158 他人の悪だくみには乗りたくない
亮平を送り出し、サチホちゃんとだらだらと話す。
霧は完全に本の世界に入り込んでいるので放っておくしかない。
サチホちゃんがあからさまにべたべたしてくるが、それさえも目に入らないぐらいの集中ぶりである。
どれだけ忙しかったのやら。
うん、すまぬ。すまぬぅ。
嬉々として引っ付いてくるサチホちゃんをいなしつつ、テレビをつける。
もう深夜なのでたいした番組はやっていないが、ここのテレビは動画配信サービスと契約してるのでそれに切り替えるつもりだった。
テレビはニュースをやっていた。
ヨーロッパの騒動を特集しているようだった。
現在、ヨーロッパは複数のダンジョン・フローによって中世風ファンタジー世界の様相を呈している。
ただ、残念なことにスローライフは望めそうにない。
あちこちをモンスターの群れが横行する終末世界だ。
それはそれで刺激的で楽しそうだが、一般人にとっては不幸でしかない。ネット上では惨憺たる画像や動画が溢れかえっているが、どこの国も現在は騒動のバーゲンセール中なので支援なんてほとんどできていない状況だ。
「織羽さんは解決したりはしないんですか?」
「うーん」
そういう話はひっきりなしに来ている。
C国が払った報酬程度なら支払える国はEUにはいくつかあるだろうし、実際にその倍払うって言ってる国もある。
「ただなぁ、ここもあんまり留守にしていい状況でもないしなぁ」
アホどもが幕末ごっこしているせいで、攻略が停滞しているダンジョンがそこら中にあるのだ。
結局はそういうダンジョンの攻略依頼がうちに来て、日本中にクラン員を派遣するという、『王国』を設立したころと同じぐらいの忙しさになっている。
亮平たちも地方から帰って来たばかりだったりするのだ。
あの頃よりは人員も補充されているし、装備も充実しているからさほど苦労には感じないが、忙しいことは忙しい。
「それに……」
と、俺はオーガの集団と戦うどこぞの軍隊の映像とそこから避難する人々の映像を見ながら呟く。
ちらりと、見知った顔がカメラの前を行き過ぎた。
作為を感じる偶然にやれやれとため息を吐く。
「どうも、あそこには行かない方が良いような気がするんだよな」
「それは、もしかして霊感という奴ですか?」
「うーん、そうかも」
本当は違うんだけど、ちゃんと説明してもあれだし。
「どうやらうちの師匠どもがあそこで悪だくみしてるっぽいし、たぶんそれ俺が関係ありそうなやつだから近づきたくない」なんて言ったら絶対に「どうして?」と返されてしまうに決まってる。
お約束的にはむしろ行くべきだよな。
だけど行きたくない。
なーんか、言語化できないけど嫌なことが待ってる。
師匠どものスパルタには慣れたものだけど、なんかまだ俺のことをどこかに導きたがってるんだよ。
だけど俺はもう、そういうのはご勘弁だ。
向こうの世界で望まれた役割は終えた。
それでいいじゃない? と思うんだけどな。
「まぁ、織羽さんはわたしのヒーローだからそれでいいんですけどね」
よくわからないが、サチホちゃんは納得してくれたようだ。
「でも、ネットなんか見てるといろいろ言われちゃってますよね」
「ああ、まぁね」
めっちゃ強い俺のことをヒーロー的に期待してる連中ってのはいるし、そういう奴らは俺が世界中のトラブルを総ざらいで解決することを求めている。
「ばかばかしい。そんなことしてありがたがられても困る」
無償の善意が当たり前になると受け取る側が傲慢になる。
『お客様は神様だ』を真面目に信じちゃう層というのは実在するのだ。そういう連中に「~~すべき」みたいにべきべき言われたくはない。
真に尊敬すべきは俺のこんなへそ曲がり論を「だからどうした」と一蹴して人助けに奔走できる人たちだが、あいにくとそのカテゴリーへの仲間入りはできそうにない。
だから俺は報酬を求める。
「でもいま、報酬提示されても行ってないんですよね」
「はっはっはっ、サチホちゃんって意外に躊躇なく刺してくるね」
「うっ、すいません」
「ええのんよ。軽口ぜんぜんオッケー。まっ、理由はさっきも言ったように。この国もみんなが思ってる以上にあやういってことよ」
せっかくダンジョン攻略のためのクランってのを作ったし、他の連中も雨後の筍のごとく名乗り上げていったのに、どいつもこいつもダンジョン攻略をおざなりにして戦国時代を楽しもうとしている。
再び秋葉原みたいなことが起きたとき、はたして素直に解決することができるのかね?
「それに、俺って今はもう雇われてる最中でね。そっちが解決しないと動けないな」
「あっ、そうだったんですか」
「そうそう」
仕事の内容は聞かれなかった。
発表の時まで秘密にするというのは芸能界でもたくさんありそうだからサチホちゃんも踏み込んでいい場所かどうかがわかるのだろう。
ああ、それにしてもスペクターか。
白魔法による過去からの検索ができないとすると、どうやって見つけるべきか。
一応は竹葉の周辺にはガードを付けているので、なにかあった時にはすぐに対応できる。竹葉自身も自分で護衛を付けているしあっさり暗殺されるということはないだろう。
無差別テロとかに走られると面倒だな。
とりあえずタケバエネルギー関連の施設には全部監視を付けておくとしよう。
うーん……やり口は想像できるんだが、そのやり方がやり方だけにフォローしないといけない範囲が広いよな。
目的のために受けたとはいえ、さてどうしたものかな。
そもそも俺って攻めに特化してるからな。
守りって自分でも得意なイメージないな。
そんなことを考えている内にサチホちゃんが寝てしまった。
ソファに転がして毛布を掛けてやる。
霧は……まだ本を読んでいる。
そういえばテレビがニュースのままだ。
どうやら神話で有名なあの国だ。特徴的な神殿が見えるロケーションで戦闘が行われている。
襲いかかる魔物たち。
剣と魔法で迎撃する異世界帰還者たち。
神話の世界に舞い戻ったかのような光景だな。
そしてカメラをすっと横切る、特徴的な三角帽子。
「やれやれ、好き放題か」
俺へのアピールだとしても主張が激しすぎないか?
なぁ、師匠たちよ。
よろしければ、励みになりますので評価・ブックマークでの応援をお願いします。
下の☆☆☆☆☆での評価が継続の力となります。
カクヨムで先行連載していますので、よろしければそちらの応援もお願いします。




