沙緒莉も匂いフェチ
陽香は何も言わずに僕の隣に座っていた。時々僕の顔を見てため息をついていたのだけれど,一体何を思っているのだろうか。僕には陽香が何をしたいのかわからなくて混乱していた。それでも、僕は何も言ってこない陽香を気にしながら読みかけの漫画をパラパラとめくっていた。
「昌晃ってさ、真弓の事をどう思ってるの?」
「どう思うって?」
僕はこの部屋に入ってから初めて口を開いた陽香の意外な言葉に驚いてしまったが、そんな事を感じ取らせないように冷静を装って答えた。きっと、顔にも声にも違和感はなかったはずだ。
「どうって、真弓と遊んでくれるのは嬉しいけど、それって一緒に暮らしていくイトコとして遊んでくれているのか、それとも」
「それとも?」
「代用品として遊んでるだけなのかなって思ってさ」
「代用品ってどういうこと?」
「それはさ、昌晃って友達いないじゃない。だから、その友達の代用品として真弓と遊んでるのかなって思ってさ」
「いやいや、ちょっと待ってよ。僕に友達がいないってなんで決めつけてるのさ」
「なんでって、昨日と今日の行動とこの部屋を見て感じたからかな」
「もしもだよ、仮に僕に友達がいなかったとして、どういう根拠で友達がいないって思うわけさ」
「気を悪くしないで聞いてもらいたいんだけどいいかな。まず、用意してあったコントローラーが全部未開封の状態であったって事ね。もしもの時のために呼びを用意してあるって言われたらそれまでなんだけど、その割には種類も数も多いと思うのよね。最初は私達が一緒に暮らすことになったから用意してあったのかなとも思ったんだけど、私達が昌晃と一緒に暮らすことになったのを知ったのって制服を取りに行ってくれた後だったんだよね?」
「そうだけど。でもさ、友達が自分のを持ってくる可能性だってあるじゃない。それについてはどう思うのさ」
「確かにね。その可能性も否定できないとは思うけど、何よりも不思議なのは、昌晃のスイッチってフレンドリストに誰もいなかったのよね。最初はみんなで遊ぶように新しいアカウントを作ったのかなって思ったんだけど、スイッチの中に入ってるアカウントって一つだけだったのよ。昨日寝る前に私と真弓でフレンド交換しに行った時に見たんだけど、家に遊びに来るような友達がいるなら当然フレンドになってるだろうし、オンラインで遊ばない時だって交換くらいするんじゃないかなって思ったのよ。でも、スイッチを持ってない友達と遊んだ可能性もあるだろって言うかもしれないけど、そうなってくるとコントローラーが新品未開封の状態ってのが疑問なのよね。スイッチを持ってないのに自分のコントローラーなりジョイコンを持ってるって変な話だと思うんだけど、どうかな?」
「いや、別にスイッチで遊ぶのだけが友達じゃないし。ほら、スマホでもゲームとか出来るんだよ。陽香だってスマホで遊んでたりするだろ」
「うん、私もスマホで遊んだりするよ。でもさ、昌晃って基本的にスマホを持ち歩いていないよね。買い物行くときもそうだったけど、下に降りている時も持ってなかったと思うし、今だって手元にないよね。机の上にあるようだけど、アレって充電しているわけでもないよね。それってさ、必要な時以外はスマホを見てないって事だよね。昌晃ってスマホで誰かとやり取りとかしてないんじゃない?」
「え、そんな事ないと思うけど。ほら、すぐに返事をしないといけないってわけでもないし、あんまり自分の時間を束縛されるのって好きじゃないんだ。それにさ、友達だからって男子は毎日連絡を取り合ったりなんてしないんだよ。遊びたいときにだけ連絡を取り合うって感じだからね」
「あのね、私は昌晃に友達がいないのを責めているんじゃないの。昌晃が真弓に対して友達の代用品として扱ってるんじゃないかって心配しているのよ。そりゃ、友達がいない昌晃にとって真弓はゲームをやってくれる身近な人って感じでもいいと思うんだよね。でもさ、これから高校に通うようになって昌晃に友達が出来たら真弓は今みたいに遊んでもらえなくなっちゃうんじゃないかなって思うと、私はそれがとても心配なんだよ。真弓はさ、通っていた小学校でもちゃんとした友達が出来なくて、いつもさみしそうにしているのを見てたんだ。全く別の環境で今までの知り合いが一人もいない中学校に通うことになって友達が出来るかもしれないけど、小学校の時みたいに友達が出来ないまま卒業する可能性だってあるんだよ。私もお姉ちゃんも真弓が可愛くて大切なんだけど、真弓の寂しさを全部埋めてあげることなんて出来ないんだよね。だからさ、昌晃に友達が出来たとしても時々で良いから真弓と遊んでもらえたら嬉しいな」
「あのさ、さっきから僕に友達がいない前提で話しているみたいだけど、僕にだって友達はいるんだよ。今は連絡を取り合ってないだけでちゃんと友達はいるんだけど」
「それってさ、幼稚園の時の友達の話かな?」
「え、なんでそんな事を言うのかな?」
僕は陽香の発言で腰を抜かしそうになってしまった。なんでそんなところまで知っているんだろう。もしかして、陽香は僕のストーカーか何かなのか?
「ごめんね、昌晃が真弓とゲームしてくれて嬉しいなっておばさんたちと話してたんだけど、その時におばさんが教えてくれたんだよ。昌晃は小学校に入ってから友達と全然遊ばなくなったって。通知表にも勉強は出来るけど一人でいることが多くて人間関係で悩んでいたりするのか心配だと書かれていたって言ってたし、休みの日に家族で近所に出かけても昌晃は誰とも話したりしたことが無かったって言ってたな。それでも三年生くらいまでは学校で誰々と話をしたって教えてくれていたんだけど、ある時から急に学校の事も話さなくなったって言ってたのよね。大紅団扇大付属高校を受けるのも同じ中学の生徒が合格出来ないと思って受験したんじゃないかなって心配してたんだよ。高校では友達出来るといいなっておばさんもおじさんも心配しててさ、私も何かの時は協力してあげてねってお願いされちゃった」
僕は生まれて初めて両親に対して不信感を抱いてしまった。僕に友達がいないのは事実だとしても、それをわざわざ陽香に言うことは無いだろう。それに、僕の友達作りを手伝ってくれってのは、完全に僕は人間関係を構築することが出来ないと言っているような物ではないか。いや、それは実際そうなので何も言えないが、そこまで僕の事を教える必要もないだろう。
それにしても、なんで陽香はそんな事を僕に言ってくるんだろう。もしかして、沙緒莉姉さんは僕に下着を見せるのが趣味で、陽香は僕を精神的に追い詰めることが趣味だったりするのだろうか。もしもそうだったとしたら、僕はこれからの生活を無事に送る自信なんて無くなってしまうのだ。それに、僕を精神的に追い詰めつつも腰のあたりからパンツが見え隠れしているのはいったい何の意味があるのだろうか。ハッキリと見せつけてくる沙緒莉姉さんとは違ってチラッと見えるだけの陽香のパンツに少し興奮してしまうのは何故なのだろうか。ハッキリ全貌を拝むよりも一部分だけが見えている状態の方が僕好みという事なのだろうか。いや、そんな事はどうでもいい話だ。
「それでね。昌晃の友達作りに協力するのは構わないんだけど、その代わり私のお願いを一つ聞いてもらえると嬉しいな」
「お願いって何?」
「それはね」
隣に座っていて十分に近い距離ではあるのだが、僕のお尻のすぐ後ろに左手をついて膝立ちで近付いてきた陽香は僕の耳元に聞き取れるくらいの小声で呟いた。
「時々で良いから今みたいに真弓と遊んであげてね」
僕はその要求に驚いて顔を陽香の方へと向けてしまった。耳元にあった陽香の顔にぶつかりそうになってしまったが、何とかぶつかることは無くギリギリの距離で見つめ合ってしまった。咳をしただけでも触れ合いそうな距離ではあったが、僕と陽香はお互いに息を止めているのか全く動くことは無かった。
永遠とも続くかのように思えたその時間ではあったが、僕がそのまま後ろに倒れこむと陽香は楽しそうに笑っていた。僕は何がそんなに面白いんだと思っていたのだけれど、同じく陽香も僕の横に倒れてきた。
「私ってさ、あんなに近い距離で人の顔見たの初めてかもしれない。ちょっと近過ぎてドキドキしちゃったけど、昌晃が慌てて後ろに倒れるの見ておかしくておかしくて仕方なかったよ。もしかしてさ、昌晃もドキドキしたの?」
「別に、そんなんじゃないけど」
「そっか、それならそれでいいんだけどさ、毎日じゃなくてもいいんで真弓と遊んでくれたら嬉しいな。ただでそんな事したくないって言うんだったら、さっきの距離で見つめてあげてもいいよ」
「え?」
「やだなぁ、冗談だよ。冗談。でも、昌晃がしたいって言うんならさ、特別に良いよ」
「いや、別に見返りなんかなくても真弓とはゲームすると思うよ。僕に新しく出来る友達がゲーム好きとは限らないしね」
「そっかそっか。残念残念。でも、真弓と遊んでくれるって言ってくれてありがとうね。私が寝ている間に真弓がLINEくれてたんだけど、そこには『昌晃が遊んでくれて嬉しい。ここに来て本当に良かった。』って書いてあったよ。だからさ、私とお姉ちゃんも真弓とは遊ぶけど、昌晃もよろしくね」
僕はそれに対してそっけない返事を返したのだが、それは真弓と遊ぶのが本当は嫌だからとかではなく、先程陽香の顔を間近で見た恥ずかしさが残っているからだ。陽香は別に普通の事のように表情には出していないのだけれど、ドキドキしたと言っていたのは嘘だったのだろうか。本当にドキドキしているのか心臓の音を聞いてみたいと思ったけれど、それを言ってしまうと変な風に誤解されてしまいそうだと思って遠慮することにした。
だけど、陽香の胸元は仰向けに寝ていることを考えても膨らんでいるようには見えない。一応膨らんではいるのだけれど、その綺麗な形は陽香の胸の形ではなくパッドか何かの形なのだろうと思う。僕と真弓には友達がいなくて沙緒莉姉さんには羞恥心が無い。そして、陽香には胸が無い。そんな事を考えていると自然とニヤニヤしてしまっていた。僕はそれを悟られないように陽香に背を向けつつ足元に落としてしまった漫画を拾い上げた。
「じゃあ、私は晩御飯の支度でも手伝ってこようかな。真弓はまだ電話してるかもしれないんでそっとしておいてほしいんだけど、お姉ちゃんの事はそろそろ起こさないとね。このままだったら明日の朝まで起きないかもしれないんで、悪いけど昌晃が起こしてきてくれるかな?」
「え、僕が起こしに行くの?」
「そうよ。朝だけは寝起きが悪いけど昼寝の時は大丈夫だから心配いらないわ。きっと、ドアを開けるだけで起きてくれるから」
陽香は僕の部屋を出てそのまま自室に入っていった。出てきたときはエプロンを身に着けていたのでそのまま晩御飯の手伝いでもするのだろう。お昼に食べた陽香の手作り餃子は美味しかったのだけれど、味自体はとっても薄かったので付けダレが無ければあんなにたくさん食べられなかったかもしれないな。
そんな事を考えながらも僕は陽香に言われた通りに沙緒莉姉さんの部屋のドアをノックした。そのノックに返事は返ってこなかったのだけれど、僕はドアをゆっくりと開けることにした。陽香の話ではドアを開けるだけで目を覚ますという事だったが、それは本当なのか信じることは出来なかった。
部屋の明かりはついていなかったのだが、外からわずかに差し込む西日の影響で部屋の中はハッキリと確認出来たのだ。沙緒莉姉さんは部屋の端に敷かれている布団の中にいたのだが、ドアを開けているのが僕だと思うと無言で手招きをしてきた。
沙緒莉姉さんが手招きをしていた時に僕の貸しているパーカーを着ていることが確認できたので恐る恐る部屋の中に入ったのだが、沙緒莉姉さんは布団のすぐ隣をバンバンと叩いてそこに来るように僕を誘導していたのだ。
僕は仕方なく沙緒莉姉さんの指定した場所に座った。沙緒莉姉さんはサンタさんが置いていったクリスマスプレゼントを見付けた子供のような笑顔で僕を見ていた。僕はその満面の笑みを見て少し嫌な予感がしたのだけれど、その予感は悪い意味で的中してしまったのだ。
「うーん、昌晃君がいけないんだよ。昌晃君が貸してくれたこのパーカーから君の匂いがしているんだけど、そのせいで君の夢を見てしまったよ。だから、もう一度夢の続きを見るためにも君に協力してもらわないとね」
「ちょっと、やめてください。夢と現実を一緒にしちゃ駄目ですって」
僕は沙緒莉姉さんに抱きしめられながらも一生懸命にその体を遠ざけようとしていた。その際に全く偶然ではあるのだが、僕の手が沙緒莉姉さんの胸に触れてしまった。その感触は今まで感じたことも無いくらい自然な柔らかさで、僕の手がそれから離れるのを拒むような気さえしていたのだった。
「ちょっと、触るのは反則だよ。昌晃君が私の体に触りたいって気持ちはわかるけど、それはさすがにやりすぎだと思うんだ。だってね、私達はいとこ同士だからさ」
沙緒莉姉さんの言っていることは至極真っ当だとは思うのだけれど、それを言うのだったらせめてズボンなり短パンなり何かを下に履いて欲しいと思った。パンツを丸出しでそんな事を言われても僕には説得力が無いように思えて仕方がなかった。
僕はこうして簡単に見えるパンツよりも時々見えそうなのに一部しか見えないパンツの方が好きなんじゃないかと思ってしまったのだけれど、これは誰にも言えないな。




