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ネーム:佐神亮平
レベル:250
クラス:剣聖
「ほう」
思わずそんな声が出てしまった。
いままでの連中とは明らかに格が違う。
感心しつつ饅頭をさらに一つ口に放り込んでいると、そいつがぐっと俺に顔を近づけてきた。
「いま、僕に【鑑定】したよね?」
おや気付かれた。
レベルとクラスを調べる程度だと気付かれないんだけどな。レベル相当に敏感なようだ。
「どうやら君も異世界帰還者のようだ。いや、奇遇だなぁ」
なんて笑いながら対面に座って来る。
なかなか図々しい性格のようだ。
「それで、君はどうしてこんなところに?」
「温泉宿に来る理由なんて温泉に決まってるじゃないか」
「君みたいな若い子が?」
「お兄さんだって若そうだけど、意外におっさん?」
「ははは、ひどいな。これでも大学生だよ」
湯上りらしいほのかに赤い顔で青年……佐神亮平は笑った。
「ギルドアプリで調べればわかると思うけど、この近くにダンジョンがあってね、僕はそれの攻略にやって来たんだ」
「ちっ」
俺が狙ってるダンジョンに来る気か。
「え?」
「いやなんでも。温泉宿にわざわざ泊まるってことは、遠くから?」
「まぁね。今回はギルドからの依頼で来ているから」
「依頼?」
「そう? 知らないかな? 冒険者ギルドには僕たちに公表していない能力評価があって、それをクリアしたら、あちらから依頼がやってくるって噂」
「知らないな」
「そうなのかい? あれは本当でね。僕はその依頼を果たすためにやって来たんだ」
「で、その依頼っていうのは?」
「ダンジョンの攻略だよ」
「攻略?」
「そう」
「なぜ? ダンジョンはずっとあった方がいいだろう」
「僕たちにとってはそうだけどね。まだダンジョンに対する研究は進んでないから、長く存在させておくことのデメリットがわかっていないんだ。だから、いざというときに異世界帰還者たちが近くにいない可能性が高い不人気ダンジョンはさっさと潰しておこうって考えなんだそうだ」
なるほど。理に適っている。
「後は重要施設が近いダンジョンもそうかな。だから都心に堂々と存在するアキバドルアーガも近々大規模な攻略隊が組まれるって噂があるよ。その前にあそこを専門にしていたナムコスは自身の威信にかけて攻略する気だって話だよ」
「へぇ」
「あれ? アキバドルアーガって知らない?」
「知ってる。らしい名前過ぎてちょっと醒める」
「ははは! それ、わかるかもね。もしかして君ってクラシックゲームとか好きな人だったりするのかな?」
「アニメの方」
「ああ、そっちか。残念」
「ああっ! 亮平がナンパしてる!!」
いきなり甲高い声が場に割り込んできた。
そこには四人の浴衣姿の女たちがいる。
一人は、霧だ。
残りは……
ネーム:赤城綺羅
レベル:62
クラス:焔導師
ネーム:咲矢春
レベル:57
クラス:賢者
ネーム:遠江纏
レベル:75
クラス:結界師
【鑑定】した順から高校生、大学生、社会人って感じか?
不満げに俺を睨んでいるのが高校生っぽい赤城綺羅だ。
いや、もしかしたら中学生かもな。ちっこいし。
それにしてもなんで睨む? 嫉妬か? すまんな美しくて。
「ははは、ナンパとはひどいな。あれ? 霧ちゃんじゃないか」
「……ご無沙汰してます」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。うん? ということはもしかして、君たち知り合いだったりする?」
「仲間だが?」
そう言って、俺は霧を手招きし、隣に座らせた。
「はん、そんな奴を仲間にする奴がいるんだ」
「綺羅、そういうことを言うもんじゃないよ。あっちでは僕たちは何度も彼女の占いに助けられてるんだから」
「でも、そんな能力もこっちじゃ役立たずじゃん」
「綺羅。ははは、ごめんね霧ちゃん」
「いえ、大丈夫です」
妙に敵意剥き出しの綺羅に対し霧は冷淡だ。
「……さて、なんか感じ悪そうだから俺たちは戻る」
「残念だよ。よかったら連絡先の交換とかしない?」
「いらないだろ?」
亮平の微笑みビームを切り捨て、俺たちは連中に背を向けた。
†††††
「最悪。なんであいつに会っちゃうわけ」
「綺羅。落ち着きなって。それより春ちゃん、【鑑定】はできた?」
「ごめん亮平。ガードされたみたいでなにも見れなかった」
「霧ちゃんも?」
「ええ。彼女の能力かしら?」
「ふうん。面白いね」
「なにも面白くないよ!」
「なにを怒ってるんだい、綺羅は?」
「だって、亮平、絶対にあいつらを仲間にしようとしてるだろ?」
「ははははは。そうなったら楽しいよね」
「全然楽しくない!」
†††††
丸聞こえなんだがな、馬鹿どもめが。
「なんなんだ? あのハーレム思考は?」
「彼は……強いわよ」
「みたいだな。他の連中とはレベルが段違いだ」
レベルはびっくりの250だ。
同じ前衛職の公英のレベルが40代だったから、それと比べても六倍以上強いことになるし、クラスの昇華って概念があるみたいだからクラスの格そのものも二段も三段も違うのだろう。そう考えると……うん、公英は残念ながら雑魚ということになる。
「同じ異世界だったのか?」
「そう」
つまり、同じ勢力だったってことか。
剣聖か。師匠の一人、アンヴァルウも剣聖と呼ばれているんだが、二人が戦うとどっちが強いかな? 身内びいきでアンヴァルウだと思いたいが。さてさて。
「それにしてもあいつらのことは占いに出なかったのか?」
「なんでも出るわけじゃないわ」
そう言った霧の顔色は少し悪い。湯にのぼせたか? それともあいつらとの出会いがそんなに嫌だったのか。
歩くのも辛そうだから彼女の腰に手を回して引き寄せる。霧は抵抗せず、俺に体を預けた。
「ダンジョン行き、やめとくか?」
あいつらが攻略するみたいだしな。ここから他のダンジョンに変えてもいいし、帰ってもいい。
「ううん。行きましょう」
顔色は悪いけれど、霧は首を縦に振らなかった。
「彼女たちに会って、見えたの」
「なにが?」
「あなたの好きそうな騒動が」
「ほう?」
そう言われると、俺としては頬が緩んでしまう。
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