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ウラノメトリア

 ガルムはニコニコしながら私を見つめている。

 ただ笑っているだけなのに謎の圧が感じられて、思わず視線を逸らしてしまった。


 だけど、いつまでも怖がっているわけにもいかない。


「……あなたたちが私をここに連れてきたの?」

「うん。まあ、正確にはリンが1人でな」


 私の質問に気軽に答えるガルム。その横ではリンがため息をついている。


「ガルム、無駄なことはしゃべらなくていいでしょ」

「いいじゃないか、リン。どうせこんなこと話したところで関係ないしさ」


 リンが諫めるように話し、ガルムはそれにあっさりと受け答えする。その様子を見ていた私は、ふとあることに気づいた。


 ガルムはダウナー系のリンとは正反対の雰囲気を持っている。


 まるで相容れないような気がする2人だけど、その実ツーカー感が滲み出ている。

 リンもガルムも、互いの反応を分かっていて話をしているような感じだ。


 そう、まるで--


(幼馴染……?)


 なんとなくそんな感じがした。

 でも、それと今私がここに連れて来られていることは関係ない。


「ねえ……なんで私をここに連れてきたの?」


 意を決した私の質問には、冷たい言葉が返ってくる。


「あなたが必要だったからよ。それ以上でもそれ以下でもない」

「目的くらい話してくれてもいいと思うんだけど……」

「知る必要はないわ」


 ぴじゃりと言い切るリン。まさに取り付く島もない。

 できれば情報を聞き出したいけど、リンは何も話してくれなさそう……


「でも、そうね……」


 私を見下ろしながら、リンは思案顔になる。

 もしや、何か話してくれるかもしれないと期待したけど、結論から言えばぬか喜びに終わった。


「あなたがお人好しだったおかげで、簡単に連れて来れたわ。ありがとう」


 リンはそう言って、初めてその顔に笑みを浮かべた。

 顔は優しい笑顔なのに、言っていることがとげとげし過ぎる。

 というか……


(学園の時と人が変わりすぎじゃない)


 たぶんこっちが本性なんだろうけど、気弱なリンしか知らなかった私からすれば、あまりの豹変ぶりに目を丸くせずにはいられない。


「じゃあ、私は外で見張りをしてくる」

「そうか、気をつけろよ」

「うん」


 私がリンの本性に愕然としていると、リンがさっさと部屋から出ていってしまう。ガルムは平然と、私は呆然としてその後ろ姿を見送った。


 そして、部屋には私とガルムの2人だけになる。


「……見張りって?」

「ん?……ああ、万が一ここが見つかった時にすぐに対応できるようにするためさ。まあ、本当に万が一だけどね」

「そんなに見つからないの?……そもそも、ここはどこ?」

「それは答えられないな」


 私が訊くと、ガルムは軽々しくそう答える。答えられることは答えるけど、ダメなこともあるみたい。

 この場所が分かれば逃げられるかもしれないのに……


(いや、分かっても逃げられないかも……)


 私は冷や汗をかきながら、自分の思考を否定する。

 目の前であぐらをかいているガルム。その姿は、完全にくつろいでいて隙だらけ……のように見える。


 だけど、その実全くといっていいほど隙がない。

 視線は私に向けられたままで、私の動きをつぶさに監視している。

 もしおかしな行動をとろうものなら、即座に取り押さえられることが簡単に想像できる。


 そもそもさっきまでリンもいたのに、ガルムに任せて見張りに回っていること自体が2人の余裕の表れと見ていいだろう。


 この2人は相当強い。

 だからこそ分からない。


「どうして、私を連れてきたの?」


 一度はリンにした質問を、今度はガルムに問いかける。


「んー……なんでだと思う?」

「分からない。少なくとも、手荒な真似をする気はないってことだけはわかるけど」


 私の答えに、ガルムは少しだけ驚いた様子だ。

 意外だったのかもしれないけど、少し考えればすぐにわかる。


 殺す気だったのなら、そもそも私を昏睡させたときにでも殺しておけばいい。

 でも私はまだ生きているし、また昏睡させられるような様子もない。


 いわば、今の私は()()()()()()()()()()ようなものだ。


 問題は、その珍事を実行している本人たちの目的が不明なこと。

 だから、そこは聞いておきたいのだけど……


「ははは……いいよ、教えてあげよう。ちょっとしたサービスだ」


 ガルムは私の答えを聞いて愉快そうに笑う。

 そして、何が気に入ったのか機嫌良さげにそんなことを言い出した。


 自分から言っておいてなんだけど……本当に良いのかな?


「……話しても大丈夫なの?」

「大丈夫さ。そもそも、話したところでどうしようもないだろうしね」


 ガルムは不気味な笑みを浮かべてそう告げた。

 見るだけで総毛だつ笑顔のまま、ガルムがしずしずと語り始めた。


「まずは自己紹介を……俺たちはウラノメトリアっていう組織の幹部だ。ピスケスと名乗っている」


 ウラノメトリア--

 今、巷で話題になっている集団だ。とある唯一神を崇拝するカルト集団で、殺しや誘拐、強盗など数々の犯罪を犯しているらしい。

 しかし教義を広めるような様子は一切なく、その目的は闇に包まれている。


「で、その謎集団の幹部がどうして私を?」

「ひどい言い草だけど……まあいい。俺たちはあの方の命令で君を連れてきたんだ」

「あの方?」

「その名を口にするのも烏滸がましい、そんな尊い方だ」


 ガルムは恍惚とした顔で「あの方」とやらについて語る。

 傍から見れば完全にヤバイ人だが、ぐっと我慢して口をつぐむ。ここで機嫌を損ねたら、なにをされるか分かったものじゃない。


「それで、その方が私を誘拐させた目的は?」

「分からない。だが、こうおっしゃっていたよ。『鍵番だ』と」


 聞けば聞くほど訳が分からない。

 とりあえず整理しよう。私を誘拐したのはカルト教団、ウラノメトリアの幹部ピスケス。ピスケスはガルムとリンの二人組で、少なくとも一人で逃げ切るのは難しいと思う。


 で、ウラノメトリアにはボスのような存在がいて、私が拉致されたのはその人の命令。そして、私は「あの方」にとっての「鍵番」……


「意味がわからないんだけど。……なんで私がカルト教団の鍵番になるの?」

「俺にもわからん」


 堂々と言い切ったガルムに少しだけイラっとする。


「わからんって……あの方が間違えたんじゃないの?私はウラノメトリアと関係なんてないし」

「それはあり得ない。なぜならあの方は全知だから」


 今度もはっきりと言い切った。さすがに盲信がすぎる。

 これこそがカルト教団と言われる所以だろう。


「全知って、それこそありえないでしょ」

「じゃあ、証拠を見せよう」


 自信満々に言うガルム。呆れるを通り越して哀れに思えてきた。

 そんな私に対して、ガルムは大きく息を吸い……


「君は無属性魔法が使えるだろ」

「…………」

「これもあの方がおっしゃっていたことだ。これでも信じないというならそれでもいいが……」


 ガルムはそう言って、私の顔を見つめる。

 鏡がないから自分の顔は見れない。だけど、簡単に想像ができる。


 私の目は大きく見開き、眉は上がっているだろう。その表情が意味するところは--


(……なんで知ってるの??)


 驚愕だ。

 生まれてからずっと隠していたことが、どうして見ず知らずの人間が知っているのか。全くわからないけれど、この状況はまずい。


「無属性は貴重だからな……さぞ高値がつくだろう」

「っ!!?」


 ガルムの言葉に冷や汗が止まらない。

 無属性魔法が使える魔法使いは非常に貴重だ。それこそ、100年に一人いるかどうかというレベルで。


 だから、無属性魔法は滅多にお目にかかれるものではなく……必然的に研究が進んでいない。

 そして成果を求めた研究者たちが、その無属性の魔法使いを買い取って研究したいと考え始めたのも、必然といえば必然なのかもしれない。


 無属性の魔法使いが拉致され、それを求める研究者たちに高値で売り払われる。いわゆる人身売買が、一昔前の裏社会ではこれが横行していた。

 今では王国政府が規制しているけど、監視の目をかいくぐっていまだに行われていることもある。


 何が言いたいかというと、無属性魔法が使えることが明るみになったら一生怯えて暮らさないといけないということ。

 もし捕まって売り飛ばされたら…………想像するだけでも恐ろしい。

 だから、ずっと隠してきたのに……


「大丈夫だ、別に言いふらそうとか考えているわけじゃない。そもそも、俺たちが何か言ったところで誰も信じないからな」


 ガルムは口ではそう言ってるけど、リンみたいに誰かを大衆に潜り込ませれば不可能じゃない。

 これは脅迫だ。ここから運よく逃げられても、もとの生活には戻れない。だから、大人しく捕まっていろということだ。


 物理的に身動きが取れなくなり、今度は精神的に逃げづらくなった。

 今までどうにか逃げようと思っていた気持ちが急激に萎んでしまう。どうせ逃げても、どうしようもないんだ。


 そして私は、考えるのを止め--


--ドゴッ!!


 その瞬間、部屋のドアが吹き飛んだ。

 外から衝撃を受けたドアの残骸が、私たちの近くまで飛んでくる。


 青天の霹靂に私は目を丸くしてしまう。ガルムもこれは想定してなかったみたいで、ドアがあったところの向こうに視線を向けた。


「見つけた……!」


 聞きなれた声を聞いて、顔を上げる。

 そこにはドアを吹き飛ばした張本人--レヴィが立っていた。

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