102 バトル・オブ・AKB 06
アキバドルアーガに向けて移動を開始する。
背後では他の異世界帰還者や自衛隊と通信を担当していた仲間が亮平を交えてあちこちと話している。
「織羽ちゃん」
いつも通りの口調に戻った亮平が通信機を持って俺のところに来た。
「自衛隊のお偉いさんが織羽ちゃんと話したいって」
「ええ?」
「そんな嫌そうな顔をしなくても」
「俺、あっちでもお偉いさんとはほとんど喧嘩しかしてないんだけど?」
「ははは。我らが君主が世界に覇を唱えたいならそれでもいいけど?」
朗らかに笑っているが通信機を向ける手をひっこめたりはしない。
しかたないので受け取った。
ええと、こうやるんだっけか?
「ああ、ああ……クラン『王国』の封月織羽だ。そっちは?」
「現場の士気を任されている兵頭三佐だ。よろしく頼む」
「どうも、それで?」
「君の所のサブマスターからアキバドルアーガへの攻略願いが出されたが、本気か?」
「本気だ。その間の防衛網の箍が緩まないように追加戦力も提供した。見えているよな?」
「君が言っているのが空を飛んでいるストームトルーパーと、地を這うメカキングギドラのことを指しているのなら確認している」
「それだ。部隊証代わりにうちのクランのマークを入れてあるから攻撃しないでくれよ」
「了解した。すでに十分な協力をもらっている。感謝する」
「どういたしまして。で、いいかな?」
「もちろんかまわない。成功を祈る」
「そちらこそ、救助活動をがんばってくれ。では」
「ああ、頼む」
話が分かるおっさんでよかった。
「さて、亮平はあれからどれくらい攻略したんだ?」
「僕たちは五十階まで到達していたよ」
「ボスがいる階はわかっているのか?」
「冒険者ギルドから下りてきた情報によると、ナムコスが最後の攻略に出向く前に転移を設定したのは七十階だそうだよ」
「なんだ、けっこう差を付けられてるじゃないか」
「ははは……まぁちょっと、ナムコスに忖度しちゃってしまったから」
「おや?」
「最初から、僕がやる気を見せたら停滞気味だった彼らの尻に火が点くだろうと思っていたからね。思惑通りになっていたからトップの座は譲っていたんだよ。攻略依頼を受けていたダンジョンは他にもあったし」
「なるほど」
「……あのとき、忖度なんかせずにここを攻略してしまっていたら、こんなことにはならなかったのかも」
「そのときはどうせ、他のダンジョンがこんなになっていただろ。世界的に見て」
「そうかもしれないね」
「しょうもないことで落ち込む暇があったら、この後できるお前のファンクラブの心配でもしていたらどうだ?」
「あっ、やっぱりできるかな?」
「そりゃ、できるだろ。これで俺たちは一躍有名人だ」
「ふふ……それは楽しみだ」
「そうそう。後ろの三人娘にばれないようにつまみ食いするにはどうしたらいいか、それを考える方が建設的だな」
「それは重要な案件だね。マスター。なにかご意見は?」
「知らね」
すでに殺気立っている三人娘のことを無視して俺は笑う。
亮平は苦笑する。
アキバドルアーガに到着する。
護衛に付けていた【魔甲戦車】が出てくるモンスターを次々とやっつけるから俺たちは疲れてもいない。
途中のビルで救助を求める人たちがいたが、彼らには他の救助部隊が発見しやすくするための発煙筒を渡すだけに留める。
場所さえわかっていれば上空から【魔銃騎士団】が守る。弾薬は潤沢に渡してあるし、あいつらの弾薬ボックスは俺のアイテムボックスと連結してあるから弾切れなんてまず起こらない。装備の交換もこっちから遠隔で行える。
従来の死霊軍団やそれ以外の兵力なら俺の魔力供給さえ途絶えなければノーメンテナンスで戦えたのだが、近代兵器に似せた【魔銃騎士団】はそういうわけにもいかない。Lと色々と意見を交わしながらこいつらの補給体制を確立した。
最終的に一緒に考えたLにまで「ありえない」と呆れられた。俺以外にこんなことはできないらしい。
みんな軟弱だなぁ。
ともあれ、次なる問題だ。
この大人数をどうやって五十階まで転移させるかをクランの魔法使いたちが心配している。
普通の魔法使いだとパーティ単位……多くて十人ぐらいまでしか一度に運べないらしい。
そして、五十階まで辿り着いているのは亮平とそれをサポートしていた三人娘ほか数名。
つまり、三人娘の一人、賢者の咲矢春しか転移できないのだ。
なので俺が力づくで解決することにする。
「じゃっ、とりあえず俺込みで運べるだけ運んでくれよ」
「え?」
「亮平たちはその場で安全を確保して、俺がその間に残りを転移させる。この作戦でいいだろう?」
「織羽ちゃんができるというなら、それでいいよ」
「じゃっ、そういうことで」
「いやいや、待って! そんな簡単な話?」
「織羽ちゃんにとっては簡単な話なのかもね」
「…………」
「ほれほれ、やるぞ」
頭を抱える春を霧が慰めている。
「あの人のことを常識で考えてはダメですよ」って……ひでぇ話だ。
そんなこんなで俺と亮平と霧と三人娘と他四人の合計十人がまず五十階に運ばれ、それから俺が転移で戻って他の連中を連れてくる。
「ほんとに一度で連れて来た!」
と、また春が頭を抱えている。
他の魔法使い連中まで茫然としている。
そんな騒然とした空気を亮平が整理する。
「はいはい。僕たちのマスターは常識外れに強くてとてもラッキーだ。でもだからって戦場で気を抜かないでくれよ」
ゆるい声掛けながら亮平が言うと場が締まる。
クラスというよりは歴戦の風格がそうさせるのだろう。
「さて、ここからはどういう作戦で行くんだい?」
「進めるだけ進む。攻略班は交代制にしよう。俺と霧。亮平のパーティ、後の連中の班分けはそっちで任せる」
「これだけの集団だから周囲を警戒する班も必要だね。僕と織羽ちゃんの班が先頭を交替で担当して他の班は同じく交替で周辺警戒。後方支援班も魔力を温存するようにローテーションを組まないとね」
「よし任せた!」
「了解。君主は方向性だけ決めてくれれば十分ですよ」
「うむ!」
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