真弓は白黒ハッキリさせたい
沙緒莉姉さんは陽香や真弓と比べると大人だけあってスタイルもいいのだけれど、なぜか僕は沙緒莉姉さんに対して特別何かを感じるということは無かった。それがどうしてなのかはわからないし、クラスの女子だったとしたら僕に好意を向けてくれなくても意識してしまうと思うのだけれど、なぜか僕は沙緒莉姉さんに対してそういう感情を抱くことは無かった。もちろん、陽香や真弓に対してもそう言った感情を持つことは無いのだけれど、なぜかその中でも沙緒莉姉さんに対して女性という認識が出来なかったのだ。
それがどうしてなのかなと思っていたのだけれど、きっと僕の前で服を脱いで下着姿になることが多いからなのだと思う。母さんも僕が小学生の時くらいまでは沙緒莉姉さんみたいに下着姿でウロウロしていたこともあるし、おばあちゃんの家に泊りに行った時におばあちゃんがお風呂に入る前にほぼ全裸で歩いていたこともあった。もしかしたら、僕にとっての沙緒莉姉さんは母さんやおばあちゃんと同じような認識になっているのかもしれない。陽香や真弓の下着も時々見えることはあるのだけれど、沙緒莉姉さんや母さんたちみたいに堂々と見せるわけではなく僕が気付いて見えてしまうというものなので、もしかしたらそう言った違いが僕の中で沙緒莉姉さんに対する感情と陽香と真弓に対する感情で違いが生まれているのかもしれない。
しかし、そうだろうと思ってはいるのだけれど、沙緒莉姉さんの部屋は使い始めてまだ一日しか経っていないというのにとてもいい匂いがして心が安らいでいるのを感じていた。ほのかに香るしつこくない甘い匂いがとても心地良く、僕はいつの間にか目を瞑って匂いを堪能していたのだった。
「昌晃君は目を閉じちゃってどうしたのかな。もし、眠いんだったらこっちの布団で一緒に寝ようか?」
「いや、それは遠慮します。でも、なんか沙緒莉姉さんの部屋っていい匂いですよね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。私はたぶん匂いフェチなんだけど、小さい時からこの甘い匂いが好きなんだよね。昌晃君が気に入ったなら今度買う時にプレゼントしようか?」
「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ。そう言えば、沙緒莉姉さんから時々感じる甘いいい匂いってこの部屋の匂いだったんですね」
「自分ではそこまでわからないけど、そう言ってもらえるなら嬉しいな。それとさ、陽香と真弓もいい匂いがするんだよ。昌晃君って二人の部屋に入ったことある?」
「僕は陽香の部屋は無いですね。真弓の部屋はちょっと入ったことがあるけど、沙緒莉姉さんの部屋みたいに匂いで何かを感じるって事は無かったと思いますよ」
「真弓はあんまり芳香剤とお香とかは使わないからね。陽香もそうなんだけどさ、あの二人ってとても鼻がいいからそういう匂いの強いものって部屋に置きたくないのかもしれないな。私はそこまで匂いに敏感じゃないから大丈夫なんだけど、陽香も真弓もしばらくは私の部屋に入ってこないかもね」
「それって、この匂いが強く感じるからですか?」
「そうだと思うよ。今だって普通に考えて私を起こしに来るのは陽香が妥当なんだけど、実際に私を呼びに来たのは昌晃君だもんね。それってさ、陽香が私の部屋に入りたくないからって可能性もあったりするんじゃないかな。実家にいる時も二人が私の部屋に入ってくることなんてほとんど無かったからね。でも、私についた匂いだったら平気みたいでさ、姉妹三人の仲はとても良かったんだよ。今も良いんだけどね」
そう言って沙緒莉姉さんは僕のパーカーを脱いで高校のジャージに着替えていた。沙緒莉姉さんはここからは少し離れたところにある高校に通っていたと聞いたことがある。その高校も進学校であることは間違いないのだが、大紅団扇大学に進学する生徒はほとんどいないようで、そのほとんどが地方の国公立大学へと進学していると聞いたことがある。もちろん、その中には僕の家からも通える国公立大学があるのだけれど、沙緒莉姉さんはわざわざ大紅団扇大学を一般で受験して合格しているのだ。これは後で聞いた話なのだが、沙緒莉姉さんは日本国内だけでなく海外の大学からもいくつか合格通知が届いていたようなのだが、あえて大紅団扇大学を選んだとのことだ。おそらくだが、沙緒莉姉さんは陽香と真弓が心配で同じ学校に通うために大紅団扇大学を選んだのだと思う。そんな姉妹愛が強いのは素晴らしいことだと思うのだけれど、パーカーを脱いでジャージに着替えるのだったらパッと着替えて欲しいものだ。ジャージの前と後ろをそこまで迷う必要があるのだろうかと思うくらい念入りに調べていたのだけれど、どうしてそんなに時間をかける必要があるのだろうと心底疑問に思っていた。それに、下がジャージで上がパーカーならなんでパーカーを一度脱いだのかその疑問にも答えてもらいたいと思っていたりもした。
「うーん、やっぱりこのパーカーは落ち着くわ。最近は陽香も真弓も私に服を貸してくれなくなったのよね。私に貸すと服が伸びるから嫌だって言うんだけど、それって私が太ってるって言いたいからなのかな?」
「いや、そうじゃないと思いますよ」
「そうじゃないと思うって、どうして?」
「どうしてって、二人に比べると大人ですからね。沙緒莉姉さんが大人だから二人もあんまりそういう大人っぽいのを持ってないからって言うか、真弓は身長的にサイズが合わなそうだし、陽香は身長面では問題無くても胸のサイズが違うからじゃないかなって思うんですよね」
「あはは、そうかもしれないけどさ、それを陽香には言わない方が良いよ。あの子って結構その事で悩んでて、視線とかにも敏感だからね。昨日だって寝る前に陽香と少し話したんだけどさ、昌晃君が陽香の胸ばっかり見てるって気にしてたよ。もしかしてさ、昌晃君って貧乳が好きなの?」
「え、いや、そう言うわけじゃないですけど、たまたま見てた時があっただけでそういうのじゃないと思うんですけど」
「本当かな。でもさ、昌晃君って私が下着姿になっても変に動揺したりしないよね。もしかして、いろんな女の子の下着姿って見慣れてたりするのかな?」
「いやいやいや、そんなことは無いです。沙緒莉姉さんみたいにがっつり見せてくる人なんっていなかったですし、かといってチラチラと見える状況ってのも無かったと思うんですよね。でも、三人が来てからそういうのが一気に押し寄せてきたんですよ」
「一気に押し寄せてきたって意味が分からないんだけど」
「えっとですね、簡単に説明すると、沙緒莉姉さんは別として、陽香と真弓は時々見える時があるんですよ。でも、僕はなるべく見ないようにしてるんですけどね」
「え、でもさ、あの二人ってそんなに見える服とか着てないと思うんだけど」
「まあ、普通にしていれば見えることは無いんですけど、二人ともゆったりとした服が多かったりショートパンツも裾が広くてサイズもあってなかったりすると、その隙間から見えたりするんですよね。もちろん、僕は見なかったふりをしてますけどね。そういう時って見えているよって教えた方がいいんですかね?」
「人にもよると思うんだけど、真弓はきっと言っても平気ね。あの子は周りからどう見られているから気にしないってのもあるんだけど、そう言ったところを言ってもらえるという事で結果的にはプラスみたいなものじゃないかな。真弓は自分から見せてるって自覚は無いだろうし、そういうところをちゃんと教えることで恥ずかしいって気持ちを持ち始めたりするんじゃないかな」
「そうですね。僕も真弓はもう少し人を疑った方がいいような気がするんですけどね。
「でもね、陽香には絶対に言っちゃ駄目よ。あの子はきっと恥ずかしさとショックで寝込んでしまうと思うのよね。だから、もしも見えていたとしても直接言っちゃだめだからね。私に言ってくれればそれとなく陽香には伝えるからさ」
「それは分かったんですけど、なんで脱いでから着直したパーカーをもう一度脱いでるんですか?」
「なんでって、この服からは昌晃君の匂いがしているからね。なんだから、落ち着くいい匂いだわ」
いい加減沙緒莉姉さんの下着姿にも慣れてきたのだ。慣れない方が良いのか慣れてよかったのかわからないけれど、僕は完全に目を覚ましている沙緒莉姉さんをこのまま置いておいてもいいのではないかと感じてきた。
「じゃあ、それに飽きたら下に来てくださいね。きっと母さんと陽香が料理を作ってると思うので、冷める前に食べた方がいいと思いますから」
「大丈夫。これは結構いいパーカーだからそんなに簡単に匂いも消えないと思うのよね。問題なのは、この部屋の匂いがパーカーに沁みついちゃうって事なのよね。そうだ、その辺にかけておくのではなく、布団の中で大切に保管しておこうかな。ねえ、いいよね?」
僕は沙緒莉姉さんの言葉を最後まで聞く前に部屋を出ていた。結局僕は沙緒莉姉さんの所に何をしに行ったのかわからなかったのだが、僕が自分の部屋に入ろうとしているタイミングで真弓が廊下に出てきたのだ。
「お母さんとたくさん話せたの?」
「うん、たくさん話せたよ。お兄ちゃんが私にも優しくしてくれるって言ったら、ママは凄く喜んでてたよ。私はママに色々と心配かけたりもしてたんだけどさ、お姉ちゃんたちだけじゃなくてお兄ちゃんもいるから大丈夫だって言ったよ。ママはおじさんとおばさんにもよろしくって言ってたよ」
「真弓も嬉しそうな顔をしてるし、電話で話せてよかったな」
「うん、凄く良かった。それでね、お兄ちゃんにお願いがあるんだけど聞いてもらってもいいかな?」
「変な事じゃなかったらいいよ。お風呂について来てとかは無しね」
「大丈夫だよ。アレは昨日だからお願いしただけだし。今日からしばらくは一人でも大丈夫だからね。でも、怖い話を聞いた次の日はダメかも」
「聞いた当日じゃなくて次の日がダメなの?」
「うん、だってさ、幽霊だってそんなにすぐはこれないでしょ。だから、聞いた当日よりも翌日の方が危なかったりするんだよ」
「もしかしてさ、真弓って霊感とかあったりする?」
「全然ないと思うよ。もしもさ、そんな力があったら今とは違う進路を選んでいたかもしれないからね。そうそう、お兄ちゃんに頼みたいことなんだけどさ、ご飯を食べる前に真弓とゲームしてもらってもいいかな?」
「ゲームくらいならいいよ。何のゲームがいい?」
「そうだな。テレビゲームじゃなくてアナログなやつがいいかも。オセロとかあったりするかな?」
「多分あると思うよ。リビングにあるかわからないけど、母さんに聞いてみるよ。でも、なんでオセロが良いの?」
「単純に頭を使ったゲームとかしてみたいなって思っただけだよ。お兄ちゃんも陽香お姉ちゃんと同じくらい頭がいいって事だと思うんだけど、お兄ちゃんと陽香お姉ちゃんのどっちが頭が良いのかなって思ってさ」
「単純に勉強に関してだったら陽香なんじゃないかな。ゲームとしての頭脳だったら僕の方が上かもしれないけど、オセロとなると話は変わってくるかもね」
「そっか、私もオセロは苦手なんだけどさ」
オセロが見つからなければテレビかパソコンでオセロをやればいいのだろうけど、きっと真弓は自分の手でオセロをやりたいんだろうな。僕は母さんにオセロのある場所を聞いてみたのだけれど、庭にある物置に入っているかもしれないという事だった。外が完全に暗くなると探すのも面倒になりそうだと思ったので、僕は懐中電灯をもって物置へと向かった。
僕は物置の前に立って取っ手に手をかけたのだが、物置の扉は全く動く気配が無かった。物置には当然鍵がかかっていたのだけれど、僕はその鍵を持っていなかった。鍵を取りに戻るのは面倒だったのだけれど、こればっかりは仕方ない。そう思って後ろを確認せずに振り返ったのだが、ちょうど僕の後ろに真弓が立っていたようで、僕がいきなり振り向いたのでびっくりして尻もちをついてしまった。
僕は座り込んでしまった真弓に手を差し出して立たせてあげると、お尻についた土をほろってあげた。真弓は少しだけビクッとしていたのだけれど、その瞬間に僕はマズいことをやってしまったと後悔してしまった。だが、真弓は僕の行動に足して嫌悪感を抱くことは無く嬉しそうに物置の鍵を差し出してくれた。
僕は持っていた懐中電灯を真弓に任せて物置の中を捜索し始めたのだが、全く迷うことなく目的のオセロを見付けることが出来たのだ。まるでつい最近置いたように綺麗な状態だったのだが、これから使う事を考えると好都合ではあった。
「わあ、お兄ちゃんってものを探すの上手いんだね。こんなに簡単に見つかるとは思わなかったよ」
「そうだね。僕もこんなにすぐに見つかるとは思ってなかったよ。真弓に懐中電灯を頼んだ意味も無かったね」
「そうだね。でも、この事は陽香お姉ちゃんには黙ってることにするよ」
「え、なんで?」
「だってさ、この事を陽香お姉ちゃんに説明するとしたらさ、お兄ちゃんが真弓のお尻を触ったことも言わないといけなくなっちゃうからね」




