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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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70 ややグロ回


 ちらりと霧が俺を見た。

 それはきっと合図だった。

 なにも言わない。

 これもまた同じ。

 無言の伝達がされたのは帰りの新幹線の中。こだまの広めの座席に二人で並んで座り、ほかに客のいないがらんとした空間でそれぞれに過ごしていた。

 霧は買ったばかりの小説を読み、俺はスマホでアプリゲー。

 小説から目を離した彼女は俺を見て、俺も彼女の視線を見逃さなかった。

 何事もなかったかのように小説に戻る霧の態度は信頼の証。

 俺たちの街までに停まるのは一度だけ。

 その駅で誰かが入って来た。自由席の車両の前後から二人ずつ。どっちも男。南米系の顔立ち。こんな地方でもそれなりに外国人はいるからそういうことがあってもおかしくないかもしれないが、南米系の男四人が女二人だけの車両の前後から分かれて入って来るというのはおかしな話で、事実そいつらは迷うことなく俺たちのところまでやって来て座席を封じるように立ちはだかった。

 新幹線が出発する。

 霧は小説から目を離さない。現実逃避ではなく、俺を信頼しているからだ。度胸が付いたよな。


「#####」


 なんか言った。英語ではないっぽい。南米ってスペイン語とポルトガル語がほとんどだったかな?

 どっちにしてもわからないけどな。


「ナンパなら日本語を使え」

「#####」


 俺の返答に間を置かず、そいつは同じことを言ったっぽい。

 同時に拳銃を出してきた。

 ここは日本なんだけどな。

 まぁ、異世界帰還者が標準的に小規模ながらアイテムボックスを持っているなら、これぐらいのものは密輸し放題だ。


「人に拳銃を向けるなってママに教えられなかったか?」


 相手の返答なんて待っていない。即座に呼び出したキャリオンスライムで四人とも丸呑みにする。

 誰もいなくなって霧が顔を上げた。


「尋問はよかったの?」

「どうせガイル関係だし。あいつの尋問道具が増えたと思えばそれで良し」

「そう」

「ああ……他にも追手は来そうだったりする?」


 新幹線に乗った時点で霧の占いが発動していた様子だった。

 とはいえ霧の占いでは敵の全貌は見えない。あくまでも敵が来たとわかるだけだ。その結果もわかっているのだろうが、彼女が見たいものを好きなように見れていないことは確かだ。

 俺が狙われるのは良いが霧や他の連中が狙われると面倒だな。

 芽は早いうちに摘むべし……だな。


「いないみたいだけど……これで終わると思う?」

「単独と考えるのは浅慮か。動きも早かったし、バックアップチームがいたってことだろうな」


 やっぱり尋問するか。


「見たい?」

「見たくない。読書の邪魔はしないで欲しい」

「へいへい」


 日本語が通じるといいなぁと思いつつ、少し離れた席に移動するのだった。



†††††



 嫌な状況になったという思いはあった。

 南米の犯罪組織メデリ・カルテルの中でも暴力や兵器密売を担当するガイルが日本に来たのはN国との取引のためであり、取引の大事な商品を持ち逃げしたゴーと呼ばれる裏切者を追いかけてのことだった。

 商品を持ち逃げされたという時点で嫌な感じだった。

 下っ端で上昇志向のない彼にとっては「上がイライラして鬱陶しい」という以上の感慨はなく、苛立つガイルの視界に入らないように苦労していた。

 だが、ガイル自身覇気のない彼のことは人数合わせ程度にしか思っておらず、大事な場面で使う気などなかった。自分たちが行動する際に支障が出れば、彼に離れた場所で派手なことをさせるという陽動役、囮役、使い捨ての駒程度の存在だった。

 そんな彼に巡ってきた仕事は囮役ではなかった。

 どうやらガイル他実働部隊の連中が何者かの手に捕まったようなので、その情報を集めるために関係者らしいその少女を捕まえに向かわされた。

 日本の少女を捕まえる。

 字面だけ見れば簡単な仕事だ。

 だが残念ながら、その少女は地獄の悪鬼よりも恐ろしい存在だった。

 いま彼は四人向かい合わせの席の一つに載せられていた。

 向かいには標的の少女がいる。濡れているかのように艶のある長い黒髪。大きく、そして目じりの鋭い瞳が楽しそうな笑みを作っている。長い脚が組まれて目の前にある。その隙間から大事な部分が見えそうで、見えない。もう少し視界を低くすれば……しかし、彼はそれ以上、視界を低くすることができなかった。

 少女の隣には半透明の朱色の塊があり、その中には狭苦しそうな姿勢を取らされた誰かがいる。

 いや、誰かではない。

 顔は見えないが、その格好は知っている。

 まさかという思いが頭を駆け巡っている間に、ズイと目の前にスマホを置かれた。


『仲間はどこにいる? 連絡手段はなんだ?』


 翻訳アプリを通したその質問を見せられた後、音声入力画面でスマホを向けられる。


『あれは……誰だ?』


 質問の答えではなく、別の問いを発する。少女はそれを確認して、隣を見、彼を見、そしてそのいまだどの男にも触れさせたことがなさそうな唇を怪しく引き伸ばして笑った。


『誰だと思う?』


 答えではなく、問い。

 そして、今度は条件付きの問いかけ。


『あの上に戻りたかったら質問に答えた方がいい。別にお前じゃなくてもいい。後三人いるから』


 ああ、やっぱりそうなのか。

 あの朱色の半透明なゼリーの中にいるのは彼なのか。

 頭のない、彼なのだ。

 そして頭部だけの彼がここにいて、なぜか生きていて、スマホの画面を向けられている。

 頭だけでは筋肉が足りずに喋ることができないというようなことを昔聞いたことがあるような気がしたが、そもそも首だけで生きているということ自体が非常識なのだから、そんな非常識を実現しているなら喋るのだって簡単なものだろう。

 つまりはいまの彼のように。


『最後の機会だ。仲間はどこにいる? 連絡手段はなんだ?』


 彼にその質問に対抗する精神力などないし、仲間を守ろうという気概など微塵も存在していなかった。





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