赤毛の苦悩
--赤毛が嫌いだ
物心ついたときから……いや、もしかしたらその前からずっと嫌いだったのかもしれない。
とにかく、私は赤毛が大嫌いだ。
歩くたびに視界の端にちらつくこの髪が、鏡を見れば必ず目にしなければならないこの色が、これから一生つきまとってくるこの赤毛が大嫌いだ。
ここまで行くと、もう憎んでいると言ってもいいかもしれない。
というよりも、憎んでいるのだろう。それこそ生まれた瞬間から。
『そんなに嫌いなら切り落とせばいいのに』
誰もがそう考えるだろう。私だってそう思う。
けど、できない。正確には、何度やろうとしてもできなかったのだ。
今日だってそう。
学園が終わって自分の部屋に帰り、制服を着替えないまま鏡の前に立つ。
そして、はさみを手に取って長く伸びた赤毛にあてがう……ところまではできるのに。
後、一動作--少し手を動かすだけなのに、それがどうしてもできない。
結局、今日も鏡の中の女の憎き赤毛を切り落とせなかった。
通算何回目だろう。絶対4桁は超えてると思うし、これからもっと増えていく。
5年前も、今日も、たぶん10年後も……私はこうやって赤毛を切り落とすのに失敗して、その度に思うんだ。
「こんなもの無ければよかったのに……」
答えてくれる人は誰もいない。
今日の呟きも、空気に混じって消えていった。
新章突入です。
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