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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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「霧さん、いまのお気持ちをどうぞ」


 ホーリーが去った後、俺は微妙な表情で空のコーヒーカップを睨む霧に尋ねた。


「え?」


 すごい顔で睨まれた。


「私……小説はミステリーが好きなのよ」

「あっ、はい」

「だから……ね。できればあの人が密室殺人をするために聖者セットが必要なんだって言ってくれた方が……」

「むしろそこは、俺たちを操作するために美談を作ったって言うべきじゃないか?」

「……なるほど、その線もあるわね」


 しばらく考え込むと霧は深く息を吐く。


「だめね。読んでいるときは名探偵のつもりだけど、現実だとうまくいかないわ」

「いやぁ、騙される前提で考えるのもなぁ」


 人の善意を信じたいよね。

 というか、俺たちどちらもホーリーの境遇に感情移入する気は百パーゼロだな。

 ホーリーももっと人を見てから話をすればよかったのにな。


「彼の事情なんてどうでもいいのよ。今問題なのは私に見えている二つの未来。私の行動次第でどっちにもなりえるっていうことなの」

「またレベル上げしに行くか?」

「……いえ、レベルはもう十分なはずよ。言ってなかったけど、初日のレベル上げで【未来視】っていうスキルを獲得できたから」

「ほう」

「占い師と魔眼導師の融合的なスキルだと思う」


 なるほど。それでアキバドルアーガの宝箱や黄金のランダムボックスの乱数を当てていたってことになるのか。


「スキルやレベルだけじゃない、なにか別の要因があるはずなのよ。悪いけど、今日はそのことを考えたいから」

「わかった。自由にしてな」


 というわけで自由時間だ。

 いや、ずっと自由時間だっただろって話でもある。個人行動タイム? まぁそんな感じ。

 さて、なにをするか?

 一人でプールでだらだらするか?

 うーん?


「~~~~~~」

「うん?」


 なんてことを考えながら船上をうろうろしているとなにかが聞こえた気がした。

 どこかの誰かの会話が聞こえて来たというのではない。

 歌……か?

 ここの船内会場は夜はオークション&ディナーで、昼はバンドなんかがショーを行っていたりもする。

 だらだらと散歩をしていたからいまは船尾の辺りにいる船内会場の音が聞こえてくる場所ではない。

 なら、バンドが練習をしている? 楽器の音は聞こえない。誰かが歌っているだけ? にしてはなにか、音の響き方が違うような?


「ああ……お前か」


 特に音の正体を確かめたかったわけではないが、歩いているとそれに行きあたってしまった。


「ふえ?」

「妖精か」

「ふえええええ!? なんで見えてるんですか?」


 あざとい驚き方をしているのは背中に半透明の蝶の羽のようなものを生やした妖精だ。

 いわゆる妖精めいた可愛らしい姿だというのに、なぜか昔の船長みたいな恰好をしている。


「ここの人たちはキャプのことは見えないのに、なんで⁉」

「他の異世界帰還者とは違うのだよ」

「は~……そんなことがあるのですか」

「あるのだよ」


 素直に感心する妖精から話を聞く。

 この妖精。名前はキャプテンなのだが……彼女が言うにはこの豪華客船クラウン・オブ・マレッサの船長なのだという。

 この船はとある魔導技師が設計しており、キャプテンは完成の時にその魔導技師から船長の座を任されたのだという。

「船霊的扱いじゃね?」と思ったがドヤっているキャプテンを見るとさすがに黙っておこうと思った。

 だって、初日の食事の時に船長から挨拶されたからな。人間の。


「あれは影武者だもん!」


 とかキャプテンは言っているがお察し……だろう。

 そういえばこの声には覚えがある気がする。オークションの品が並べられている部屋で聞こえた声だ。

 聞いてみると誰にも見られないのをいいことに船内のあちこちをうろうろとしているらしい。


「あ、あそこのカップル、昨日は大ハッスルだったよ!」

「ほう」


 と、通りがかりの男女を指さす。二人はキャプテンのことは見えていないようで、男が俺に目を奪われたのを女の方が見咎めて睨んでくる。俺を。なぜ彼氏を責めない。

 心配しなくてもあんたの方が巨乳だよ。


「そういえばあなたの部屋には入れなかったわ。なんだか怖かったのよ」

「そりゃ、入らないで正解だな」


 暗殺者対策を自然とするからな。妖精のこいつが勝手に入ろうとしたら死霊系のアンデッドが自動で迎撃するようになっている。

 本能で危機を察知したのだろう。


「そういえば、あなたあの龍を保護してくれたのよね。ありがとう」

「なんだ、知り合いか?」

「まっさかー。でも、キャプと同じような存在でしょ? 窮屈そうで可哀想だったから誰かに助けてほしかったの。だから、ありがとう」

「……どういたしまして」

「あなたは良い人ね。お姉さんなのかお兄さんなのかよくわからないけど」

「そこまでわかるか」

「まぁね。キャプはすごいから!」

「だけど、どうして俺だけ見えるのかはわからない」

「そうよ! どうして!?」

「うーん、それはたぶんだが……」


 奇襲対策に色々と予防をしているのが理由かもしれないが、それ以外だと……【昇仙】とか【昇神】とか、この辺りが原因だろう。

 仙法としての【瞑想】は己の内に気を貯めて丹を練り、仙人となり神へと至るのが目的だ。

【昇仙】や【昇神】は仙法としての上達の過程であり最終到達点であるが、そこに至れば常人では見えないようなものも自然と見えるようになる。

 妖精もその中の一つだ。


「まぁ、修行の賜物だな」

「ふうん……やっぱりあなたって他の人とは違うみたいね」


 それからクラウン・オブ・マレッサは常に太平洋をグルグルと回っているだとか、どこそこの海底にお宝がありそうだとか。幽霊船を見たとか、そんな話をして過ごした。

 五日目と六日目のオークションでは黄金のランダムボックスは出品されない。

 残り二品は七日目に出る。

 俺の異世界宝石と同じ日だ。





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