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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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 キャリオンスライムの中のポットナードがダイアモンドみたいな水晶……金剛水晶と命名……に変化したところでダンジハール宮殿舞台全体が振動を始めた。


「崩壊が始まったね。脱出しよう」


 舞台の中央に光の球が現れている。どうやらあれを通って脱出できるようだ。


「亮平!」

「君たち!」


 ドアの向こうから綺羅たちが現れて亮平はほっと表情を緩めた。


「入れなくなったからどうなったかと思ったけど……大丈夫だった」

「ああ、もちろんだ。それよりもクリアしたから脱出しよう」

「さすが、亮平だけでもクリアできたのね」

「……いや、クリアしたのは彼女だよ」

「え?」

「俺たちは先に出るぞ」


 霧を迎えた俺はさっさと光の球を抜ける。

 祠の前に出るとギルド職員や荷物持ちたちが待っていた。

 亮平たちもすぐに出てくる。


「ダンジョンの攻略は完了した。ボスを倒したのは彼女だ」


 と、いきなりギルド職員に向かってそんなことを言ってくれやがる。


「クリア報酬は彼女の方に振り込んでくれ」

「え~、亮平。それでいいの?」

「ああ」


 綺羅たちは不満そうだが、亮平に未練はなさそうだ。


「やってもいない功績で報酬をもらうのは好きじゃないしね。途中の青水晶の儲けで十分さ」

「むう」


 綺羅たちが睨んでくるが知らんと無視する。

 俺たちがギルド職員に捕まってアプリを通してなにか手続きをしている間に、亮平は荷物持ちから青水晶を受け取ったり報酬を払ったりして彼らを帰した。

 亮平たちに払われる予定だった報酬は霧の口座に入れてもらうようにして……それでちょっと揉めたけど、俺のアプリの電子マネーがいまいっぱいいっぱいなんだというのを見せると納得してくれた。

 よし、これで霧にもお金を回せた。

 この間から俺の都合で連れまわしながら青水晶とかを換金してないせいで報酬を彼女に渡せていなかったんだよな。なんとかそのまま霧の物だってことを納得させよう。霧は遠慮をするからいけない。

 そんな風にちょっともたもたしていたせいか、亮平たち以外はみな帰ってしまっていた。


「さて……じゃ、お疲れさん」

「いや、待った待った」


 ギルド職員を見送ってから車で待ってくれている千鳳のところに行こうとすると亮平に止められた。


「まだ、さっきの戦いの時の約束が残ってるよね?」

「約束?」

「賭けって言い換えてもいいけど」

「ああ」


 そういえばそんなことを言い合ったか。

 ……いや、覚えてるんだけどな。

 なんか嫌な予感がするから覚えてない振りをしていたかったんだが。


「君の首を狩れなかったら、君に一生の忠誠を誓うと約束した。だから……」


 と、亮平が俺の前で膝を突いた。


「我が主、御身に永遠の忠誠を誓おう」

「いや、何時代の人間だよ」

「亮平! 何してんの!?」

「ちょっと、亮平!?」

「理解不能」

「おい、お前の女たちにもドン引きされてるぞ! やめろやめろ」

「いいや、やめないね。さあ、どんな命令でも聞くよ。性奴隷とか性奴隷とか性奴隷とか」

「つまりやりたいだけか! ふざけんな!」

「ああもう! 亮平のMっ気に火を点けたなバカー!」

「知るか! 早く連れて帰れ! 女王プレイならあいつらにしてもらえ!」

「違う。SM的な女王が欲しいわけじゃないんだ! 君は本物の女王だ。SとかMとか関係ない。いいや、その両方を備える君こそが本物の女王なんだ!」

「わかる」

「いや、霧、そこで変な理解を示してんじゃねぇ!」


 無意味なしっちゃかめっちゃかの末、最後に亮平の顎を蹴り倒して気絶させると俺は霧を連れて車に飛び乗りこの場から逃げ出した。


「もう……なんなんだよ一体」

「ふふふ」


 ぐったりする俺を霧が笑う。


「なんだよ」

「織羽でも慌てることがあるのね」

「そりゃあるさ。男に欲情されるなんてぞっとする」

「ふふふ」

「…………」

「なに?」

「機嫌がいいのは、俺が面白いからだけか?」

「ううん……違うかな」

「なんだよ?」

「あなたの幻で私たちだけあそこで待機になったでしょ。その間に彼女たちと話していたの。私の本当の気持ちとか、あっちの世界でどう思っていたかとか」

「それで?」

「理解してくれたわ。綺羅なんて冷たい態度を取っていたことを謝ってもくれた。彼女は態度が激しいけど、素直ないい子なんだってわかった」

「友達になったのか?」

「うん。三人とアドレスを交換した」

「そりゃ、よかったな」

「ええ」


 明るく笑う霧は癒しだ。


「あら?」


 通知音が鳴って霧がスマホを取り出す。


「どうした?」

「三人からメッセグループの誘いが来てるの」

「へぇ」

「それと一緒になにか添付されてるんだけど、これは……?」

「うん?」


 霧が添付データを開くと、それはテキストだった。

 企画書の体を為しているらしいそれのタイトルは「クラン起業計画書」とあった。


「クランって?」

「MMO用語かな?」


 ギルドも冒険者ギルドの方が有名になってる感があるけど、MMOならほぼ同じ意味でつかわれる。

 連合とか集団とか、つまりはプレイヤー側で組まれる組織の総称みたいなものだ。


「つまり、現在の状況をMMO的に捉えて、異世界帰還者側でより大きな協力体制を取ろうってことか?」


 起業してダンジョン攻略とか青水晶の売買とかを個人対組織ではなく組織対組織にして少しでも有利に持っていくってことか?


『強者には万全の体勢でのダンジョン攻略を提供し、弱者には安全で安定した収入を測る』


 佐神亮平はこれからのことを考えて異世界帰還者によるダンジョン攻略会社を作るつもりだったんだな。


「で、なんでそれを俺たちに見せるんだ?」

「私たちに……というかあなたによね、これ。勧誘したいみたいよ。社長待遇でどうかって?」

「はぁ?」

「本当にあなたに忠誠を誓ってしまっているみたいね」

「なんなんだあいつは……」


 呆れかえってずるずると座席からずり落ちる。


「……で、占い師殿。ご意見は?」

「そうね。……先の先はまだ真っ暗。だけど……」

「だけど?」

「先ぐらいではあなたは楽しそうに戦っている姿が見える。だから、どちらでもいいんじゃないかしら?」


 どちらであれ、俺に戦わないという選択肢はない。

 まぁ、戦う場があるなら俺は戦うだろう。この力を捨てる気がないんだしな。


「……資金援助はしてやる。大株主様だ。だが、役職なんて御免だ」

「わかった。そう伝えておくわね。あなたもメッセグループに入る?」

「まだいい」


 俺はそう答えて目を閉じた。

 まだ眠くはないが、こういう時は思考放棄の不貞寝が一番だ。





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