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ロザリオ

(困ったな……)


 俺は陳列する魔道具を見ながら嘆息する。ちらりと右に視線を向けると、アリシアも俺と同じように並んでいる商品に目を向けている。

 それだけなら問題ないのだが、俺が無意識に悩まし気な声を出してしまう原因は別のところにあった。


「なあ、アリシア……」

「どうしたの?」

「さっきからずっと右を向いてるけど、辛くないのか?」

「大丈夫!」

「いやでも、そろそろ戻したほうが……」

「気にしないで!」


 食い気味に言い切られた俺は、どうしたものかと首をひねる。

 アリシアがさっきから目を合わせてくれないのだ。いや、目を合わせてくれないというより、顔を見ようとしないと言った方が正しい。


 俺が近づくとさりげなく体の向きを変えたり、隣に並ぶと顔を限界までそらして頑なに俺を視界に入れようとしていないのである。


(何やったっけ……心当たりがなさすぎる)


 この反応を見るに、おそらく俺が何かやったんだろうが、全くと言っていいほど思い当たらない。

 あるとすれば店長(らしき女性)をじっと見ていたのを見咎められたくらいだが、それが原因でこの態度と考えるには疑問が残る。


(うん、分からん……)


 手掛かりがなさ過ぎるため推測のしようもなく、直接聞いたところで教えてくれそうにもない。結局、俺は肩を落としてため息をつくことしかできなかった。

 俺が思考を打ち止める合図のように長い息を吐きだすと、右隣の肩が小さく跳ねた。見れば、アリシアは表情こそ見えないものの、背中を丸めて明らかに申し訳なさそうにしていた。


(あー……しくじったな……)


 顔を引きつらせて、つい数秒前にため息をついたことを後悔する。

 結果、雰囲気は最悪となり、お世辞にも『楽しく買い物』なんて空気ではなくなってしまった。


 正直、かなりまずい。

 今日は二人で出かけるということになっていたが、もとをただせばアリシアの気分転換が目的だ。それなのに、この状態ではもうそれどころではない。


 そうして焦った俺が、打開策がないかと藁にも縋る思いで周りを見渡していると、思いもよらぬ救世主がやってくることになる。


「そこの2人、どうしたのかな?」


 声の主に目を向けると、そこにはくだんの店長(らしき女性)が立っていた。視線が完全にこちらを捉えているので、俺たちに掛けられた言葉だというのを理解するのに時間はかからなかった。


「あーっと……欲しい商品があったんですけど、どうにも予算が足りそうになくて……」


 俺は愛想笑いを浮かべて、当たり障りのない嘘をつく。

 本当のことを言ったところで意味が分からないだろうし、そもそもどうしたのかなんて俺の方が聞きたい……


「どれかしら?」

「えっと……」

「これです!」


 予想外にも踏み込まれて若干答えに詰まった俺に代わって、アリシアが答える。そうして差し出された商品を目にして、相手の女性はふっと表情を和らげた。


「あら、これなら値引きしてあげるわよ」

「えっ……」

「本当ですか!?」


 まさかの値引き宣言に、俺はただただ驚愕し、その一方でアリシアは食いついた。


「ええ。これ、私が作ったから」

「「!!?」」


 さらに続けられたその言葉に、俺は今度こそ絶句した。まるでなんでもないというように言う彼女だが、魔道具はそんな簡単に作れるような代物ではない。

 魔法に関する知識は当然として、それを無機物に付与しないといけないという条件が難易度を跳ね上げているのだ。センスや才能にも左右されるだろうが、間違ってもお手軽に作れるものではない。


「どんな効果があるんですか!?」

「えっと、これはね……」


 自作したとの言葉に好奇心をくすぐられたアリシアは、目を輝かせて質問をし始めた。対して、俺はというとポカンとしてその会話を傍聴するだけとなった。


 それからおよそ30分にもわたる問答で分かったことは、彼女がやはりこの店の店長であったということ。

 この店のほとんどの魔道具は彼女が自作しており、馬鹿高い値段設定はそれが原因だったということ。

 商売の利益はあまり考慮していないため、今回のような値下げの要望にも大抵は応じる気でいるとのこと。


 そういう内容の会話を終えた2人は、そそくさと会計に移り……


「ありがとね~」


 店を出るときにはホクホク顔の店長が見送りに出てくれ、品物を買ったアリシアもかなり上機嫌になっていた。


(結果オーライ……なのか?)


 確かにアリシアの機嫌を直そうと考えていたが、ここまで簡単にいっていいのだろうか……?

 なんというか、釈然としない。


「ねえ、レヴィ」

「ん、どうした?」

「右手出して」

「えっと……はい」


 素直に言われたとおりに右手を出すと、その掌に何かを握らされた。

 何かと思って、手を開いてそれを確認する。


「……ロザリオ?」

「うん、あげる」


 アリシアがそう言って渡してきたそれは、いくつもの玉と銀の十字架が連結された、ロザリオであった。主に、神に祈るときに使われるアレである。


「俺、無宗教なんだけど……」

「私もだよ」

「……使わんだろ」

「アクセサリーの一種だと思えばいいでしょ?それに、これも魔道具だし」


 苦笑いする俺に対して、そう言って反論するアリシア。よく見ると、その左手にも俺が持っているものと同じロザリオが握られていた。

 2つ買ったのかと思う反面、魔道具としての効果も気になった俺は直接訊いてみることにした。


「これの効果ってなんなの?」

「えっと……お祓いらしいよ」

「何の?」

「悪魔とか?」

「悪魔!?」


 さすがに顔を引きつらせざるを得ない。悪魔とかいうのは神話とか御伽噺おとぎばなしの類の話だ。いないことは証明されていないが、いるはずがないというのが常識である。

 つまるところ、このロザリオには本当にアクセサリー以外の役割はないということになる。


 正直、そのことも含めていろいろと言いたいことはあるのだが……


(これでアリシアの機嫌よくなったのも事実なんだよなー)


 それだけは本当に助かったし、感謝すべきところではある。それに、下手なことを言ってまた機嫌を損ねられるのはまずい。

 結局、俺は深く考えるのを止めてアリシアについて行くのだった。

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