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死の勇者TS陰子は異世界帰還者である  作者: ぎあまん


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 金曜の夜。

 週末冒険者の集いに参加する。

 この間の偽装解体途中ビルの前には静かな集まりができていた。

 近辺の異世界帰還者と彼らを管理する冒険者ギルドの連中が集まっているのだ。


「よくもまぁこんなにいるもんだな」

「近隣の県からも来ているみたいよ」

「他にダンジョンはないのか?」

「ちょうどいい難易度がここらしいわ」

「へぇ……」


 ちょうどいい……ね。

 ここには、ざっくり計算で百人はいる。

 こんな田舎町に百人の異世界帰還者とそれを管理する人間が集まっているのだ。

 信じられない光景だ。


「しかし、これだといつ入れるかわからないんじゃないか?」


 いま、俺と霧、そして公英とアヤはダンジョンに入るための順番を待っているという状態だ。


「仕方ないわ。ここ、入り口が狭いからいっぺんに入れないのよ」

「ほとんどの連中は【転移】で狩場に直行するからすぐに順番が回るって」

「ふうん」


 アヤと公英の説明に空返事をする。

 それよりも気になることがあったので霧を見た。


「他にもダンジョンがあるのか?」

「県内はここだけ。県外にはいくつかあるわ」

「どこ?」

「アプリでわかるわよ」


 霧が冒険者ギルドアプリでダンジョンの見つけ方を教えてくれる。

 不人気のダンジョンか。使い道がありそうだ。


「そういえば、このパーティに名前とかあったりするのか?」

「いえ、ないわ」

「そうか」

「付けた方がいいと思う?」

「いや……それでいいんじゃないか?」

「そう」


 何か言いたげな目をする霧にどう答えたものかと考えていると公英が俺たちを呼んだ。


「順番が来たぜ」

「わかった」


 ビルを包む防音シートを潜ると以前とは光景が変わっていた。簡易の更衣室のようなものがあちこちにできていてそこから出てくる連中は皆ファンタジーな武装をしていた。

 村上辰の連中は武器しか引っ張り出さなかった。もともと攻撃一辺倒みたいな連中だったから防具のことは重視していなかったのかもしれない。


「霧は着替えるのか?」

「ええ、あるわよ」

「ファンタジー?」

「戦争用に供給されていた一般兵士の防具よ。あなたは着替えないの?」

「いや、着替える」


 聞いたのは空気を読みたかっただけだ。

 更衣室に入り、一般兵士用の防具とか持っていたっけとアイテムボックスをチェックすると、何着か見つかった。しかもいろんな国のものだ。これはいつもらったものだったか? 最初に貰ったものは使い潰したはずだからもしかしたら回収した死体の防具が分離保管されていたのかもしれないな。


「まっ、いいか」


 別に死体そのものを使っているわけでもない。国ごとに多少のデザインの差があるので黒と銀でカラーリングされた物を選ぶ。念のために【洗浄】で洗い、ごそごそと着込む。

 ああ、そういえばあいつらの前では賢者設定だったか。


「杖はどうするかな?」


 イメージでは魔法使い系統といえば杖だ。

 杖なんだ……が、俺がいた世界だと杖はもう時代遅れだったんだよな。

 とはいえ何か持っていないと格好がつかない。

 死霊軍団の魔法部隊に魔力増幅器を持たせていた……いや、あれはだめだカッコよすぎる。仏像の光背みたいなのだからな。

 あそこまで派手じゃないのだと…………。


 まっ、効果なんて別になくていいんだし、なんでもいいか。この場で作ろう。

 アイテムボックス内にあった木材を錬金魔法でそれっぽく加工する。気分は自然派の古代魔法使いだ。

 この装備だと一般兵士とは思えないフルフェイスの兜が付いているんだけど、さすがにそれはいいだろう。


「お待たせ」


 俺が出ると他の三人はすでに準備を終えていた。

 みな、基本は同じ格好だ。革製の上下と急所を守る金属製の鎧。俺のとそう変わりはない。ただ、どうやら三人が所属していた勢力のメインカラーは緑だったようだ。

 それ以外の違いは誤差のようなものだ。

 同じ人間に着せるものなのだから機能とコストを優先させると個性なんて消えてしまうのかもしれない。


「じゃあ、行こうか」

「おうっ!」


 公英が元気に答え、俺たちは光の球を潜ってダンジョンに入った。

 デミアストリアス人形城の内部について改めて書き加えることはなにもない。

 ただ、前回は俺と辰たち以外誰もいなかったが今回は違う。

 異世界帰還者が渋滞を起こしている。

 俺たちの進路を邪魔するのは人形兵ではなく、連中の出現を待つソロの連中だった。

 パーティを組んでいるような連中は【転移】を使って先に進んでいるようだ。


「もう少し先、人形将軍のところまで行けば戦えるはずよ」

「それは占いか?」

「そうね」


 霧の手には弓があった。普通の弓だが使いこまれたいい弓だ。

【鑑定】で見た時にも弓の熟練度が高かった。


「パーティを組んでいるような連中は人形将軍の後ろに行く。ソロの人たちにはあの前は少しきつい。だから、ちょっとした空白地帯なの」

「なんだ。占いじゃないのか」

「占いよ。だって、そこで戦ったことはないもの」

「回復役もいないのにそんな危険なところで戦えるもんか」

「そうそう」


 たしかに、ここの人形兵たちは公英と出会ったインスタントダンジョンのゴブリンよりも強い。


「安全を確保するのは大事なことよ」

「それはもちろん」


 霧が差し込んでくる言葉に答え、公英が剣を抜き、アヤがゴーレムを召喚するのを見る。

 人形将軍・少将の間の前に辿り着いた。

 彼女の言う通りにここは空白地帯となっていた。まかり間違って人形将軍・少将の気を引いてあの部屋から引きずり出してしまうのが怖いのだろう。


「…………」


 霧が無言で放った矢が石床に突き刺さる。

 それは境界線を示しているようだった。

 あそこから先に踏み込めば人形将軍・少将を引き寄せてしまうと予言しているようだった。

 そして、矢の音で人形兵たちが近づいてくる。


「よし! サポート頼むぜ!」

「はいよ」


 公英には以前にも能力補助の魔法をかけている。その時と同じことをし、そしてアヤのゴーレムにも同じことをする。


「すごい! ゴーレムにも同じことができるの! 生物じゃないのに!?」

「俺の魔法は理屈が違うみたいだな」

「すごいすごい」


 アヤのゴーレムは球体関節がむき出しの人形兵とは違い、全身鎧の騎士の姿をしている。そのために鈍重だったのだが、俺の魔法で動きの速度が上がった。

 パワータイプらしいゴーレムに速度を加えたのだ。


「私はなにもしなくてよさそうね」


 霧がそう漏らして弓を下ろす。

 それはそのまま、今夜の俺たちの勝利を占っていた。




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