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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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 佐神亮平は油断しない。

 魔法による回復はこれまでたくさん経験したし見てきたが、封月織羽の見せたあの回復力は異常としか言いようがない。

 首を飛ばしたからといって安心はできない。四肢を斬り胴体を寸断し、人間の形から解放しておかなければ安心できない。

 いや、それだけでも足りない。


【爆撃衝波】


 全身から放った衝撃波によって肉片をさらに砕き、封月織羽だったものを血の霧にまで変化させる。

 そうまでしてやっと、亮平は勝利を確信した。


「ホ~ホホホホホホホホホホホホ~~~~~~~~~!!」


 忌々しい道化師の笑い声がつかの間の静寂を不快にかき乱す。


「お見事ですね~え? あなたの勝利です」

「……仲間を解放してもらおう」

「いえいえ~? そういう決まりではないですよ~?」

「なに?」

「あなたたちのどちらかが勝ったら、この我と戦う権利を上げるという決まりだったのですね~え?」

「なら……次はお前を倒す」

「そ~ですね~え? でも、まだあなたのお仲間はここにいる~?」


 笑う道化師がお手玉の隙間で指を鳴らす。

 そうすると天井から吊り下げられていた綺羅たちがポットナードの高さまで下げられた。


「我を傷つけようとするなら、お仲間の命はな~いですよ~え?」


 道化師のお手玉が小さな破裂音の後にナイフに変わり、その指に爪のように挟まるや彼女たちに向けられた。


「貴様っ!」

「我は道化師で~すか~らね~え? 意地悪卑怯なんでもありなので~すね~え?」

「くっ!」

「ホホホ!! それそれそ~れで~す!!」


 動くに動けず表情を歪める亮平を見てポットナードが楽しそうに笑う。


「その悔しそうに歪む表情こそが最高の快楽! 最高の享楽! 最高の余興だと思いませんか⁉ 誰かが惨めに失敗し! 誰かが惨めに落ちぶれていく! それこそが全ての人が求めている最高の娯楽だと思いませんか? ねぇ!?」


 大興奮で語り、大興奮で哄笑を上げる道化師を亮平は睨むしかできない。

 睨むしか……。

 おや?


「……うん?」


 目を細めて集中する。

 道化師の後ろに誰かがいるような?


「な?」


 いた。

 道化師の後ろで奴を真似して大笑いする何者かがいる。

 それは……。


「封月織羽?」

「え? なんです?」

「よっ」


 亮平の変化に気付いたポットナードが背後を見る。

 そこにいた織羽は気軽に道化師に手を上げて挨拶すると、その手を拳に変えて殴りつけた。



†††††


 やってやったぜ。

 道化師の後ろで大笑いするという悪ノリからの奇襲。

 しかもとどめを刺さないところまでが嫌がらせの一環である。


「ふぼへっ!」


 大玉から落ちたポットナードがまた面白い声を出した。


「リアクション芸人なのかな?」

「き、き、貴様~死んだんじゃないのか!?」

「芸人口調を忘れてるぞ」

「ぐぐっ!! 死んだのではなないのですかね~え?」

「お前は手品で胴体切断をするたびに手品師が人殺しをしてるとでも思ってるのか? 馬鹿なのか?」

「ぐぐっ!」

「幻を食わせてやったんだよバ~カバ~カ」

「き、貴様、よくも騙したな」

「騙された方が悪い」

「奴の決まりは、なんだったんだ?


 これは亮平からの質問だ。


「ああ。それは本当、だったのかもな。でも、そのルールを決めたのはあいつだろ? それならあいつさえ誤魔化せれば大丈夫だろうなって、それに……俺の幻は世界だって騙せるぜ」


 最高の幻影魔法の使い手ダキアが俺の師匠だからな。


「なら、僕との勝負は!?」

「最後の一手は幻とすり替わった。ほら」

「っ!!」


 と、指で示してやったらようやく気が付いた。

 亮平が着ている鎧のわき腹の部分に穴が開いている。

 俺がレイピアで突いて空けたのだ。

 そのまま押し込めば心臓までグサリだっただろうが止めておいた。


「俺の勝ち~って言いたいが、剣だけで勝つってのが無理だったからま……引き分けな」


 危な。負けって言っていたらなにを要求されるかわかったもんじゃない。


「……いや、僕の負けでいいよ」


 苦笑で亮平が言う。


「お、そうか?」

「ああ、だから……」

「なに勝った気でいるんですか~ね!?」


 と、無視していたらポットナードがキレた。

 とたんに近くで白い爆発が起きる。


「あっ! くそっ!」


 爆発とともに人質となっている霧たちの姿が消えた。

 ポットナードが観客席へと移動していく。

 その先でも白い爆発が起こり、そして現れたのは四つの断頭台。そこに仕掛けられたのは霧たちだ。


「こっちには人質がいるんですよ~!」

「貴様っ! こりもせず!!」

「ぐふふふふふふ~さあ、もう一度殺し合ってもらいましょうか? 今度は詐欺なんて許しませんよ~ぐふふふふふふふ」

「いや、同じネタはつまらないだろ? ネタ切れか?」


 悔しがる亮平を押しとどめ、俺は覚めた言葉を投げかけた。


「なっ? え?」

「道化師だろ? もっと面白いことをしろよ。その程度じゃジョーカーには勝てないぞ。もっと人の善意を悪意にすり替えるような意地の悪い仕掛けとかしてみろよ」

「な、なにを言っているのかね~え?」

「つまらないって言ってるんだよバカヤロウ」

「な、なんですと!!」

「だいたいな! お前が後生大事に人質人質喚いてるそいつら、本当に人質か?」

「へ?」

「それが偽物だと疑わなかったのか?」

「なっなっなっ……そんな~ば~か~な~ね?」


 恐る恐るとポットナードが断頭台にかけられた霧たちを見る。

 四人も同じように道化師を見、そしてにやりと笑い形を崩した。


「なああああ!?」

「もうネタがないならお前はそこで終わりだ」


 四人分のキャリオンスライムが肉の波となって道化師を呑み込む。

 どうやら逃げることはできないようで、そのままキャリオンスライムの内部でもがいている。

 舞台には他のオーガたちもいたがそいつらは亮平がさらっと片づけてしまった。


「君は……わかっていたのか? 最初からあいつがなにをするのかを」

「まぁな」


 俺はここに来る前からポットナードがなにかをして霧たちを人質にしようとすることを知っていた。

 そうでなければ事前に対処できるはずがない。なにしろ剣聖の亮平だってなにもできずに仲間を奪われていたんだからな。


「こっちに有能な占い師がいるのを忘れたのか?」


 そう。それを俺に教えてくれたのは霧だ。


「そうか。……やっぱり彼女は凄いな」


 そう呟いた亮平は惜しむように目を閉じた。




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