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強請りと遭遇

「へえー……」

「…………」


 二度目の拒絶。

 エクラはそれに対しても嫌な顔一つしない。俺にはそれが逆に不気味に思えた。


「今なんて……?」

「勧誘は断らせてもらう……俺には他にやることがあるんでな」


 これで三度。悪いと思わないでもないが、わざわざボランティアをしてやる義理もない。


(それはそれとして、これどうなるんだ……?)


 再三に渡る、生徒会長直々の勧誘。それを全て断られれば、誰だって心中穏やかではないだろう。


 そして予想通り、ここに来てエクラが初めて表情を変えた。

 目を細めて、口の端を下げて唇をへの字に変える……要するに、不満げな顔をしたのだ。


「むう……そこまで言うなら仕方ないね」

「……は?」

「おや、もっと無理強いしたほうがよかったかい?」

「そうじゃなくて……反応が予想外だったというか……」


 俺は狐につままれたような間抜けな顔をしていることだろう。エクラはそんな俺を見て楽しそうに笑いながら、ようやく体を離した。


「僕は君の返事がどうだろうと構わなかったのさ……嘘さえついていなければね……」

「嘘?」

「ああ、僕は人の嘘が分かるんだ。それと、こういう場面で嘘をつく人間はあまり好きじゃないからね……」


 もしそれが本当なら納得は出来る。


(最初の方は嘘の理由を言ってたからなー)


 で、エクラが引き下がったのは本心からの理由を話したから……一応筋は通る。となると、俺は凄く無駄なことをしていたわけで……


「俺、何やってたんだろ……」


 一気に虚脱感に襲われる。変な見栄を張って面倒なことに巻き込まれたと考えると物凄く間抜けだ。


「とにかく、これで話は終わりだな」

「いや、まだだよ」

「まだあるのかよ!?」


 俺の叫びをにやにやしながら眺めるエクラ。完全に弄ばれている感が否めない。……俺の嫌いなタイプだ。


「まあまあ、そんなに嫌そうにしないで」

「嫌なんだって言ってるだろ……で、今度は何だ?」

「うん、生徒会には入らなくてもいいけど、手伝いには来てくれないかな」

「また何で?」

「今月と来月はもの凄く忙しいんだけど、その仕事量と役員が割に合わないのさ」

「で、人手が欲しいと」


 頷くエクラに、俺はどう答えようか考えていた。

 確かに、条件としてはさっきより軽いだろう。理由としても納得のいくものだ。受けるのもやぶさかではないのだが……


「……悪いが、断らせてもらう」

「週一でもだめかな?」

「……悪い」


 どう考えたって、こっちよりもアリシアのほうに天秤が傾いてしまう。その役目は、俺じゃなくて他の生徒にお願いしてもらおう。

 俺の結論に、エクラは大きなため息をつく。


「そうか、なら仕方ない」

「ああ、それじゃあ--」

「これは使いたくなかったんだけどね」

「……ん?」


 話は終わったかと思っていた俺に、エクラは1枚の写真を見せる。

 それは、夜のとばりにつつまれた学園の訓練場で、魔法を使っている俺とアリシアの姿をはっきりと映したものだった。


「…………」

「これ、何かわかるよね」

「……脅しじゃねぇか」


 この悪態が、顔を引きつらせる俺の精一杯の抵抗だった。

 俺は生徒会長の顔を睨んだ後、忌々し気にその手に持つ写真を見つめる。

 それは、俺とアリシアが校則違反をやらかしていることの証拠には十分すぎるものだ。つまり、この女は言外に拒否権はないと伝えている。


 さらに目つきを険しくする俺に対して、生徒会長は困り顔をしながらも言い訳じみたことをのたまう。


「いやいや……僕だってこんなことしたくないんだよ」

「うるせえ、今までのやりとり全否定することしやがって」

「意味はあったよ。君とのやり取りで、僕は君の人間性を知れた」

「俺もお前が性悪だってことは理解したよ」

「ひどい言い分だけど、まあいいや。……それで、どうするの?」


 生徒会長は今までで一番優しい笑みを浮かべる。

 俺がその返事になんと答えたかについては……もはや語るまでもないだろう……


(とりあえず、こいつが潔癖ってのは眉唾だったな……)


 大きな代償と引き換えに、俺は一つの真実を明らかにしたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「というわけで、今日から生徒会の手伝いをすることになりました」


 そして放課後、俺は生徒会室に来ていた。

 非常に心外ではあるものの、背に腹は代えられない。それに、いくつかの要求も呑んでもらった。


「うん、それじゃあよろしくね、2()()()()


 エクラはそう言って、俺と()()()()に声を掛けた。

 俺の要求の一つが、アリシアの同行。誰が敵かどうかも分からない以上、アリシアの単独行動は危険度が高すぎる。ならば、常に近くに居ればいいのだ。

 ということで、アリシアも手伝いに参加させた。本人はむしろ乗り気だったので話はとても簡単だった。


「仕事内容は簡単。書類の整理と備品のチェックだけ……まあ、雑用だね」

「そっちの方が歓迎ですけどね……」

「それはいい。じゃあ、始めてもらおうか」


 エクラに言われたので、渋々ではあるが仕事を開始する。

 ちなみに、俺が敬語で話しているのは他の役員の手前だからだ。下級生なのもあるし、仕事上、下っ端という立場にいるというのも理由である。


「こういうのって初めてだね」

「確かにな」


 俺としては面倒くさいことこの上ないのだが、アリシアは嬉々として作業をしている。

 デスクに山のように置かれた書類を、その内容に応じてボックスに分けていく。何のことはない単調作業だが、生まれてから15年、こういったデスクワークを初体験するアリシアは心なしか興奮しているようだ。


 だが、俺には……いや、誰にだって何となく想像がつくだろう。

 楽しいのは最初だけであるということが……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………飽きた」

「まあ、そりゃそうだよなー」


 作業を初めて一時間--

 当初の予想通り、アリシアはやはりその言葉を口にした。これが単調作業の嫌なところだ。


「けど、頑張ったほうだと思うぞ……」

「まだ終わらないんだもんね……」


 途中、何度も追加が入ったため、いまだに書類の山がなくなることはなかった。それでも、3分の1以下にまで減らしたのは頑張った方だと胸を張って言えるだろう。


「あー、会長。先に備品のチェックに行ってもいいですか?」

「いいよ、いってらっしゃい」


 許可は下りた。というわけで、気分転換がてらもう1個の仕事に行こう。


「アリシア、外出るぞ」

「はーい」


 俺はアリシアを連れて、生徒会室を出る。部屋を出るや否や、俺たちは長いため息をついた。


「疲れたね」

「ああ、疲れた……肩凝ったな」


 腕をぐるぐると回しながら、俺たちは目的地に向かって歩き出した。


「ねえ、備品のチェックって何するの?」

「倉庫の中にあるものの点検らしい。使えるかどうかとか、ちゃんと数が足りてるかとか」

「それで、こんな紙貰ったんだ」


 アリシアは手に持つ用紙に目を落とす。

 そこには、備品の名前やその数などがびっしりと書き込まれていた。


「そうそう……書類の整理とかいう単純作業よりかは数倍ましだろ」

「確かに」


 アリシアは小さく笑って俺の横を歩く。

 会話が途切れ、しばらくの間沈黙が訪れた。俺たちの仲なので、いまさら気まずいということもないんだが、今は何となく話をしたい気分だった。

 と、そう思っていたところで、アリシアの方から話を持ち掛けてきた。


「ねえ、レヴィ。なんであの生徒会長を警戒してるの?」

「ん?……そこまで警戒してる風だったか?」

「うん。結構分かりやすかった」

「……そうか」


 できるだけ自然な感じを装っていたつもりだったが、バレたか。

 とはいえ、俺がエクラを警戒していることにそこまで深い理由はない。


「弱み握られてるからな。それに、あいつは苦手なタイプだ」

「断言するね……昼に何かあったの?」

「昼……」


 そうして、昼の出来事を回想する。頭に思い浮かべるのは、当然その時で最も印象深い事件。突然エクラに密着されたときのことを……


「ッ!…………何でもない」

「ちょっと!何隠したの!?」

「いやだから、何でもないって……」

「そういう時はだいたい隠し事してるでしょ!」


 俺の言い分を無視して食い下がるアリシア。とはいえ、こっちとしても正直に話すわけにはいかないので、固く口をつぐむ。そしてそのまま、倉庫に向かう足を早めた。


「ちょっと!話してよ」

「ヤダ」

「ねえってば」


 アリシアは俺と足並みを揃えて、なおも追及を緩める様子はない。

 俺はそんなアリシアを横目に見ながら、どうやって誤魔化そうかと思案し始める。

 こうなった時のアリシアはかなりしつこいというのを、俺は長きにわたる付き合いの上で知っているからだ。


 だが、結論から言うとそれは不要であった。


「きゃっ……!」


 突然、アリシアが小さく悲鳴を上げた。反射的にその姿を見ると、態勢を崩して前につんのめっていた。

 自分より歩幅の大きい俺と同じ速さで歩いていたのだ。足がもつれてしまったのだろう。


「危なっ!」


 俺はこれまた反射的に腕を伸ばして、華奢な体を受け止める。


「っと……大丈夫か?」

「え、あ……うん」


 俺の声に、アリシアは身を捩りながらそんな返事をする。その目は俺と合わせることなく、あちこちとさまよう。


「大丈夫ならいい……じゃあ、そろそろ離れてくれないか」

「え!……っと、あれ?」

「ん??」


 一際大きい声を上げたかと思えば、何かを見つけたような顔をする。何を見たのだろうかと、その視線の先に目を向けると……


「…………」


 そこには、無言のまま俺たちを見ている赤毛の少女が立っていた。

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