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04


 あっちの世界で五年は過ごしたはずなのに、こっちでは召喚から一月しか過ぎていない。時間の流れって、一体なんなんだろうな。


「まったくなぁ……」


 いや、本来は一秒たりとも時間がずれていたら困るんだけどな。

 ため息が止まらない。

 部屋に戻った俺はハンガーラックに引っかかっていた首吊り縄を外してゴミ箱に放り込む。足が届いていないと思ったが実際には座り込んでいただけというわけだ。いきなりの混乱は状況の判断を狂わせるな。

 とはいえ、帰還して初日に死にそうになるとは思わなかった。暗殺者に狙われ続けた三か月間よりもびっくりした。

 まったく、神のやることは洒落にならない。

 死んだら神に列したいって言っていたのは混じりっけなしの本気だったのかもしれない。あの女神は冗談を言ったことがなかったよな。


「ああ……ていうことは俺の本体が死んでるのは知っていたな。畜生め」


 神様嘘吐かない。

 でも、本当のことを言うとも限らない。

 ああ、まったくもう。

 それでもあんまり嫌いになれないのが困ったものだ。


「ああもう……なにから整理したものか」


 自分の状況、流れ込んできた封月織羽の記憶と感情……全部が混ぜ合わさって処理能力が渋滞を起こしている。


「こういう場合は差し迫ったものから片づけていかないとな」


 本体の問題はすでに死亡扱いだから、後回しにしても問題はない。

 だからまずは織羽の問題を片付けるとしよう。


「そのためには……ステータス」


 自分の能力を確認する。

 魔法が使えることは女神に確認していたが実際に使えるとわかるとほっとする。

 神様嘘吐かない。


「とはいえ……まずは能力か……」


 ステータス。【性能表】という白魔法だ。

 自身の能力を数値化や固有名詞を付与することでわかりやすく表記する魔法なのだが、これができるということは魔法技術がかなり高度化したことを示すのだと俺に白魔法を教えたニースが言っていた。

 それはともかく、現在の俺の能力を確認するとしよう。


個体名:イング・リーンフォース

性別:男


状態:憑依


筋力:1

速力:1

体力:1

知力:5

魔力:99999

運力:25



「うわっ、俺の能力値、下がりすぎ」


 某CMみたいなことを呟いてしまう。

 魔力が99999なのはこれ以上の測定が【性能表】の魔法で不可能だからだ。そして魔力だけ変化がないのは、それだけは俺の魂に付随した能力だから……となるのか?


「うーん、それだと運力も変化なしなはずだけどな」


 運力……簡単に言えば自分に都合の良い事象を招く能力だ。高ければ高いほど幸運を招きやすいと思ってもらえればいい。

 にしても高いな。

 一般人だとどの能力も5から10の間が平均だ。

 封月織羽は運動能力はだめだめ。学校の成績は普通。というところだろうか。能力的な意味では目立っていなかったし、授業中に封月が褒められたところを見たことがないのでそんなものなのかもしれない。

 それなのに運力が25?

 幸運……か?

 流れ込んできた記憶を思い返す限り、幸運な要素がどこにあっただろうか?

 いや、あるにはあるか。しかしなぁ。


「幸運と不運の振り幅がひどすぎるのかな?」


 そういうことなのかもしれない。

 その後に続く固有スキルや習得スキル、所持魔法や戦技の長い列をざっと確認し、失われているものがないことを確認する。


「後は使い勝手か。ステータスが変わってるから。感覚の修正をしないといけないだろうな」


 以前は能力の上昇に合わせて色々と戦術を修正していったものだけど……まさか能力の下降に合わせる日が来るとは。


「さてと……時間もあまりないし。とりあえずやってみるか」


 なにしろ、織羽を自殺へと傾かせた運命の日は明日なのだからな。

 のんびりとはしていられない。

 こんな時間に外に出るというのに家族から呼び止められたり用件を訊ねられたりすることもない。

 いまはその方が都合がいいとはいえ、なんとも苛立つ話だ。

 すでに深夜近い時間、外に人の気配はない。俺は目当ての場所へ歩いて向かいつつ、視線が届かない場所を選んでそこに入ると魔法を使った。


【越屍二輪】


 アイテムボックス内に山と保存されたモンスターの骨を使って自動二輪車を作成する。フロントカウルには巨鬼族の頭骨を使い、眼窩の部分に鬼火をはめ込む。タイヤにはゴムの代わりに腐肉から作ったキャリオンスライムで覆う。動力源は俺の魔力だ。

 こいつを最初に作った時に一緒に用意したライダースーツを着込む。デモンスネークの皮で作ったライダースーツでサイズ調整機能を付与しておいたのでいまの俺にもするりと馴染む。

 仕上げにヘルメットを被る。骨製ではないのだがドワーフの職人が俺のイメージに合わせたとか言って用意したそれは、なぜか額の所に二本の角があって鬼の頭蓋骨みたいになっていて、着けるたびに「どうしたこうなった?」と思ってしまう。

 とはいえ便利なのは確かだし、こんな夜中に女子高生がタクシーを捕まえるわけにもいかない。

 というか金がない。

 そんなわけで、これしかない。


「よし、ぶっ飛ばすか」


 骨製自動二輪にまたがり走り出す。


「そこの改造バイク、止まりなさい!」


 国道に出たところでパトカーに追いかけられた。


「はっ、俺はそんなんじゃ止められねぇぜ!」


 本音は「警察のお世話になるのはごめんです」なんだが俺はスロットル全開で逃走した。

 その夜、パトカー数台に追いかけられる骸骨バイクは話題となり、現場に居合わせた人たちの撮影によってネットニュースに上がり、翌朝のワイドショーの話題をかっさらうこととなった。





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