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防弾ガラスみたいな硬いのに守られて様々なものが並べられている。
この小さな美術館みたいな空間……オークション予備ルームと名付けられた空間には直近のオークションに出品される物が展覧される。ここに展覧されていない物は係に言えば見せてもらえるし、他になにがあるかは専用のサイトに記載されているそうだ。
とりあえず、俺が乗船している間のオークションに出品される物はあるようなのでチェックしていく。
近くにあるプレートに【鑑定】で判明した名前と性能が簡単に記されている。英語だけどカメラを使う翻訳アプリを使うと問題なく読める。
お、刀だ。
どれどれ……プレートには水属性が付与された日本刀に酷似した剣と記されている。
自分でも【鑑定】してみるか。
『村雨改』
津田越前守助広が鍛えた刀の一振りが偶然によって異世界を渡り水龍の魂を得た逸品。散逸した錆び刀を該当世界の鍛冶師が鍛え直したためその素材配合は再現不能となっている。水龍の魂は深く眠り、潜在力は未知数。
「…………」
おやおや? なんかぜんぜん違う結果が出たな。
いや。
ていうか……マジか? これ?
村雨丸だけど南総里見八犬伝の方ではないんだよな、これ?
水龍の魂を得たってことは、向こうで使った素材に水龍由来のなにかがあったってことか。
ていうか生物素材を鍛冶師がトンテンカンと武器や防具にする過程ってちょっと謎因子があるよな。
いや、錬金魔法が介在していることはわかっているんだけど。なんか感覚的に。
とはいえ、これってもしかして、俺が考えているよりも安く手に入るかも?
やっべ、ちょっと欲しい。
刀そのものもいいが、水龍の魂っていうのがまた高ポイントだよな。死んでいたら死霊魔法で、生きていたら召喚魔法で使役できるってことだろ?
神獣ゲットのチャンスだ。
「なぁ、【鑑定】って使える?」
「え? そりゃあね」
二人に聞くとLが当たり前のように頷いた。霧は首を振る。クラスが魔眼導師になっても【鑑定】は手に入らなかったようだ。
「これ、【鑑定】してみてくんない?」
「うん? ……プレートの説明と一緒だけど?」
「……へぇ」
「水属性の剣が欲しいわけ? お嬢様のさっきの小剣に水属性付与した方が強いと思うけど?」
「ふむふむ。なるほど。サンキュー」
ニヤニヤが顔に出ないように気を付ける。
そう、ちょっとがっかりした感じぐらいの演技をしてみせようぞ。
プレートにいつのオークションに出品されるかも書いてある。今夜かよ。さっそく出席しなくては。
【鑑定】にも精度があるんだが、どうもこいつらの【鑑定】はそこまで高い精度はないようだ。
さてさて……他に掘り出し物はないかなっと。
「武器に防具に素材に宝石……とここら辺はダンジョンのドロップ品なんだよな?」
「異世界からの持ち帰り品もあるんじゃないかしら?」
「俺みたいに、か」
「そうそう。あれを売るなんてもったいない。あれがあればどれだけの魔道具が作れたか」
Lがいまだに惜しんでいる。ここではまだ誰に聞かれてるかわからないから種明かしはできないが、そろそろ鬱陶しいな。
「Lはこういうとこで売ったり買ったりしないのか?」
「買うのは素材ばっかりだし、それならネットオークションの方が気楽だね。売るのなら何回かしたことあるよ」
「へぇ」
一通り見たのでこの場を去る。
そういえばホーリーはなにが狙いだったのやら?
いくつかそれっぽいのがあったけど一つには絞れなかったな。
まっ、気にしても仕方がない。俺が欲しい物の邪魔にさえならなければいいのだ。
「…………」
「うん?」
「織羽? どうかした?」
「いや、いま何か聞こえたような?」
「そう?」
「う~ん、気のせいか?」
ぱっと見回しても変化は見当たらないし、気にしても仕方がないか。
受付から離れたところでエロ爺に今夜のオークションに出席すると伝える。
「なにか良い物でも見つけたかの?」
「まぁね。それにオークションに空気にも慣れておきたいし」
「では、今晩は会場で夕食と行くかの」
そんなこんなで解散。
ちょっとしょぼくれているLは一旦俺たちの部屋に誘って小さめの異世界宝石をプレゼントしておいた。
「まだまだあるぜ」
と告げた時の彼女の目は結構やばかった。
ギラギラしてるLを部屋から追い出し、ベッドでだらだらする。夕食までは後二時間ってところか。
「初日からイベント盛りだくさんだな」
「まだ終わっていないわよ」
「そうだな」
あの刀を手に入れるのが今日の〆だな。
「……ねぇ」
「うん?」
「あの人を味方に引き入れたのはどうして?」
「Lか?」
「そう」
「ふむ……暇潰し?」
バイオロイド作りたいと思っているのは本当だし、あいつの作る魔道具に興味があるのも事実。
「…………」
だけど、霧が心配しているのはそういうのではないように感じる。
もしかして嫉妬か?
焼いた餅か?
未来が見えてるならそんな顔もしないだろう。
まったく困ったもんだ。
「ほら、霧ちゃん。来い来い」
「…………」
「ほれほれ」
「……もう」
なんて不満そうにしながらやって来た彼女の頭を抱えて一緒にベッドに転がる。
「心配しなくても、俺の一番はお前だぞ」
「……あなたって、とんでもない女たらしな気がしてきたわ」
「性に自由なのは師匠たちのせいだと言いたい」
「他人のせいにしないの。もう!」
俺の薄い胸の中で霧が鼻息荒くしている。
「……俺は少しでも退屈しないようにしているだけだよ」
「退屈?」
「そう。嫌なのはそれだけ。面白そうでさえあればなんだっていい」
「つまり、いつも通りってこと?」
「そうだよ。考えていることなんてなにもない」
「佐神さんの会社のことも?」
「イグザクトリー」
「ねぇ、これは見えているわけじゃないんだけど。……ときどき怖いわ」
「うん?」
「私たち異世界帰還者がこんなにたくさんいて、本当に世界は今まで通りにいられるのかしら?」
「それは心配するだけ無駄じゃないかな?」
「どうして?」
「なにをどうしたって……異世界帰還者がいようがいまいが、世界って変わり続けてるわけだし」
世界を変化させうる要因なんて別に異世界帰還者だけじゃないだろ? 俺たちの知っているものだったり、そうじゃなかったり……そんなものがある日突然に世界を激変させてしまうかもしれない。
異世界帰還者はそんな世界を変化させる可能性あるものの一つでしかない。
「変わるときには変わるもん。それぐらいでいいだろうし……」
「だろうし?」
「変わったとしても霧が一緒にいればそれでよかんべ」
「もう。カッコつけるなら、最後までそうしなさいよ」
「それはキャラ的に無理かな」
そんな風にやらしいこともなくダラダラとしている内に二人そろって寝てしまった。
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