ってたし、きっと夜まで起きてこないと思うよ。ご飯食べてお風呂に入って寝るだけの一日になると思うし、それを待ってるのもどうかと思うわ」
「でも、もしかしたら今日は早く起きてくるかもしれないよ。そうしたら、みんなでクレープを食べに行こうよ」
「クレープか。私はあんまり乗り気じゃないかも。別にクレープが嫌いってわけじゃないんだけど、昨日もケーキを食べたし、クリーム系はしばらくいいかなって思ってね。今日の晩御飯は昌晃が担当なんだけど、何を作るつもりなの?」
「何にも決めてなかったけど、まだまだ夜も寒いんで豚汁とサバの味噌煮でも作ってみようかと思ってるよ。豚汁はわかるけど、サバの味噌煮なんて作れるの?」
「作ったことは無いけど、動画を見ながらやればなんとかなるんじゃないかなって思ってね。それに、たまには和食もいいんじゃないかなって思ってさ」
「あ、今日は真弓の番じゃないけどお手伝いしてもいい?」
「僕は手伝ってもらえるのは嬉しいけど、真弓の番の時に手伝えるかわからないよ?」
「大丈夫。私もこの前学校で魚を捌く動画を見てやってみたいなって思ってたんだよね。一匹だけ、自分で食べる分だけでも捌いてみてもいいかな?」
「それは構わないけど、近所の魚屋さんは買った魚を捌いてくれるんだよね。そっちで買おうと思ってるんだけど、真弓は自分で捌いてみたいの?」
「うん、ちょっとやってみたい。綺麗に出来たら嬉しいだろうからね」
「そうだね。でも、僕は自分では捌かないよ」
「じゃあ、真弓も今日はやめておこうかな。でも、お手伝いはするね。陽香お姉ちゃんもお兄ちゃんのお手伝いするの?」
「なんで私が手伝わなくちゃいけないのよ。言っておくけど、私は自分の番じゃないと何もしないからね」
「でもでもでも、陽香お姉ちゃんは優しいから困っていたら助けてくれると思うんだよね」
「そんな事ないって。じゃあさ、私はお姉ちゃんが起きてきて誰もいなかったら寂しそうだし、ここに残ってるから二人で買い物でも行ってきなよ。今日は天気も崩れないみたいだから急ぐ必要はないと思うけど、お昼ごはんには帰って来てくれると嬉しいかも。というか、二人で何か食べてきてもいいんじゃない?」
「二人で何かを食べるって、陽香お姉ちゃんはどうするの?」
「私はお昼ってあんまり食べたくないんだよね。だから、何か軽くつまめるもので十分なんだ。だからさ、二人の分を作らないといけないって思うと、自分で食べるわけじゃないのになって思っちゃうんだよね。だからさ、私を助けると思って外で何か食べてくるといいんじゃないかな」
「陽香お姉ちゃんがそういうならそうしようかな。お兄ちゃんはそれでもいい?」
「僕はそれでも大丈夫だよ。真弓は何か食べたいものあるの?」
「これと言って思い浮かぶものは無いんだけど、何かオシャレなものを食べてみたいかも」
「オシャレなものか。全く思い浮かばないけど、どんな感じなのか教えてもらってもいいかな?」
「じゃあさ、学校から少し離れると思うけど、橋の向こうにあるショッピングモールに行ったら何かあるんじゃない。私は行った事ないんでわからないけど、結構オシャレなお店もあるみたいだよ」
「そこって、クレープ屋さんもあるのかな?」
「どうだろうね。あるかもしれないし、ないかもしれないけどね」
「あるといいけど、無かったら違う日に食べに行こうね」
「そうだね、その時は前の日に甘いもの控えておかないとね」
「うん、じゃあ、いったん着替えてくる。ジャージでそこに行くのなんか嫌だもん」
真弓はリビングから勢いよく飛び出ていったのだが、階段を駆け上がる音が聞こえるくらい慌てていたようだ。ここにも聞こえるくらいなので寝ている沙緒莉姉さんにも聞こえてはいるのだろうとは思うのだけれど、真弓が再び駆け下りてきてからしばらく経っても沙緒莉姉さんは起きてくることが無かった。
真弓はジャージから黄色いスカートに履き替えていて、上はデニムのジャケットにスカートよりは薄めの黄色いキャップをかぶっていた。その感じが何となく春っぽく思えて真弓には似合っていると思った。
僕たちはそのまま橋を越えてショッピングモールに向かっていったのだが、車が少し渋滞気味に連なっているのを見てお店に入れるか不安になってしまった。
「こっちの方って初めて来たんだけど、結構車が多いんだね。お兄ちゃんはこっちのほうに来ること多いの?」
「いや、僕もあんまりこっちに来ることは無いかも。あそこのショッピングモールが出来たころはたまに来てたんだけど、今じゃ来る用事もなくなっちゃったからね。でも、真弓たちなら見に行くだけでも楽しめるんじゃないかな」
「そんなに面白いもの多いの?」
「面白いというか、こっちの方が服屋さんが多いんだよね。真弓たちっていっぱい洋服をもてるみたいだからさ、見てても楽しめるんじゃないかなて思ってね」
「それはあるかもしれないな。私は沙緒莉お姉ちゃんに服を選んでもらう事が多いんだけど、結構いいなって思うんだよね。自分では何が似合うのかわかってないんだけど、そんなにたくさんのお店があるのだったら、自分で似合う服を探すことが出来るかもしれないね」
「へえ、今日の服も沙緒莉姉さんに選んでもらったの?」
「スカートとキャップは沙緒莉お姉ちゃんに選んでもらったんだけど、このジャケットは真弓が選んでみたんだよ。似合ってるかな?」
「うん、似合ってるよ。うまく言えないけど、今の時期にあってるんじゃないかなって思うよ」
「それなら良かった。じゃあさ、今日は何か食べた後に服を見てもいいかな?」
「もちろん。見るだけでも楽しめると思うからね」
「じゃあ、お兄ちゃんが真弓に似合う服を見付けてくれたら買っちゃおうかな」
「僕にそんなセンスがあるかわからないけど、あんまり高いのを選ばないようにするよ。ちなみに予算って決まってるのかな?」
「そうだな。これから先の残っている休みにどこに行くかによるけど、二万円くらいかな」
「え、そんなにお金あるの?」
「うん、パパとママが連休だからってお小遣いをくれたんだよ。お兄ちゃんが良いの選んでくれたらお礼に何かご馳走するよ」
「いや、ご馳走してくれなくても大丈夫だよ。僕もお小遣いは貰ってるからね」
「そっか、じゃあ、真弓が着替えている時に試着室に一緒に入っても文句言わないことにするね」
「そんな事しないからさ。普通に楽しくしようよ」
「そうだね。でも、真弓は今のままでも楽しいよ。お兄ちゃんが嫌じゃなかったら、手を繋いで歩きたいなって思うんだけどね」
「それくらいなら大丈夫だよ。じゃあ、今日は手を繋いで歩こうか」
「ありがとう。これで恋人同士に見えるかな?」
「どうだろうね。兄妹にしか見えないかもしれないよ」
僕の言葉が気に入らなかったのか、真弓は力いっぱいに僕の手を握ってきた。小さな可愛らしい手なのでいくら力を入れられても痛くはないのだが、何か悪い事をしてしまったという思いで謝ってしまったのだ。
「もう、謝るくらいなら意地悪なこと言っちゃダメだからね。今日は家の中でも外でもお兄ちゃんは真弓の彼氏って事に決めたから。お兄ちゃんに拒否権なんて無いんだからね」




