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三日目。
そういえばホーリーの狙いは何なのだろう?
すでに退屈し始めているせいで他人のことが気になり始めた。
「なぁ、オークションで気になる品ってある?」
全員が集合した朝食の席で俺は聞いてみた。
今日の朝食はレストランだ。スクランブルエッグとカリカリベーコン。そして各種ジュースとミルク。パンは食べ放題。
「私は憑依眼の眼鏡ですね。色々と応用が利きそうだ」
焼きたてクロワッサンをモグモグと食べながら質問を投げかけてみるとアーロンが答えた。
「ボクはお嬢様が売りに出した異世界宝石。人が作った物より僕が作った物の方が絶対にいいもの」
「ほう。では、あの憑依眼を超える性能の物を依頼しても?」
「お値段と相談してくれるなら。お客様」
アーロンの好奇心ににやりと笑うL。そんな二人から視線を外して剛を見る。
「え? 僕?」
「そっ、一応見てるだろ?」
「見たけど……剣、かな」
「剣?」
「そっ、かっこいいのがあったんだよ」
はて、そんなものがあっただろうか?
俺がゲットした村雨改以上にカッコイイ剣なんてなかったと思うが。
日本刀はカッコイイ。
向こうでは振り回せなかったからなぁ。
「ぶははは! かっこいいだけの剣なんてどこに出番があるんだよ」
「いまさらダンジョンに潜るつもりか? ゴー?」
「う、うるさいな」
すっかり仲良くなった護衛チームに茶化されて剛が不貞腐れる。
「とはいえ剛っちの今後も考えないといけないよなぁ」
さて、異世界帰還者で犯罪者で死んだ扱いの剛君の新人生はいかにするべきか。
ちょうどいいからここで話し合うか。
「とりあえず、アーロンのところで傭兵か。ダンジョンに潜るか、一般人に紛れ込むか? ぐらいか?」
「……できれば一般人に戻りたいよ」
「なら、学生からやり直しか? 中学生はもう無理だよな」
「はい。高校生からでしたらいかようにも。……試験は受けていただきますが」
鷹島の答えにちょっとだけ剛が嫌な顔をする。勉強が嫌いなタイプか。とはいえ独学で三か国語ぐらい使えるんだったよな? 素地はいいんじゃないか?
「これまで海外で暮らしていて、両親を事故死で失い、遠縁を頼って日本に来た。というプロフィールにする予定です。遠縁になる予定の家族との契約も終了しています」
「鷹島はなんでもありだねぇ」
「恐縮です。ご主人様のお力あってのことですので」
と、遠慮する。
間接的にエロ爺を褒めろと言っている。
「はいはい。爺さんはすごいねぇ」
「ふひょひょひょひょ!」
おざなりの褒め言葉でよろこぶエロ爺。
きもい。
「まっ、ダンジョンで金稼ぎしたいなら少しは鍛えてやるよ。拾い主の責任として」
「……そりゃどうも」
五井華崇として罪を償わせるという選択肢もあるかもしれないが、その選択肢はこいつ自身がそれを選ばないのであれば俺としてはする必要はないと考える。
法律的な云々は置いとくとして……相手に「よし殺そう」と判断されるようなことをしている連中が何の備えもしていないというだけで馬鹿の極みだと俺は考える。
法律とか道徳とかいうのはそれを守ろうという精神状態を維持できなければ簡単に意味をなくす。警察も司法もできるのは法律を犯した後の事後処理であって、防犯に関してはたいした力を持たない。せいぜいが防犯意識を持ちましょうと啓発活動をするだけだ。
つまり、いじめという行為は一時の快楽で自分たちを追い詰める愚かな行為でしかない。
いじめを苦に自殺というニュースを聞くが、そんな彼らの何人かは銃を手に入れられる状況であれば教室で乱射している可能性があると俺は考える。いじめという行為は人を無意味に追い詰める行為である。つまりは自爆機能付きの狂人を作っているということだ。
爆弾を作ったら爆発した。だから爆弾が悪いとか言う奴がいたら、そいつらの頭の方こそ疑うべきだろう。
そして五井華崇は実際にもっとすごい爆弾を手に入れたにもかかわらず、それを爆発させることはしなかった。つまり精神状態が倫理や道徳を考慮することができる程度に落ち着いているということである。
それは更生した、と考えてもいい状態ではなかろうか。
「で、剛君の進路相談はこれで終了。で、ホーリーがなに狙ってるかって誰かわかんない?」
「やはり、それが気になるかの」
と言ったのはエロ爺だ。
「それぐらいしかイベントがない。もう暇」
「むう。アーロンさん、どうかの?」
「さて……ミスター・ギルバーランドが野心家なのは確かです。そして現在、異世界帰還者社会でいえば上位に入る資産家でもある。そんな彼がミスター・封月の動向を気にしてまで欲しい物となると……想像がつきませんな」
「いま、オークションに出てる物だと魅力的な物はない?」
「ですな。お嬢様にもわからないのでしょう?」
「まぁね」
昨日の内に村雨改の自慢をこいつらにしたので俺の【鑑定】が普通ではないことは承知している。
「我々にはわからない情報も開示できるお嬢様にもわからないのであれば、こちらもお手上げですよ」
「ふうん……ミステリー」
ぽつりと呟くと霧から冷たい視線が飛んできた。
すでに飽きているのがばれているかもしれない。
謎解きとかめんどくさいです。あの敵を倒しに行け、オッケーな感じのゲームが好きです。
「霧はなにか意見は?」
アーロンたちにも【鑑定】が使える者がいるので霧が珍しいクラスの二つ持ちであることはばれている。
つまり占い師としてなにか面白いことは? と聞いているのだが、彼女の醒めた視線は変わらなかった。
「この船が沈んでいないことは確かよ」
「そっかぁ」
「この船が沈むようなレベルのトラブルは勘弁してほしいですね」
と、アーロンが苦笑する。
「この船は異世界帰還者たちにとって重要な社交場でもある。なくなると多くの者を敵に回しますよ」
「敵か~そうだよ敵なんだよ」
ぽつりと呟く。霧が「あっ、こいつ余計なこと言った」と気付いてアーロンを睨む。睨まれたアーロンはその理由がわかっていないので「ん?」と首を傾げるのみだ。
理解されているというのは嬉しいことである。
「いまの俺の課題って敵がいないことだよな。なんていうか、わかりやすく世界の敵とか名乗ってくれる愉快な奴いないかな?」
そうすれば俺の人生にももっと張りが出てくるのに。
「あなたが満足できる敵ってどれぐらいを想定しているのよ?」
しかたないといわんばかりの態度で霧が先を促す。
「そりゃあ……とりあえず一人で国ぐらい取れないとな」
アメリカや中国は無理でも小国ぐらいならワンマンアーミーできないとな。
「まぁ……いないことはないですな」
やはり苦笑と共にアーロンは答え、それから何人かの異世界帰還者の名前を挙げた。
ただ、新しく聞く名前ではなかった。
全てガイルから聞いたことがある名前だ。
全員、世界各地で小国を乗っ取って王になったり強力な軍事力を背景に黒幕になっていたりしている。
ちなみに大国にそういうのがいないわけではない。アメリカ、中国、ロシアなんかにもそういう勢力が存在し、台頭する機会を虎視眈々と狙っているという状況だそうだ。
そういえばこの中にホーリー・ギルバーランドという名前はなかった。
「ホーリーは強くないのか?」
「強いはずですが……」
自分の挙げた名前に興味をもたれなかったことに意外そうな顔をしつつアーロンが答える。
「彼は王です。私の軍師将軍もそうですが、統率を司るクラスの者は直接戦闘が優れているわけではないですからね」
たしかに、ガイルは覇王なんていう期待させる名前のクラスの割には弱かったな。世紀末っていう修辞が付けば強くなったのだろうか。あ、あれは覇者か。残念。
そんな、彼らにとっては常識だろうことを改めて説明しなければならないことにアーロンたちがそれぞれ考えている様子の視線を向けてくる。
「こいつってなんなん?」
そんな感じだろうか?
何度か【鑑定】されてるっぽいが全部弾いてるしな。お前らの謎システムから押し付けられたスキルとしての【鑑定】で俺のことがわかるものか。
「ああ、そういえば……」
と、また話題を変えたのは食事が終わった後だった。
「ここって闘技場みたいなのあるだろ? あそこでトレーニングとかしたらだめなのか?」
二日目は簡単なランニングと水泳で体を動かしたが、やはり消化不良だ。もう少しがっちりと体を動かしたい。
「試合外ならいいんじゃないかの。儂が交渉しておくよ」
「サンキュー」
そういうことになり、皆が解散する中で俺は追加の朝食を注文した。
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