表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/39

決闘

 授業が終わり、放課後--

 俺とジークは訓練場で対峙していた。


「よく来たね。まずは、逃げなかったことをほめてあげるよ」


 ジークが何か言っているが、不快でしかないので聞き流しておこう。

 周りに目を向けてみると、大勢の生徒で溢れていた。伯爵のジークが申し込んだ決闘ということで、注目度が高いのだろう。


 もちろん、彼らはジークが負けることを微塵も考えていない。

 見たところ外馬そとうまが行われているようだが、ほぼ全員がジークにかけている。


(まあ、どう考えたって俺が勝てるとは思わないよな)


 片や伯爵家の逸材、片や辺境貴族の三男坊だ。

 これで俺が勝つと思う方がどうかしている。


 俺がよそ見をして苦笑いしていると、ジークが決闘開始を切り出した。


「それじゃあそろそろ始めようか。まあ、結果は分かりきっているけどね」

「ああ……いつ始めてもいいぞ」


 戦意溢れるジークに対して、俺はどこまでも無気力だ。ジークの言うように、結果は分かりきっているのだから。


 だが、そんな俺の態度が癇に障ったのか、ジークは俺を睨みつけ額に青筋を浮かべている。そして、この決闘の審判をすることになったアリシアに目配せした。早く試合を始めろということだろう。


 ジークの視線を受け、アリシアがため息をついて試合開始を宣言する。


「じゃあ……始め!」


 その声を聞くや否や、ジークが魔法を発動させる。

 特大サイズの火球がジークの前に出現した。直径3メートルほどで、簡単に人を呑み込める炎が、4個も俺の前に浮かんでいる。


 一拍して、それらが俺目掛けて一斉に飛んできた。燃え盛る火球は一瞬で俺の身体を覆いつくし、その影をかき消した。


「うおおおおおぉぉ!!」


 周りから大きな歓声が聞こえてくる。それはジークの魔法を称賛しているのか……はたまた、外馬そとうまに勝ったからだろうか。

 ……両方な気がする。


「下馬評だと俺は完全に格下だからなあ」


 俺は誰に言うでもなく、不満げにボソッと呟いた。

 確かに、今の魔法の規模は大したものだ。伯爵史上初の逸材というのも頷ける。

 だが--


「使い方がなってないな」


 俺がそう言って右手を振ると、今まで燃えていた炎が一瞬で凍り付いた。もちろん、俺も無傷。前に進み出て、煤一つない体を見せつける。


「悪いが、まだ終わってないぞ」

「…………はあ?」


 ジークは素っ頓狂な声を出して、目を丸くしている。

 ついでに、さっきまでの歓声はどこへ行ったのか、観客ギャラリーも同じような顔で目を丸くしていた。


 しばらくの間、沈黙が場を支配したがジークがいち早く我に返った。

 すかさず火球を作り出し、もう一度攻撃を仕掛けようとするが……


「だからダメだって」


 俺は指先から雷を飛ばして火球に命中させる。

 火球とは比べ物にならないほど小さな電気は、ぶつかった瞬間に火球もろとも霧散した。


 雷属性のもつ高エネルギーを全て魔力霧散に使用した、対魔法専用魔法--バニッシュボルト。アリシアと一緒に開発した魔法で、かなり高い完成度だと自負している。


「はあ!?」


 作り出した火球が一瞬で消されたことに動揺を隠せないジーク。

 動きが止まるジークに対して、おもむろに魔法を発動させる。


「バブルショット」

「くっ……!」


 小さな水泡をいくつか作り、ジーク目掛けて飛ばす。

 だが、その速度は遅く、視認してからでも十分避けられる。ジークも横っ飛びをして回避した。


 一秒遅れて、泡がジークの立っていた位置に着弾し……その地面を抉り取った。


「は……?」


 ジークは絶句した。その視線の先には俺の魔法で抉れた地面。

 そして、ぎこちない動きで俺の方に向き直る。その顔にはありありと畏怖の感情が浮かんでいる。


 事ここに来て、ジークはようやく俺の実力を把握したのだ。

 そして、悟ったのだろう……俺には勝てないということに。


「……続けるか?」

「…………」


 俺の問いかけにジークは答えられない。

 当然だろう。このまま続けたところで俺には勝てない。かといって、ここで降参すれば、伯爵家としての矜持を失うことになる。


 どちらにしても、ジークには辛い選択になるだろう。そのうえで、俺はもう一度問いかける。


「続けるか?」

「っ!…………続けよう!!」


 長考の末、ジークは自分の矜持をとったようだ。

 俺には、その気持ちは理解できない。できないが、そう言われた以上、俺も手を抜いてはいけないだろう。


「わかった」


 そして、事実上の勝敗は決し……一方的な蹂躙が始まった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………何?あれ」

「レヴィの実力」


 カムルスがそんなことを訊いてくるけど、私にはそう答えるしかない。


 たぶん、私しか予想できなかったと思う。

 バーリエル伯爵家、史上最高の逸材と言われたジーク。その彼が、レヴィに手も足も出ていないなんてことは……


 魔法を使おうとすれば即座に消され、レヴィの魔法は避けることしかできないジークの姿を、観客ギャラリーは狐につままれたような顔で見ている。


「レヴィは一体何をしてるんだ?」

「バニッシュボルトでジーク魔法を霧散させて、適当な魔法で攻撃してる」

「ちょっと待って、バニッシュボルトって何?」


 カムルスが本当に困惑した顔で詰め寄ってくる。

 私とレヴィの二人で作った魔法なんだから、知らなくて当然なんだけど……それを言ったらもっと混乱しそう。


 言うに言えないくてだんまりを決め込んでいると、カムルスがさらに声を上げた。


「後、レヴィの魔法の威力が強すぎないかな?」

「そっか、確かにおかしいよね」


 いつもこんな感じだったから、感覚が麻痺してたみたいだけど、レヴィの魔法は明らかに威力がおかしい。

 

 攻撃の威力は、その大きさ(重さ)に比例する。

 これは魔法云々以前に物理の話だけど、物理現象に干渉する魔法も当然この法則に従うはず。


 でも、レヴィの魔法はそうじゃない。

 例えばさっきの『バブルショット』だって、泡の大きさは直径10センチ--ちょっと大きめのシャボン玉くらいなのに、その一発だけで地面が抉れている。


「あれがレヴィの凄いところなの」

「どういうこと?魔力量が多いってことかな」

「ううん。魔力量が多いわけじゃなくて……魔法の精度が高いの」


 魔力量も20万くらいあるから少ないわけじゃないけど、それは黙っておこう。

 それで、今は精度の話だ。私は疑問符を浮かべるカムルスに順を追って説明する。


 まず、『魔法の精度』なんて単語は私とレヴィが勝手に作った造語で、『どれだけ効率よく魔法が使えるか』の基準だと考えている。


 そもそも、魔法を使うには大きく分けて二つのプロセスを経ないといけない。

 それは『魔法を発動する』過程と『魔法を操作する』過程。

 例えば、『魔法を発動』して水を生み出してから、『魔法を操作』して水泡に形を変える……みたいな感じ。


「それと精度がどう関係してるのかな?」

「精度が高いと、精密な魔法操作ができるようになる……つまり、それだけエネルギーが大きい魔法を使えるようになるの」


 『魔法を操作』すると、必ずエネルギーロスが生まれる。

 すると、その分だけ魔法の威力が弱くなるんだけど、精度が高ければこのロスを減らすことができる。


 ちなみに、魔力量が多ければそれだけ大規模な『魔法を発動』できるから、魔力量と精度は両方とも魔法に関わる重要な要素。

 だから、精度も魔力量みたいに上げることが出来るんだけど……


「あれができるのはレヴィだけだと思うよ。魔法の精度ってどれくらい上がったかすぐには分からないから、延々とその訓練するのは辛いし……あそこまで精度を上げようと思ったら、四六時中ずっと魔法を使い続けてないと無理だよ」

「じゃあ、レヴィはどうなの?」

「レヴィは昔から精度を上げる訓練ばっかしてて、今ではほとんどエネルギーロスなく魔法が使えてるね」


 私は派手な魔法の方が好きだけど、レヴィは効率至上主義で、コンパクトな魔法の方が好きだった。

 だから、いつもの訓練でも魔法の操作を優先して鍛えていた。


 その結果、魔法のエネルギーロスを1%以下に抑えられるようになった。

 普通の人なら半分くらいロスが出ることを考えたら、まさに格が違う。


「…………」


 カムルスは絶句してレヴィを見てる。

 私もつられてレヴィとジークを見たけど、もうそろそろ終わりそう。


 そう思ったら、ジークが足を滑らせてその場で転んだ。今までの魔法で地面がでこぼこになっていたから、窪みに足を取られたんだろう。

 レヴィはその隙に距離を詰めて、小さな水泡をジークの周りに作り出す。当然、その一つ一つが地面を抉る高精度の魔法。

 ジークに逃げ場はなく動くことができない。


 勝負ありだ。


「そこまで」


 私は大きな声でそう言った。こうして、ジークとレヴィの決闘は幕を閉じた。

おもしろいと思っていただければ、ブクマやポイントなどいただけると励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ