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魔力でゴリ押せばこんなもの。
とはいえこれでは何の成長もない。つまらない。死体は血の一滴も残さずにアイテムボックスに放り込み、俺の死霊軍団に加えるための処置を始める。
これぐらいはないとやってられない。
あ、頭はまだ使うからなにもするなよ。
「おこ~んば~んわ~」
雄岡が出てきた事務所に問答無用で押し入る。鍵? そんなものは壊した。
「なんだてめぇ!」
「ああ、うるさいうるさい」
キャンキャン吠えるでないよまったく。即座にキャリオンスライムを呼び出して事務所内を制圧する。押し寄せる腐肉粘体の荒波にかわいそうなやくざたちは飲み込まれてしまった。
組長がいる奥の扉を開けると、拳銃を構えた二人がいた。小太りが組長。すらっとした筋肉質なのが若頭だ。
「どうも、封月織羽です」
状況についていけていない二人は拳銃を向けたまま動けないでいた。
俺は構うことなく先ほどまで雄岡が座っていたソファに座り、目の前にあるテーブルにアイテムボックスから出したあいつの頭を置いた。
血はきれいに搾り取っているからテーブルは汚れない。土色で欲し首みたいにしわくちゃになった雄岡のしおしおの眼球を見て、二人の顔が脂汗でどろどろになった。
「さて、説明。してくれるかな? それともしようか?」
「あ、あ、……あなたは?」
「さっきも言ったけどな、俺は封月織羽。で、この首だけ君は雄岡中也。さっきここで俺の写真を見せられて拉致って犯して殺せって言われたところだったよな? で?」
と、俺は首を傾けて二人に問いかける。
「で、俺に喧嘩を売る意味ってわかってる? 虎の威を借りるのは好きじゃないがこっちの方がわかりやすいよな? 封月昭三の孫に手を出してこの辺りでやくざを続けられると本気で思ってたのか?」
「あ、あ……」
「で? それはいつまで俺に向ける気だ?」
「「っ⁉」」
そこでようやく、二人はいまだに拳銃を構えていることを思い出して震える手で引き金から指を抜き、テーブルに置いた。
その態度に俺はにっこりと微笑む。
「さて、それじゃあお話、しようか?」
この後は細胞の一つに至るまで『封月織羽に手を出したらどうなるか?』ということを体の隅々にまで教えてやった。
やくざ事務所は潰さない。さっきキャリオンスライムに呑み込んでやった連中も開放する。こういう連中はどうせ潰したってすぐに湧いてくる。それなら巣の位置を把握しておいていざというときには一網打尽にできる方が手っ取り早い。
ああ、こういうことを考えるから俺はヒーローになれないんだなとしみじみ理解する。
俺の好きなバット〇ンなら問答無用で潰しているよな。
いまからでも間に合うな、そうするか?
いや、俺は俺の道を行くのだ。
それに彼は不殺だ。俺には歩けない道だな。うん。
さて……と。
俺はスマホを取り出してとある番号にかけた。
「……誰だ」
「どうも伯父さんこんばんは」
「……織羽か?」
「ええそうです」
「こんな夜中になんの用かな?」
「……ついさっき、とある事務所にお邪魔しまして、そこの丸っこい組長とお話しさせてもらったんですけど」
「…………」
「伯父さんたちからの依頼は受けられなくなったと。実際は不可能になったんですけど、そういうわけでごめんなさいしておいてくれと頼まれたのでお電話しました」
「そ、そうか……」
「で、伯父さん、どうします?」
「どう……とは?」
「うーん、これからの人生? でしょうか?」
「なにを言っているのか、わからないな!」
語気荒く、恵伯父は吐き捨てた。
かなり自棄が入っているな。
まぁ、そうかもな。企んですぐに相手にそれを知られた上にぽしゃられたとか。想像できるはずもないか。
「まぁなにをするのもご自由に。こっちはこれから誠司伯父さんにも電話かけないといけないので。あっ、でも病院は諦めた方がいいですよ。後継はもう決めましたんで。それでは」
「待っ!」
問答無用の通話オフ。
人の悪だくみを潰すのは楽しいな。
「さて次は……っと」
鼻歌を夜に染みわたらせながら誠司伯父に電話をかけた。
その後、二人の伯父はエロ爺のところに土下座しに行ったらしい。その上で身の破滅確定な大量の証拠品を前に相続を放棄する書類にサインさせられることになる。
恵伯父は院長の座を追われた。
誠司伯父はとりあえずなにもないがエロ爺からの資金援助は限定され、さらにやくざを通じた小遣い稼ぎも封じられたので政治活動的な意味ではかなり自由度を失ったことになる。
これからも政治家でいたかったら爺さんの傀儡でいるしかなくなったってわけだ。
だがべつに全財産没収とかされたわけではないし、庶民から見ればそれでも二人は十分以上の金持ちだ。
とはいえ未来に暗雲を投げかけられ敗北をその身に刻みつけられた二人は精神的にひどく疲弊し、わずか数日で爺さんよりも老けてしまうことになる。
†††††
「勝利の茶は美味い」
「それはよかった」
満足げな俺に対し霧の態度はひどく冷淡だった。
放課後にやって来たとある喫茶店。チェーンなんだが最近になってこの街にできたので人気の店だ。たっぷりアイスコーヒーにサンドイッチ各種をテーブルに並べて俺は気分よく食欲を満たしていく。
「なにか不満か?」
「あなたといると退屈しなさそうだけど、なんだか人生が血生臭そうな気がするのよね」
「ふむ?」
それは否定できない。
「でも、自分に宿った力を試してみたいという気持ちがあるのも本当」
そう言って霧は自分の目を抑える。
彼女が新たに獲得したクラスは瞳術士。瞳に特殊な能力を込めて扱うクラスのようだ。
「魔眼が疼くのか?」
「……ばか」
目に特殊能力とかバリバリの厨二魂だよな。
「今夜あたり、どっかのダンジョンにでも行くか?」
不人気ダンジョンはまだある。どこも千鳳の運転なら片道一時間圏内だ。
「ああ、そうだった」
俺の提案になぜか顔をしかめていた霧が何かを思い出したようだ。
「公英くんのことアヤさんに伝えたんだけど」
「うん」
「それならわたしも抜けるって」
「おや?」
「お金もたまったから夏休み中ヨーロッパ旅行をしてみるって。前衛がゼロならパーティとして機能できないだろうし、それなら一度解散したら? って」
「軽いな」
「あの人は軽いのよ」
「陰キャげなことを言ってたのにな」
「それを脱したいみたいよ。『イタリア男に弄ばれて来る』だって」
「イタリア男に謝れって言いたいが」
しかしそうか。それならあいつらとの予定を気にする必要もなくなるのか。
「占いは夏休み前までだったよな? 少し早すぎないか?」
「そういうこともあるわよ。占いなんだから」
「そんなものか?」
「外れてはいないでしょ」
「たしかに。それで、ダンジョンはどうする?」
「……行く」
「そうこなくっちゃ」
雑魚狩りなんてぬるいことはやめだ。
がっちり攻略を楽しむとしよう。
「その前にしなくちゃいけないことがあるわよ」
「なに?」
「期末テスト」
「ぐっ……」
残酷な現実が俺たちの前に待っていた。
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