181 Xの世界線
光の中心にその神は立つ。
光神イブラエル。
眩い光そのものの髪。色素がないかのような肌。
背後に強烈なライトを置いた透明なキャンバスの上に描かれた線画のような、それでいて立体を伴っているような……そんな曖昧な芸術作品を見ているような気分になる。
赤色巨星を宿しているかのような瞳だけが赤い。
前はもっと肉感的だったんだが、光の神と名乗ったことにより彼女の物質世界での表現が変質したのだろう。
俺があの境地になるのはまだ先か……それともやり方に気づいていないだけか。
「気に入りませんね」
イブラエルの赤い目が俺を見据える。
「あなた、私に勝てると思っていませんか?」
「え? むしろ聞きたい。お前、まだ俺に勝てると思ってたのか?」
瞬間、俺のいた場所に光の槍のウニが出来上がった。
「若神の分際で……傲慢ですよ?」
イブラエルがそんなことを言う。
涼しい顔で。
余裕綽々で。
だけど俺には当たっていない。
「そうか。気付いていないのか」
「っ⁉」
同じ神でも、認識の差があるということか。
「あなた……」
移動している俺に気付いてイブラエルが振り返る。
「なるほど……私が手を加えたのですからね。この程度のことはできて当然ということですね」
「おおっと……まだ自画自賛する余裕があるのか? 師匠の振りしていた方が賢かったんじゃないか?」
【無尽無辺】
イブラエルの姿が完全に光に呑まれ、宇宙から色素が吹き飛ぶ。
超新星爆発だ。
恒星の最期を飾る爆発によって周囲の空間は破壊エネルギーに呑まれていく。
俺は緩やかにその破壊流に乗り、そして名前の通りに際限なく破壊が広がらないように【瞑想】で吸い込んでいく。
イブラエルの驚愕が見え……眩しすぎて見えないが感じることはできる。
攻撃は続く。
【無尽無辺】
超新星爆発の連続。
「怖い怖い」
爆発エネルギーが空間を軋ませる。
周辺のブラックホールが活性化しそこら中から重力のお誘いがある。
神となって存在力が増したことで結果的にあちこちからの影響も強く感じるようになった。困ったものである。
だがそれは同時に、それらに干渉する力を得た、ということでもある。
【神層瞑想】
周辺のブラックホールとシンクロした【瞑想】によって超新星爆発で発生した高エネルギー電子を吸収させ、受け流す。
イブラエルの得意技である【無尽無辺】への攻略法だ。
「そんな……まさか!」
イブラエルの焦りがさらなる超新星爆発を生む。
「たしかにお前は強いな。さすがは光の神だ。だけどな……」
何回もやっていれば、難易度はどんどんとさがるというもの。
「お前とはもう、飽きるほど戦ってるんでね」
「たわ言を!」
おっと戦い方を変えて来た。
光の中から影の中から誕生した複数の分身が襲いかかって来る。
師匠たち、そして知らない誰か。
全て、イブラエルの権能たち、自我の、能力の側面。
ぶっちゃけ、強攻撃連打でしかない【無尽無辺】よりもこっちの方が厄介だ。
だ・が・な!
「それも対策済みだ」
【魔神王骸・励起】
俺の背後にブラックホールが生まれる。
否、正確にはブラックホール化した俺のアイテムボックスが可視化される。
そこから吐き出されるのはかつての強敵。
フェブリヤーナを生み出し、操り、イブラエルと敵対した神の王。
俺が最初に倒した神にして、俺が神となる契機となった神王。
神の王ってなんだよって、神になった今でも思うのだがそこはそれ。
大量の高エネルギーを喰らって惑星をも超える巨体にまで成長した蛇体が姿を見せる。
そしてその状態でさえも、じつはまだ半分も出ていないという状況。
蛇体と呼んだが、そこかしこにねじれ曲がった枝のようなものが伸びているので蛇樹とでも呼んだ方がいいのかもしれない。
体のあちこちから伸びたその枝を起点に魔力が高速で結晶化し、イブラエルから放たれた分身に向けて矢の如く成長する。
逃げることなどできない。
師匠たちの動きはもちろんのこと、それ以外の分身たちの動きも把握済み。
未来予知の如く、魔力結晶枝の作り出す剣林に囚われ、刺し貫かれ、抉られていく。
未来予知。
そう未来予知の如く。
神でさえも未来を見ることはできない。
神でさえも過去に遡ればその時点からのやり直しになる。
記憶を残すこともできやしない。
無限に存在する世界線は観測者を失った時点でないも同然の存在となる。
だが、俺は……やり直しではなく、繰り返す力を得た。
だから、次の目標は、この状況を突破することだ。
「いい加減、俺を先に進ませろ」
いいや、違う。
この状況を作った奴は俺が諦めると思っていやがる。
本物の神成りの薬を手に入れるための因果を調整する段階で、誰かは俺と運命が交わる道を消した。
消えたのか、消したのか知らないが、俺の前からいなくなった。
誰かは知らないが、そんなことを俺が許すものか。
なんとしてでもその壁を突破して、俺はそいつの前に行く。
「待っていろよ」
そいつに会うためなら、神だろうとなんだろうと、何度だって屠ってやる!
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