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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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 空港に到着してプライベートジェットで一時間。やってきたのは東京某所にあるビルだった。


「ドラゴンステーキでございます」


 東京の夜景をドヤっと見下ろすレストランでその皿が出された。照明の落とされたレストランではドレスっぽい落ち着いた服を着た紳士淑女たちが食事を楽しんでいる。

 対面席にはニコニコと赤ワインを飲むエロ爺。

 ドラゴンステーキ……ね。

 どれどれとナイフを入れるとするりと切れる。切れた肉の断面を眺め、口に入れる。

 うん、美味い。


「でもこれ、ドラゴンじゃなくて飛竜……ワイバーンだろ」

「うむん?」

「竜種は種ごとで肉の質が結構違うんだよ。ワイバーンは鳥肉っぽい。牛みたいな肉質を求めるなら赤竜……レッドドラゴンを狙わないとな」

「ほう。そういうものか」

「そうそう。ワイバーンならメスの尾骨部分がお勧めだ。焼き鳥のぼんじりみたいに食べられる」

「気になるのう」

「まっ、脂が強いから爺さんみたいな弱った胃にはささみっぽいこっちの肉の方がいいかもな」

「なにおう」


 むきになった爺さんがウェイターを呼んで用意させる。

 そんなすぐに用意できるものなのかねと思ったが、意外にすぐに出てきた。

 皿の上にお洒落に盛られたぼんじり。焼き鳥のタレ風味の香りが照明の落ちたお洒落な空間に居酒屋の風を呼び込む。

 まさかぼんじりをナイフとフォークで食べる日が来るとは。

 おお、まさしくこの味。


「いいな。このタレは向こうで再現できなかったんだよな」


 ああ、白ご飯が欲しくなるなぁ。

 うまいうまいとパクパク食べる。

 爺さんはやはり脂が強すぎたらしくて途中でリタイア。残りはありがたく頂いた。


「さて……なんで爺さんが冒険者ギルドを使えるんだ?」


 メインが終わってデザートがやってくるのを待つ間、俺は質問した。

 そう。

 ここは東京にある冒険者ギルドのビルだ。

 しかもここは一般人が入れるエリアではない。

 ここに来る前にギルドの所員が爺さんにへこへこと挨拶し、換金した物を渡しておいた。

 お試しなのででっかい原石を一つだけだ。

 なんで爺さんに所員があんな態度を取るんだ。名乗る前にすっ飛んできたぞ。


「当然じゃよ。だって儂、出資者じゃもの」

「なに~?」

「驚いたかの?」

「ああ驚いた驚いた」


 驚いたが納得もした。

 なにをするにしても金がいるしな。

 金持ちにはそういう話が来るものなんだろう。


「しかし、換金手段はやはりここになるのか」


 金持ちならもっと怪しげなオークションとか知っているかもと思ったんだけどな。


「織羽が持ってきたようなもんを国内で安全にてっとりばやく換金しようと思えばここが一番じゃよ。もちろん、他にもあるがの」

「あるのかよ」

「そっちの方が大金が動く。ただし、会は年に一度だ」

「そりゃめんどうだな」


 爺さんの説明だと……異世界産、あるいはダンジョンで手に入れた青水晶以外の物品などは冒険者ギルドを介したオークションサイトで販売するのが国内では最もポピュラーな方法らしい。


「いまはほとんどオンラインオークションで決めるが、古き良き集まりを好む者も多いし、そしてそういう連中の方が大金を持っている」


 爺さんが説明をしている間にデザートが来た。


「封月様……」


 一緒に運ばれたコーヒーと共に味を楽しんでいると原石を渡した所員がやってきた。こんな夜にまで仕事とはご苦労なことだ。


「さきほどお預かりした原石なのですが」

「どうなったかの?」

「成分分析などはすぐに済みましたので出品させていただいたのですが……見ていただけますか?」

「うん?」


 差し出されたタブレットの画面を見ると俺の出した原石の写真が掲載されていた。

 その下に表示された金額が更新されていく。

 いま現在で0が一、二、三……。


「ほう、もう五億か。はやいのう」

「状態のよろしい異世界宝石です。しかもこの大きさ。ただの装飾品としての価値も計り知れないですし、魔道具の素材としての価値もかなりのものです」

「ふうむ」


 むう、さすが金持ち、数字を読むのが早いな。


「織羽、どうする?」

「どうするって、なにが?」


 高くてなにか悪いのだろうか?

 そのレベルの原石ならまだまだあるから出せるが……そういう話ではなさそうだ。


「支払いの金じゃ。ギルドアプリの電子マネーに預けておけるのは一億までじゃ。残りは銀行の口座に行くことになる」


 そうだな。さっき売り物を出す時に俺のアプリを見せて口座も登録したな。爺さんが俺の口座番号を暗記していることに驚いたというか、引いたというか……俺に関する情報は全て知ってそうで怖い。


「何の問題が?」

「銀行口座に入金されるとな……税金がかかるんじゃ」

「オーノー」

「半分は持っていかれると思っておけ」

「ファッ●ユー」

「儂が悪いんじゃないぞ」


 むう、しまった。そういう罠があったか。


「いまのところ冒険者ギルドアプリの電子マネーからの入金や現金化は非課税対象じゃが、それでも誤魔化せるのは一億まで、ということじゃな」


 ギルドアプリの電子マネーを現金化したければギルドでそれを申請すればできる。だが、アプリの上限額は一億まで。溢れた分は口座に自動的に流れてしまうという仕組みなのだそうだ。

 一億までの金額をやりくりする分には知らない顔をしてやるぞという異世界帰還者に対する飴的な対応なのかもしれない。


「……まぁ、そういうものなら仕方ないんじゃないか?」


 大人しく税金を払ってやろうじゃないか。

 ていうか、出品した原石って俺が向こうでやったテキトー計算だと一億ぐらいだったんだよな。

 それが五億を超えているんだからむしろラッキーだ。たとえ半分国に取られたとしても二倍の儲けになる。

 俺がそのまま売ると言うと、所員はほっとした顔でふかぶかと頭を下げて去っていった。


「現金受け取りを望むならさっき言うた年に一回の方なら可能じゃな」

「ふむ?」


 その後に爺さんがそんなことを言う。


「現金なら、銀行に預けんと自分で持っておれば所得を隠せるのう」

「ああ……」


 アイテムボックスに放り込んでおくという手が使えるのか。

 もしや、これが噂の所得隠しという技か?

 しかしそのお金、安全に使えるんだろうな?


「むむむ……」

「まぁそう悩むでない。金のことで困っても儂が全部うまくしてやるわい」


 頭を悩ませる俺を爺さんが笑い、機嫌よさそうにワインを飲んだ。

 このまま一泊どうじゃなどと気持ち悪いことを言うので。食事が終わるとさっさと一人【転移】で帰った。

 数日後、ギルドアプリに通知が来たので銀行の口座を調べに行ったら七億三千万が入金されていた。電子マネーも限度額の一億でパンパンだ。

 これの半分が持っていかれるのかと考えるとクラっとするな。




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