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勝負

 クルト兄さんから難題を突き付けられてから、1か月後--


 俺は屋敷の一角にある空き地にいた。そこにいるのは、俺一人ではない。目の前にはクルト兄さん、マーク兄さん、それに父さんも立っている。

 そして俺たち全員が、いつも鍛錬で使っている木刀を持っている。


「じゃあ始めようか」

「お願いします」


 クルト兄さんが言うと、俺も軽く一礼する。

 今から始まるのは、クルト兄さんが提案した模擬戦--魔法学園入学をかけて勝たなければならない試合だ。


 しかも、ただ勝つだけではだめだ。試合を通して、兄さんたちに俺が学園に通うことを納得させ、授業料を負担しようと思わせなければならない。


「「…………」」


 朗らかな笑みを浮かべるクルト兄さんとは対照的に、父さんとマーク兄さんは無言のまま俺を見ている。父さんに至っては眉間に皺が寄りすぎて大変なことになっていた。


(そんなに魔法学園にいかせたくないのか……)


 どうやら、父さんは是が非でも俺に剣術をさせていたいらしい。

 ……まあ、そこも含めて納得させればいい。そのためのこの試合だ。


「レヴィ、まずは誰とやるんだい?」


 クルト兄さんがそう訊いてきた。試合は一対一を3回行い、その全てに俺が勝てば俺の勝ち。そして、その順番は俺が選べるようだ。

 だが……あいにくながら、その厚意は辞退させてもらおう。


「全員で」

「「!?」」

「……本気なのか?」

「はい」


 驚いて息を呑む2人の兄さんを尻目に、父さんが険しい顔で問いただす。

 それに即答すると、明らかに不機嫌そうな顔をした。


 俺が求めたのは3対1の模擬戦。しかも、相手うちの2人は圧倒的な実力を持ち、体格差を考えると明らかに俺が不利な条件である。


 暗に「お前ら3人がかりでも勝てる」と言っているようなものだ。兄さんたちが息を呑んだり、父さんが怖い顔をするのも無理は無い。


 だが、今回はこうでないといけないのだ。


「負けても負け惜しみを言うなよ」

「そっちこそ」


 父さんが低い声で恫喝するように呟いた言葉に、不敵に笑って言い返す。

 父さんはすでに剣を構えており、兄さんたちもそれに続くように構えをとる。


「それでは始めさせていただきます」


 この試合の審判に選ばれたイブが淡々とそう告げる。

 それからおよそ3秒、俺と父さんたちは対峙したまま睨みあい……


「始め!」


 その瞬間、木刀が空を切った。父さんだ。


 合図がかかった瞬間に飛び出し、俺との距離10メートルが一瞬にして0になる。そうして、俺に肉薄した父さんの木刀が頭上から振り下ろされた。


 普通の兵士なら……いや熟練の兵士でもこれを避けることはできないだろう。それほどまでに洗練された美しい一振り。


 俺は一歩横にずれることでその一刀を回避する。今までの鍛錬で何度も見ているのだ。予測して避けるのは不可能ではない。


 渾身の初撃を空振った父さんは、懐に俺を迎え入れることになった。俺は至近距離で木刀を振りぬく。ほぼ密着状態で必ず当たると思われた一撃は虚しく空を切ってしまう。


 気づけば、父さんはすでに安全圏まで避難している。

 中年のいい歳したおじさんがよくもまあここまで機敏に動けるものだ。


 思わず感心しながら辺りを見渡す。

 正面には父さん、後ろには兄さんたち。父さんの初手を防いでいる間に囲まれたようだ。


 まあ、そうなるだろう。数で有利なら囲ってたたくのが常套手段じょうとうしゅだんだ。それくらいは予想出来ている。

 だから……


(ここからが本番だな)


 落ち着いて集中し、周りに意識を向ける。

 そんな俺に構わず、父さんたちはいっせいに俺を攻撃し始めた。


 父さんの目にも止まらぬ剣が、クルト兄さんの的確に隙をつく知略が、マーク兄さんの当たれば人体が壊れてしまうような轟剣が、俺に襲い掛かる。


 三方向から同時に攻撃され、俺はなすすべなく剣をくらい、試合は終了する……と思っていたのだろう。だが、その瞬間はいつまでたってもやってこない。


 しばらくして、父さんたちの額に汗が伝い始めたのが分かった。身体を動かしていることによる発汗もあるのだろうが、おそらくそれだけではない。


 さらに時間が経つと、その表情は焦りに変わり始めた。

 なぜなら……彼らの攻撃は()()()()()俺に当たっていないのだから。


 もう一度言うが、俺は包囲されてから今まで一撃もくらっていない。

 それは父さんたちが手を抜いているからとかではない。むしろ、容赦なく本気で攻撃している。


 にもかかわらず、当たらないのだ。

 父さんがどれだけ高速で剣を振ろうとも、マーク兄さんが剛力で剣を振り下ろしても、その2人に追い込まれた俺を狙ってクルト兄さんが的確に攻撃しても……


 俺はそれらを躱し、いなし、捌き続けた。

 その動きに乱れはなく、いつまでも続けられそうな気がしてくる。


 囲まれてから攻撃を受け続けてどのくらい経っただろうか。

 俺よりも3人の方が疲弊しているような気がする。おそらく、肉体面よりも精神面の方が疲労の色は濃いだろう。


(そろそろか……)


 そう考えながら、俺はその時を待つ。それほど時間はかからず、それはやってきた。マーク兄さんが立ち位置を変えようと片足を持ち上げたのだ。そして……


「っ!!?」


 次の瞬間、マーク兄さんは声にならない悲鳴を漏らす。

 移動しようとして一歩下がると、()()()()()()()()()()()足を取られ、態勢を崩したのだ。


 それを見るや否や、俺はその場から飛び出した。狙いはマーク兄さん。

 兄さんは飛びこんでくる俺を見て防御しようとしたようだが、遅かった。俺の木刀がマーク兄さんの腹を叩きつける。


 俺はその勢いのままマーク兄さんを通り過ぎ、父さんたちから距離をとった。


「マーク様、死亡です」


 俺が着地して振り返ると、イブの判定が耳に入ってくる。

 マーク兄さんは何が何だか分からないような様子で、他の2人も動揺していた。


 が、いち早く冷静になったクルト兄さんが呟いた。


「……魔法か」

(その通り)


 声には出さないまでも笑みを深めて肯定する。


 そう、俺は魔法を使ってこの試合を有利に進めていたのだ。

 具体的には、囲まれたときに攻撃を避け続けられたり、マーク兄さんの足元に窪みができたのは魔法によるものである。


 考えてみれば当然ではある。

 自分の周りを360度完全に把握して、あまつさえ、四方八方からの攻撃を全て捌ききるのはどう頑張っても不可能だ。

 出来るとすれば、次の攻撃を正確に予測できないといけない。


 というわけで、攻撃の予測のために魔法を活用してみた。


 風魔法を利用して自分の周囲の空気の流れを知覚。その流れから相手の動きを感知して、次の攻撃を予測するというからくりだ。


 そして、魔法を使っていることがバレた今、もうこそこそする必要はない。


 俺は2つの魔法を発動させる。

 1つは土魔法。地面に激しい隆起をつけて、まともに立てないくらいまで足場を悪くする。

 もう1つは風魔法。これを足に付与して、空気を()()()移動できるようにする。要するに、空を飛ぶ魔法ということだ。


 こうすることで、父さんたちは最悪の足場で応戦しないといけないのに対して、俺は空中を高速移動できるようになった。

 こと移動力に関しては、俺が圧倒的に優位に立ったのだ。


「攻守逆転だ」


 平らだった大地が突然にして凸凹でこぼこになったことに動揺する2人に、俺は容赦なく攻撃を開始する。


 戦法はヒットアンドアウェイ。

 こちらに分がある速度を上手く利用し、一方的に攻撃を当てていく。


 クルト兄さんは多少耐えていたものの、慣れない足場についにバランスを崩す。俺はその隙にその手に持っていた剣を弾き飛ばした。そのまま、木刀を首筋に当てる。


「クルト様、死亡です」


 イブの声が伝わり、クルト兄さんも脱落。残るは父さん1人だ。


 とはいえ、こちらが圧倒的に有利なはず。兄さんと同じように態勢を崩したところで強襲すれば勝てる。


(……と思っていた時期が俺にもありました)


 その勝算は、父さんを見た瞬間霧のように消え失せた。

 なぜなら、父さんはこの不安定な足場で危なげなく仁王立ちしているのだ。いや、それどころか先ほどまでと一切変わらない速度で俺に肉薄してくるではないか。


 そのまま振るわれた木刀を弾き返しながら俺は距離をとる……が、離れることを許さないと言わんばかりに、父さんはすぐに迫ってきた。


(このままじゃ、ジリ貧だな)


 父さんの剣を捌きながら次の作戦を立てる。


 傍から見れば、俺の方が優勢に見えるが、実はかなり厳しい。特に魔力消費が激しい。魔力が切れて魔法が使えなくなれば、負けるのは間違いなく俺だ。


 本来なら身体強化を使って押し切るつもりだったのだが、この悪い足場で鈍ると思われた技のキレは、鈍るどころかますますさえてきているように感じる。


 これでは身体強化を使っても、父さんにとどめを刺す前に魔力切れになってしまうだろう。


(…………あっ)


 父さんの剣術を捌きながら回転させていた頭が不意に良策を導き出す。

 正直あまりやりたくはないのだが……これ以外になんとかできる方法が思いつかない。


 大きく息を吸い、決着のための覚悟を決める。


 そして、今まで受けるだけだった姿勢から反転、積極的に攻撃を叩きこみ始める。突然の攻勢に父さんは驚いた表情を見せるが、剣筋に乱れはない。


 十合、二十合と、互いに一進一退の打ち合いが続き、その数が百を超えたあたりで限界が来た。

 父さんの一撃に踏ん張りきれず、撃ち込まれた木刀ごと体を仰け反らせてしまう。当然、父さんがその隙を見逃すはずがない。すぐに俺の身体目掛けて木刀を振り下ろす。


 その切っ先が俺の身体に触れようとしたその時ーー


 暴風が吹き荒れた。普通であれば立っていられなくなるほどの暴風。

 その風は、不安定な足場の上に立ち、木刀を振り下ろすという安定感のない格好をしていた父さんの体を吹き飛ばした。


 父さんの体は地上3メートルほどまで飛び上がり宙を舞う。


(これなら回避もできない!)


 俺は地面を蹴り飛ばし、一瞬で父さんの懐に入り込む。

 父さんは俺に気づいて剣を構えようとするが、その時には俺の木刀が父さんの横っ腹を殴りつけていた。


 ゴッ!という鈍い音が空中で鳴り、その直後に俺たちの体は地面に引っ張られる。ひどい態勢ではあったが、なんとか着地に成功した。


「ゲイル様、死亡です」


 そして、俺は息を切らしながら終始淡々としていたイブのジャッジを聞くのであった。

おもしろいと思っていただければ、ブクマやポイントなどいただけると励みになります。


よろしくお願いします!

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