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「ボーナスターーーーーイム!!」
俺は嬉々として叫んだ。
「へ?」
「……はぁ」
Lは呆気にとられ、霧はため息を零す。
これが付き合いの差というものか。
俺たちがいるのは広めの十字路。狙ってこの場所にモンスター呼びの罠を設置したんだろうな。
まさしく四方からモンスターが押し寄せて来て逃げ場なしだ。
「と、とりあえずアラームを切らないと。モンスターが止まらないよ」
「その必要なし!」
「ええ!?」
慌てるLを押しとどめ、【魔骨戦車】から降りて村雨改を抜く。
「俺は北と東を受け持つ、霧たちは西と南な」
「ええ!!」
「なぁに、【魔骨戦車】もいるから問題なしだ。よしやるぞ!」
「嘘でしょう……」
「こういう人よ。諦めて」
「うわぁ……壊れ過ぎだぁ」
「ふふふ~、いつまでお前らは湧いてくるのかなぁ」
俺は楽しくモンスターの群れに突貫し、薙ぎ払う。
やっと出番が来た村雨改もやる気満々だ。振れば玉散る氷炎理の刃。斬撃と共に氷と炎の神気が放たれ、しかもお互いに相殺することなくモンスターたちを凍らせ、燃やす。
衝撃波多めの斬撃で群れを薙ぎ払っているんだが、一緒に出てくる氷炎の神気のおかげで間合いが広がってるな。これはちゃんと確認しておかないと乱戦では味方を巻き込む恐れがある。
まっ、俺が戦うときは基本生きてる仲間はいなかったけどな!
とはいえ俺の軍団に無駄な被害を与えることにもなるし、自分の能力を把握しきれていないのは弱者の証と教えられているからな。
武器の性能も自分の能力。把握できていて当たり前ってな。
北からやって来るモンスター群は村雨改の斬撃で対応し、東は魔法で対処する。【叫び唱える首塚】を複数召喚し、中位程度の射撃魔法を乱射させておく、その背後には予防線として【大食い紳士】と【大食い婦人】も配置。弾幕を抜けて来たモンスターは二人の腹にある大口でパクリだ。
二人に食われたものは粉砕されて俺のアイテムボックスに直送されるようになっている。ダンジョンモンスターは普通なら倒された段階で消滅するのだが、素早くアイテムボックスに入れたら保存できるというのはすでに実証済みだ。
【大食い紳士】と【大食い婦人】に食べられてもそれは同じ結果になるようだった。
俺はこいつらと戦っても経験値は入らないからな。それぐらいの旨味はないと。
後、船旅のせいで運動不足だったしな。
「たーのしー!」
「楽しくないわよ!」
「無駄だからやめなさいって」
【魔骨戦車】の上で霧は魔眼で攻撃し、Lも銃を撃ちまくっている。
モンスターはいつまで経っても途切れない。
アラームが鳴り続ける限り、そして罠にかかった者たちがいなくならない限り無限に湧き続けるのだろうか?
「ちょっと、ボクはもう……ギブ」
彼女の銃は所有者の魔力を弾薬にして撃ち出す魔導銃なので、魔力切れになって座り込んでしまった。
霧は俺の魔力を吸っているのでまだ戦えるようだが、連続レベルアップと魔眼の使いすぎで疲労が蓄積して動きが鈍い。
【魔骨戦車】のレーザーブレスで対処できているし、必要ならさらに追加で召喚できるから問題ないが……仕方ない、そろそろ終わるか。
「うん?」
南から何か来るな。
そいつはこっちに迫るモンスター群の隙を縫うようにして近づいてくる。
あ、こいつ知ってるな。
「たぁっ!」
息を殺して接近していたそいつは気合を入れた最後の跳躍で一気に距離を詰めると、十字路の天井で景気よく騒音を撒き散らしていたアラームを破壊した。
その瞬間、次々と湧き出るモンスター群の圧が消えた。
「さあ、すぐに片づけよう」
そいつの仲間たちが南側のモンスターの掃討を始め、そいつも見事な剣技を披露して敵を倒していく。
すぐにモンスターはいなくなってしまった。
「まったく、余計なことをする」
「アラームを鳴らしっぱなしにする非常識は誰かと思ったけど、君たちか」
俺の不満顔を呆れ顔で受け流したのは佐神亮平だ。
「うわっ、なんであんたらがここにいるのよ!?」
そして仲間の三人娘もいた。
他にもいるみたいだが、俺の知らない連中ばかりだ。
「クラウン・オブ・マレッサに行ったんじゃなかったのかい?」
「暇だからこっちで狩りでもしようかってね」
「暇って……どうやって来たのさ?」
「転移に決まってるだろ」
「決まってないんだなぁ、これが」
やはり、俺ぐらいの長距離転移ができるものはいないようだ。
……考えてみたらそうかもな。
そんな奴がたくさんいたら奇襲とかやり放題になる。
ゲームの仕様上、短距離転移しか実装していないって感じか?
こいつらの戦国シミュレーション風異世界転移って「暇を持て余した神々の遊び」感があると思ってしまうのは俺だけか?
だからって俺だけが「シリアスな世界を生きてたんだぜ」とか言うつもりもない。大変さなんてのも結局は個人の受け止め方次第だしな。
「あ、君たち、この人が将来、僕たちのボスになる方だから」
と、亮平が三人娘以外の連中に俺を紹介する。
「実力はさっき見た通り。常識外れだから心配する必要はないよ」
「佐神さんも常識外れっすよ」
と下っ端っぽい男が言った。
確かに、亮平のレベル250を超えてる奴はまだ見てないな。次に高かったのがガイルの180か。
「社員候補はここにいる仲間たち以外にもいるから、楽しみにしてくれていいよ」
「むっ。船のオークションで資金作ってやるからそっちも楽しみにしていろ」
「了解。でも嬉しいなぁ。織羽ちゃんが会社設立にやる気になってくれて」
「暇潰しにちょうどいいだけだ」
「ふふふ、そんなツンデレ風味の織羽ちゃんも魅力的だよ」
「よし、そろそろ死のうか☆」
「あ、そういえばその武器って刀だよね? 前と違うよね? オークションで手に入れたのかい?」
亮平は俺の居合をひょいとかわして村雨改をまじまじと観察する。
ちっ、まだまだ身体能力が足りんな。
「え~彼ってもしかして剣聖の佐神亮平かい? へぇ、知り合いなんだ?」
「そちらの彼女は知らない子だね。よろしく。ご存じ佐神亮平だよ」
「ルーサー・テンダロスだよ。お嬢様の新しい下僕だ」
「なら、お仲間だね」
「そういうことになるのかな?」
「……で、お前らはなにをしてるんだ?」
「もちろんアキバドルアーガの攻略だよ。いいかげん、このダンジョンも長いからねなにかあったら遅いから。どう、手伝ってくれないかい?」
「ん……」
確かにそれは興味があるが。
「ナムコスと競争になってるからね。手伝ってくれると嬉しいんだけど」
霧が何か奇妙な顔をした。
気になるがスマホで時間を確認して心を決める。
「無理だわ。もう帰る時間だ」
「そうなのかい?」
「悪いな、こっちも面白そうだが向こうでも約束がある」
約束した以上はやりきらないとな。
「そういうわけだ。攻略がんばれ」
「仕方ないね。さすがにまだ時間はかかると思うから君たちが帰って来たら頼むよ」
「夏休み中に帰れたらな」
そんな感じでこっそりとポータルストーンを設置すると転移で船に戻った。
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