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魔道具店

 とりとめのないことを考えながら、馬車に揺られること1時間弱--

 俺たちは商業が栄える西区へと足を踏み入れていた。


「やっと着いた……」

「長かった~」


 馬車から降りるなり、俺は大きく息をついた。

 本当に馬車での移動は苦手だ……


「座席が硬いが嫌だよなー」

「私は揺れるのが苦手……」


 アリシアとどうでもいい会話をしながら、馬車乗り場から素早く離れて、そのまま比較的人混みの少ない場所に出た。


「よし。とりあえず到着なんだが……アリシアの行きたい店ってどこ?」

「あ、うん。こっち」


 アリシアはそう言って、俺の手を引いて歩き出す。俺はそのことを指摘しようとして……止めた。


(まあ、別にいいか……)


 俺とアリシアの仲だし、わざわざ口に出していうことでもないと判断した。考えるのが面倒になったとも言う。 

 ということで、迷子防止も兼ねてアリシアに手を引かれて目的の場所へと連れていかれることになった。


「今日行くところってどこなんだ?」

「着いたら分かるよ」

「出し惜しむなあ……」


 苦笑いしつつ、首を傾げてしまう。

 ここまで頑なに言いたがらない行先というのは一体どこなんだろうか……?


 だんだん気になってきたが、無理やり聞き出すのも憚られる。

 若干の戸惑いを抱えながらも、結局俺は自分よりも一回り小さい手に大人しく引っ張られることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 雑踏の中、アリシアに連れられて歩くこと10分程--


「……ここか?」

「うん」


 俺の質問に肯定を示すアリシア。

 顔を上げた先の建物の看板には『魔道具店』の文字が書かれていた。


(想定内というか、案の定というか……)


 とりあえず、アリシアが平常運転のようで何よりだ。休日にこの店に行きたがるという時点でかなり奇抜なのだが、もはや今更である。


「じゃ、入るか」


 俺の言葉に、アリシアはこくりと頷いて店の中に一緒に入った。いらっしゃいませ、という声を聞き流して、俺は店内に目を向ける。


 部屋の中央に長机が3つ等間隔に並べられており、その上と店の壁際に商品が置かれている。客の数はというと……俺たちを含めてようやく両手で数えられるくらいで、お世辞にも繁盛しているとは言えない。


「で、アリシアは何が買いたくてここに来たんだ?」

「特に買いたいものはないかな。見るだけ」


 ウィンドウショッピングですか、そうですか。

 特に異論ないので、軽くうなずいてから店内の商品--魔道具の数々に目を向ける。


 魔道具は魔法使いに限らず、魔法を起動させることができる道具である。

 一般人でも魔法の恩恵を受けられるものの、基本的には火を出す、水を出すといった簡単な魔法しか起動できない。また、一つの魔道具につき起動できる魔法は一つだけなので柔軟性に欠ける。


 そんな理由から、魔道具は戦闘面よりも日常生活で重宝されることが多い。

 例えば、この店に置いてある魔道具の一つに『エストファ』という商品がある。これは火を出す魔道具で、つまみをひねることで火力を調節できる。料理に使われる魔道具だ。


(ま、料理しない俺には一切縁のない魔道具だな)


 取りとめもないことを考えながら、魔道具を眺める。すると、それにつけられていた値札の文字が目に入ってきた。


(金貨2枚!?)


 俺はそこに書かれていた金額を見て、思わず吹き出しそうになった。

 相場は高くても銀貨50枚ほど。金貨1枚が銀貨100枚に相当するので、単純計算で4倍の値段で売っているということだ。この店に閑古鳥が鳴いている理由は、十中八九これだろう。


 俺は周りに聞こえないように、小さな声でアリシアに話しかける。


「なあ、ここの商品高すぎないか……?」

「うん。でも、その代わりに質が高いらしいよ」

「にしたって限度があるだろ……」

「私もそう思う。だから見て回るだけ」


 アリシアの言葉は納得のいくものだった。そもそも、ぼったくりのような価格で売っているものを買いたがる訳がない。

 それに……


(質の良し悪しなんて見ただけで分かるわけないんだよなあ……)


 そういうのは専門家の専売特許だ。魔法使いでも区別がつかないし、一般人ならなおさらだ。ここの店主は何を考えているのだろうか?


(……無駄に気になってきたな)


 さっきと似たような価格設定の魔道具の数々を眺めながら、ますます興味は強まっていく。結局、こらえきれずに店長らしき人物を探して、目が店内のあちこちに向けられることになった。


 店員らしき人物は、店内を回っているが3人、レジにいるのが1人。

 全員が同じ制服を着ているが、レジに座っている1人だけが違うデザインなので、おそらく店長だと思われる。


 店長(推定)は金髪碧眼の女性だった。年齢(とし)は20歳くらい、肩までかかる長い金髪にはウェーブがかかっていて、少し体を動かすたびにふわふわと揺れている。


(……本当に店長か?)


 自分で考えておいてなんだが、本当にそうなのか怪しくなってきた。

 外見だけで判断するなら、店長よりもバイトの方がしっくりくるような気がする。

 実際、彼女の行動は集中力にかけており、暇そうに店内に目をやったり、欠伸あくびをしたり……とても一店舗の店主とは思えない。


 俺は不審に思いながら店長(疑念)を観察するが、見れば見るほど店長っぽくない。それどころか、仕事に対するやる気すら感じられないのだ。


(まじで何してんだ、あの人??)


 そう思って、俺が目を細めたところで……


「イタタタタ!?」

「ねえねえ、どこ見てるの?」


 アリシアが満面の笑みで俺の二の腕をつねっていた。思わず大声を上げかけたが、すんでのところで声を抑える。

 そして、声を潜めたままアリシアに声を掛けた。


「何してんだ……!?」

「二の腕つねってる」

「なんで!?」

「むかむかしたから」

「どんな理由だよ……」


 顔を引きつらせて、悪態をつく。どうやら、いつもの理不尽が発動した模様。俺はため息をつきながら、アリシアを問いただす。


「……なんでむかむかしてるのか聞いてもいいか?」

「さっきから、ずっとレジの人見てたでしょ」

「ん……まあ、そうだが」

「なんで……?」

「えっと……」


 そこから、さっきまで俺が考えていたあれこれを説明することになった。

 どうでもいいと言えばどうでもいいことを伝え終わると、アリシアは拍子抜けした顔になる。


「……そんな理由?」

「そう、ただの好奇心。で、そっちこそなんでそんな怒ってたんだ?」

「…………オコッテナイヨ」

「おう。俺の目を見て、その雑な棒読みを止めたら信じてやるわ」


 いつの間にか攻守逆転しており、俺は思いっきり目を背けるアリシアに追撃をかける。

 アリシアは一向に目を合わせることなく、しばしの間膠着状態が続き……


「あー……向こうの魔道具も見てくるね!」


 そう言って、背を向けてそそくさと逃げ出したのだった。

 いっそ清々しいほどの逃げっぷりに感心しながら、俺はその後を追う。


(しっかし、今日のアリシアはよくわからん……)


 歩きながら今日一日でのアリシアの行動を振り返る。

 今朝は待ち合わせに遅れたことで最低のテンションから始まり、数分話しただけでいつの間にか機嫌を持ち直していた。そこからここに来るまでは意気揚々としていたのに、さっきはいきなり怒り始めて、その理由を問い詰めるとさっさと逃げ出す始末。


(今日は気分が乱高下してる日なのか……?)


 ころころと反応が変わるのは見ていて楽しいが、とばっちりを受けるのだけは勘弁願いたい。


 それに、アリシアの考えていることが分からないというのは、なんというかモヤモヤする。

 俺は幼馴染で付き合いが長いアリシアのことは、ある程度分かっているつもりだ。何を考えているかも、顔を見ればそれなりに分かるつもりではいたのだが……


(今日は何考えてるのか全く分からないな……なんか悔しい)


 地味にショックを受けているうちに、先に行ったアリシアに追いついた。アリシアはいまだに俺と目を合わせようとしない。

 自分でも調子狂っているのを感じながら、俺たちは魔道具店でのウインドウショッピングを続けたのであった。

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