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春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる  作者: 釧路太郎
ゴールデンウィーク編前半

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沙緒莉姉さんと仮で付き合うことになった

 沙緒莉姉さんは天野さんを警戒しているのか、家に帰るまでずっと僕の腕にしがみついていた。後ろ姿だけを見ていたのだったら仲の良いカップルだと思われるかもしれないのだが、正面からすれ違った人は沙緒莉姉さんが明らかに何かに怯えているように見えるので違う印象を抱いている事だろう。

 沙緒莉姉さんが必要以上に警戒しているのは何となくわかるのだが、あの本屋でバイトをしているのだから今は大丈夫なのではないかと思っていた。その点だけが不思議だったのだ。


「確かにさ、あの先輩はちょっとおかしいと思うけど、今はバイト中なんだからそんなに警戒することも無いんじゃないかな?」

「それは間違いなの。天野君はあの本屋さんのスタッフじゃないのよ」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。あそこはウチの大学に通っている生徒がボランティアで相談に乗ったり勉強を教えたりするところなのよ。私も何度か参加したことがあるんだけど、基本はボランティアなので参加するのも帰るのも自由なのよ。自分の空き時間にやってきて、自分が求められてる時に話をしたり色々と教えたりするんだよ」

「へえ、沙緒莉姉さんは何を教えてるの?」

「私は普通に勉強を教えているのよ。教えると言っても、学校で習ってわかりにくいところを少し教えるって言った感じかもね。そういうのって、私よりも真弓の方が向いてるとは思うんだけど、真弓ってまだ中学生だから教える側じゃなくて教えられる側なんだよね」

「それは何となくわかるかも。真弓って相手がどこで止まってるのかすぐに見つけてくれるもんね。一緒に勉強をしてた時も僕がわからないところを的確に教えてくれていたよ」

「そんなところもあるから学校の先生に向いていると思うんだけどね。でも、真弓って人見知りが激しいから難しいかもしれないのよね。昌晃君と打ち解けるのはそんなに時間がかからなかったけれど、酷い人だと一年以上かかっても仲良くなれなかったりするからね」

「それは辛いかも。仲良くなれてよかったよ」


 もう少しで家に着くと言ったところで、沙緒莉姉さんは何も言わずに僕の手を掴んだまま来た道を引き返していた。沙緒莉姉さんは僕が言葉を発する前にその小さい手で僕の口を覆い隠してきたのだが、それには何も話すなという明確な意思が感じられた。

 僕たちはそのまま家には帰らずに、いったん公園で時間を潰すことになった。僕はこの時点でまだその理由を知らなかったのだが、沙緒莉姉さんに聞いたところ、家の近くにゼミの人達が何人かいたという事だった。


「なんで家の近くにあんなに知っている人がいるのよ。さっきまで誰もいなかったじゃない」

「状況を理解していないんだけど、誰か家の近くにいたの?」

「私の入っているゼミって、天野君の他にも何人かいるんだけど、天野君といつも一緒にいる人達が家の近くにいたのよ。偶然なのかもしれないけど、ちょっと怖いかも」

「家の近くって、どれくらい近くにいたの?」

「角を曲がって家が見えたんだけど、その家と角の間にいたの。見つかる前に引き返したから大丈夫だと思うんだけど、どうして家が分かったんだろう」

「家が分かったとしても、僕の家の表札に沙緒莉姉さんたちの名前は出していないから大丈夫じゃないかな」

「でも、昌晃君は天野君に自己紹介していたよね?」

「あ、してたかも。でも、この辺は他にも齋藤さんっているからそっちと勘違いする可能性もあるんじゃないかな。いや、そもそも、この辺にいるからって沙緒莉姉さんを探しているとは限らないんじゃないかな。だって、僕の名前を知ったからと言って僕の家がわかるわけでもないし、沙緒莉姉さんがどこに住んでるのかだって知らないと思うんだよね」

「それもそうだよね。たまたまゼミの人がいたってだけで、私を探してるって決める付けるのもおかしい話だよね。ちょっと天野君の事でナーバスになってたのかもしれない」

「じゃあ、いったん落ち着こうか。僕から離れて深呼吸しようね」

「あ、ごめんなさい。無意識のうちに昌晃君の腕にしがみついちゃってたかも」


 僕たちは公園のベンチに座って何となく時間を過ごしていた。お互いに何かを話すことも無く、ただ何となく座っているだけで時間がそれほど経っている様子もなかった。

 沙緒莉姉さんは家に帰る途中に天野さんに出会ってしまっても関わらないように気付かないふりをして家に戻ろうと提案してきた。僕は沙緒莉姉さんにこれ以上精神的な負担をかけるのも良くないと思ってそれに同意したのだ。

 僕から少し離れたところで沙緒莉姉さんは隠れているのだけれど、問題の家の近くにたどり着いても、それらしい人の姿はどこにも見当たらなかった。


「今は誰もいないんだけど、沙緒莉姉さんは大丈夫?」

「え、確かに誰もいないね。今のうちに帰っちゃおうか」

「そうだね。このまま外にいても風邪を引きそうだし、早めに帰ろうよ」


 僕と沙緒莉姉さんは確かに誰もいないことを確認していた。この曲がり角から僕の家までの間に誰もいない。そして、その辺りには隠れられるような場所も無い。

 さあ、曲がり角を越えて家までまっすぐ帰ろう。そう思った瞬間に家とは反対方向の道から誰かが沙緒莉姉さんに話しかけていた。


「あ、前田さん。ちょっとだけ話をしてもいいかな?」

「え、私に何か用ですか?」

「いや、僕が直接何か用があるってわけじゃないんだけど、ちょっとだけ良いかな?」

「本当に少しだけですよ。寒いんで早く家に帰りたいんです」

「ごめんね。本当に手間はかけさせないからさ。みんな、前田さんを見付けたよ」

「うわ、本当に前田さんの家ってこの辺だったんだ」

「マジかよ。天野ってやっぱりヤバいんじゃないか」

「でも、前田さんを見付けちゃったのはどうしたらいいんだろう」

「とりあえず、話を聞いてみないとな」


 僕と沙緒莉姉さんは四人の男性に囲まれていた。見ようによってはカツアゲにあっている高校生に見えないことも無いのだろうが、この男性たちもなぜか戸惑っているように見えた。

 四人のうちだれが話しを始めるのかで揉めているようだが、僕も外にいるのが辛くなってきたので早く終わってほしいと思っていた。


「あのさ、俺達って天野からこの辺に前田さんが住んでるから探せて言われてたんだけど、前田さんってこの辺に住んでるの?」

「え、そうだけど。なんでそんな事を知っているの?」

「なんでって言われても、俺達は天野から言われただけなんだよね。どうして天野が前田さんの家がどこにあるか知ってるなんて知らないんだけど、本当にこの辺に住んでるって知った時は驚いたよりも、天野って気持ち悪いなって思っちゃったよ」

「だよな。なんでそんな事を知ってるんだろうって思うよな。前田さんって、天野を家に招待したことってあるの?」

「いや、家に誰かを招待することなんて無いよ。私はいとこのお家にお世話になってる身だし、誰かを招待することはこれからもずっとないと思うよ」

「それって嘘じゃないよね?」

「うん、そんな嘘はつかないよ。それがどうかしたの?」

「嘘じゃないならいいんだ。それともう一つだけ良いかな?」

「何かな?」

「前田さんが一緒に居る男の子って、前田さんの彼氏?」

「嫌だな。そういうのじゃないよ。昌晃君は私がお世話になっている家の息子さんで私のいとこだよ。年齢で言うと私の妹と同い年だけど、恋人同士に見えた?」

「どうだろう。離れてみてると姉弟のようにも見えるけど、こうしてみると恋人同士に見えないことも無いような気がするだよね。でも、俺の主観なんてどうでもいいや。二人はいとこ同士って事で間違いないんだよね?」

「うん、間違いないよ。ねえ、昌晃君は私といとこ同士だもんね?」

「そうですよ。僕と沙緒莉姉さんはいとこ同士です」

「良かった。ちなみにこれは俺達が個人的な興味で聞いちゃうんだけど、前田さんって付き合っている人っているの?」

「私に?」

「そう、前田さんの話」

「私はいないよ。それがどうかしたの?」

「いや、ちょっと気になっただけなんだよね。でも、彼氏がいないんだったら天野には本当に気を付けてね。あいつって、ちょっとどころかおかしいことだらけだからさ。頭も良いし外面もいいから大人には信用されているんだけど、結構ヤバいことも平気でやっちゃうような奴だからさ。変な事に巻き込まれそうになったら俺達を頼ってくれてもいいからね。前田さんのいとこの君もさ、前田さんが変な事に巻き込まれないように見守っててね」

「変な事が無くても見守りますけど、あの天野さんってそんなにヤバい人なんですか?」

「俺達は幼稚園からずっと一緒なんだけど、天野って小さい時から自分が気に入ったモノには執着しちゃうんだよね。それが物だったり人だったり様々なんだけど、とにかく気に入ったものを自分の物にしようとするんだよ」

「それって、あの本屋での出来事みたいな感じなのかな?」

「俺達はそれを見てないから何とも言えないけど、いとこ君が思ってる通りで間違いないと思うよ」

「だとしたら、僕も天野さんっておかしいんじゃないかなって思いました。でも、どうしたらいいんですかね?」

「そうだね。天野の興味が他に移ればいいんだけどさ、如何したらそうなるんだろうね。それか、いとこ君と前田さんが本当は付き合っていることにして諦めさせるってのはどうかな?」

「おお、結構いい考えじゃね」

「確かに。天野って自分の物にならないって思ったらあっさり諦めることあるもんな」

「でも、今回のって大学生になってからずっとだから長くないか?」

「そう言われてみればそうかもな。でも、天野から前田さんを守るためにはそうするしかないもんな」

「いや、僕の代わりにあなた達の誰かがその役割を担ってもいいんじゃないですか?」

「無理無理無理。俺達は長い付き合いだからわかるけど、仲間だと思ってるやつが裏切った時が一番ひどいからね。ここでは言えないけど、結構ひどい目に遭うんだよな」


 僕は本当に家に帰りたかったのだが、この男の人達は中々僕たちを解放してくれなかった。どうでもいいような話をしているように見えたのだけれど、いつの間にかその輪の中に沙緒莉姉さんも溶け込んでいたのは驚いた。

 沙緒莉姉さんにとって天野さんとはそれくらい警戒すべき人物なのだろうか。僕も短時間しか接触はしていないのだけれど、その後に見た沙緒莉姉さんと天野さんのやり取りは確かに常軌を逸しているようにも思えた。

 僕と沙緒莉姉さんはこの人達の中では仮で付き合っていることになったようなのだが、天野さんはそれを本当だと信じるのだろうか。どっちにしろ、外を出歩く時は警戒をした方が良さそうだとは感じていた。


 男の人達は最後に僕たちに謝ってから帰っていった。僕と沙緒莉姉さんは男の人達が見えなくなるまで見送ってから家に入ることにした。家の場所はもうバレているようだったけれど、なんで天野さんが直接来なかったのかは疑問だった。


「でもさ、私ってゼミでもあんまり男子と話したことが無いんだよね。天野君は時々話しかけてくるから少しくらいはお話ししたことあるんだけど、さっきの人達は名前もちゃんと覚えてなかったりするんだよね」

「でも、ゼミが一緒の人なんでしょ?」

「そうなんだよね。それにしても、なんであの人達ってダメだってわかってるのに天野君のいう事に従ってるんだろうね。ちょっと不思議だな」

「何かで脅されているのかもね」

「それはあり得るかも。じゃあ、私も脅かされたら怖いからさ、彼氏である昌晃君に守ってもらわなきゃね」

「付き合ってるふりですよね?」

「そうかもしれないけど、敵を騙すにはまずは味方からっているじゃない。陽香と真弓を騙すことが出来るか試してみようか」

「いや、その二人は騙されたりしないでしょ」

「わかんないよ。とりあえず、家に帰ったら恋人らしく一緒のお風呂に入ろうか」

「恋人らしくって、ふりですよね?」

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