道中
「で、次はどうする?」
「ん~、とりあえずご飯にしよっか」
魔道具店を出て機嫌が完全復活したアリシアが、軽快にそう答える。対する俺も異議なしと返して、2人で飲食店目指して歩いていく。
アリシアの主だった目的はこれで解消したらしいので、残る予定はエクラに行くように勧められた演劇のみである。とはいえ、開演まではまだ3時間ほどある。昼食が1時間ほど、移動やその他待ち時間などが1時間ほどと考えても、まだ1時間も余裕ができるということになる。
「飯食べた後はどうする?」
「特に考えてない」
「うん、そうだよな」
もともと期待はしていなかったが、ノープランらしい。もちろん、俺にも考えがあるわけではなく、
「じゃあ、劇場に向かう間に寄り道でもするか」
そう提案するので精一杯だった。流石にてきとう過ぎるかとも思ったが、アリシアはこれに特に悩む様子もなく賛同した。
今日の予定も確定したところで、そこからは特筆する話題もなくなってしまた。ということで、どうでもいいことを駄弁りながら歩くことになったのだが、
「でね、あんまりにもしつこいからここ2か月くらいずっと無視してるの」
「なにしてんだよ……」
「仕方ないでしょ。言っても聞かないんだから」
不満げな様子を隠すこともなくしかめ面をするアリシア。
俺が家族との文通の話題を出したところ、アリシアがセシルさんからの手紙を頑なに無視しているという事実が発覚したのだ。
そして、顔を引きつらせて相槌を打つ俺を尻目に、アリシアは流れるよう愚痴を漏らし始める。
「私も良くないとは思ってるの。でもね、流石に1週間に1通は送りすぎだと思うの」
実際にはもっといろいろと言っていたのだが、要約すればこの一言に尽きる。
領地を出たのは3か月半ほど前。最初の1か月は試験とその結果発表で、入学したのは2か月半ほど前のことになる。そして、セシルさんは3か月半前から毎週手紙を送っているらしい。
(親バカが出てきたかな?)
俺にはそのことが微笑ましく思えてしまうが、当の娘には迷惑でしかないらしい。確かに、毎週毎週短くない手紙を送られて、それに返事をするのは面倒くさいだろう。
ちなみに、スパーダ家は1月に1通ペース。家族は皆元気だというような文面が毎回送られてくる。何事もなくてなによりだ。
なんてことを考えている間にも、アリシアの愚痴と歩みを進める足は止まることはなく、アリシアが一通り鬱憤を吐き出してすっきりしたころには飲食店が並ぶ通りにたどり着いていたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
食事を終えた俺たちは、店を出て劇場に向かっていた。といっても、急ぐ必要がないので、街でも見ながらゆっくり歩こうとしていたのだが、
「やっぱり人多いね」
「まあ、休日だしな」
休日、真昼間の商業区は様々な人で溢れている。若い男女や親子連れ、中年の団体など年齢層は幅広い。その大半は俺たちと同じように買い物や外食に来ている者だが、中には大きな荷物を担いだ商人らしき人物もちらほら見かける。
そんなわけだから、十分に広さがあるこの路道でも前に進むのが難しい。俺たちが牛歩なのは、時間にゆとりがあることも理由の一つだが、最大の原因はこの歩きづらさのせいである。
しかも、街を見て歩こうにも視界が人の波に遮られる。目に見えるものと言えば、よく見えるように高めの位置に取り付けられた店の看板や、背の高い建物の窓くらいなものだ。
「……なあアリシア。とりあえず、どこかの店に避難しないか」
はぐれそうなアリシアの手を引いてそんな提案をする。
「賛成。どこにする?」
「左に見えるあの店で」
アリシアは即座に肯定したので、手を引いたまま少しずつ左に動いていく。
人波にもまれながらも、なんとか店の前までたどり着くことができた。
「ふう、疲れた。少しくらいしたらこの混雑も収まるかな?」
「祈るしかないな」
俺は苦笑しながらそう答え、扉を開ける。チリンという音が聞こえた後、店内の風景が目に入ってくる。
「ここは……宝石店か?」
たくさんのショーケースの中に様々な色の宝石が展示されている。
そこは紛れもなく、宝石店であった。
10,000PV 突破しました!ありがとうございます!
おもしろいと思っていただければ、ブクマやポイントなどいただけると励みになります。
よろしくお願いします!




