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ルームメイトと初授業

 俺がドアを開けると、そこには赤髪黒眼の少年が立っていた。体格は俺と同じようなもので、柔らかい眼差しを俺に向けている。

 足元には荷解きされていない大きなカバンが置かれているので、来て間もないところだったのだろう。


「もしかしてルームメイトかな?初めまして、僕の名前はカムルス。よろしくね」

「ああ、俺はレヴィだ。これからよろしくな、カムルス」


 カムルスは物怖じした様子もなく気さくに話しかけてきた。その優しい声色に、俺は少しホッとする。とりあえず、変な奴ではないようだ。


「じゃあ、いろいろと話をする前に荷解きするか」

「そうだね」


 挨拶もそこそこに、俺たちは荷物を広げ始める。

 黙々と作業を進めて、一時間ほどで荷解きを終えた俺たちは、そのまま談笑を始めた。


 話と言ってもどうせもいい雑談でしかなかったが、思いのほか馬が合い、お互いに初対面なのに楽しく過ごせた。

 カムルスと雑談しているといつの間にか日が暮れていたので、手早く夕食と風呂を済ませて、いつもより早い時間にベッドに入った。


 ちなみにだが、その日は熟睡できた。気づかぬうちに疲れが溜まっていたのだろう。そのため、翌日はいい寝起きを迎えられた。


 そして今、俺は着なれない制服を着て、カムルスと一緒に学園に登校している。


「昨日も思ったけど、寮から学校まで遠くないか?」

「そうだね。もう少し改善してくれないかな」


 徒歩20分程度の距離をゆっくり歩きつつ、俺たちは暇つぶしがてら雑談に花を咲かせる。そんな感じで10分ほど--登校距離の半分くらい進んだところで、見知った人物が駆け寄ってくるのに気づいた。


「おはよう、レヴィ」

「ああ、おはようアリシア」


 アリシアだ。軽く挨拶してから、俺はアリシアのことを紹介しようとカムルスの方を見る。すると、カムルスは少し驚いたような顔をしていた。

 どうしたのだろうか?


「どうした?カムルス」

「いや……二人は知り合いだったんだね」

「あ、カムルス。久しぶり」

「うん久しぶり、アリシア」


 1人状況が呑み込めない俺を置き去りに、2人が和やかに挨拶を交わす。どう見ても初対面の挨拶ではない。


「『久しぶり』…………なあ、アリシア。入学試験の時に知り合った人って」

「うん、カムルスだよ」


 アリシアの答えにようやく理解できた。道理で、思った反応と違ったわけだ。


 それから、アリシアを加えた3人で登校する。

 その道中では、俺とカムルスが同じ部屋をルームシェアすることになったのも説明しておいた。


「ルームシェアか……いいなあ~」

「アリシアは違うのか?」

「うん、私は一人で一部屋使ってるよ」


 ルームシェアの話をすると、アリシアは羨ましそうに俺たちを見てきた。部屋の割り当てはランダムみたいだから、アリシアみたいに一人で一部屋を使えることもあるようだ。


 俺としては、一人で一部屋使えるほうがいいと思うのだが、アリシアはそう思っていないらしい。


「レヴィはカムルスがいるから、退屈じゃないでしょ?」

「まあ、確かにそうだが……」

「ほら。広いだけの部屋に一人でいても寂しいだけなんだよ」

「そんなこと言われても、どうしろと?」

「変わって!」

「無理に決まってるだろ!」


 俺はアリシアとどうでもいい話で盛り上がりながら歩く。カムルスがいるというのに、いつものテンションになっているのだが大丈夫なんだろうか?


 ちらりとカムルスの顔を盗み見てみると、カムルスはやけにニコニコしながら俺たちのやり取りを見ている。……なんか、クルト兄さんに見られているみたいで落ち着かない。指摘しようかと思ったが、なんとなくやめておいた。 


 そうしてカムルスが傍観する中、俺とアリシアが賑やかに会話を続けていると、いつの間にか校舎に着いていた。


「そう言えば、クラスが決められてるんだったよね」


 今まで俺たちのやりとりを見ているだけだったカムルスが思いだいたように口にする。それを聞いて、俺たちもそのことを思い出した。


「確か試験の成績順に分けられるんだよな」

「うん。全部で4つの50人ずつのクラスだって言ってた」


 AからDまでの4つのクラスに分けられ、Aクラスが一番優秀なクラスらしい。試験の成績によって分けるということなので、アリシアは間違いなくここになるだろう。


「俺たちはどうだろうな?」

「さあ?Bくらいじゃないかな」


 俺が訊くと、カムルスの方も定かではない感じだ。

 昨日の雑談で試験の話もしたので、俺はカムルスがどれくらいの成績をとっているのかも聞いていた。


 座学が8割程度、実技は10個中7個に命中……俺とほぼ同じ結果だった。

 なので、カムルスとは同じクラスになると思うのだが……


「クラス表、あれじゃない?」


 アリシアが前に指をさして告げる。そこには大勢の生徒がたむろし、彼らの視線の先の壁には同じ大きさの紙が4枚貼られていた。

 近づいてみると、AからDまでのそれぞれのクラスに所属する生徒の名前が書かれているのが分かった。


「えっと……俺の名前は……」

「あったよ、レヴィ。Aクラスだって」

「僕もAクラスみたいだね」


 自分の名前を探していると、アリシアが教えてくれた。カムルスも見つけたらしい。それに軽く頷いてから、俺はもう少しだけAクラスの名簿を眺める。


(あった。“フィリム”)


 その中に目当ての名前を見つけた。試験の様子からわかっていたが、やはりフィリムもAクラスだったらしい。


 これで俺は満足したので、もう名簿には興味がない。

 名簿から完全に目を離した俺は二人と一緒に教室に向かうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 教室に着くと、予想外に室内がざわついていた。中では生徒たちが談笑しているようだ。俺はそれを見て、ポツリと呟いた。


「皆、仲良くなるの早くないか?」


 これはどう考えても、登校初日の教室の雰囲気じゃない。具体的には、初対面同士のたどたどしい会話をしているようなペアが見当たらないのだ。俺が怪訝に思っていると、カムルスが俺の疑問に答える。


「あれはもともと知り合いだったんじゃないかな?パーティとかで会ったことがあるとか」

(そういえば、ここにいるのは大半が貴族だったな)


 忘れていたが、この学園は貴族ばかりが入るような学園なのだ。貴族同士でパーティが開かれることも多いだろうし、そこで知り合った人がここにいても不思議じゃない。


 つまり、彼ら彼女らはその多くが気心の知れた仲だということだ。


「……これ、かなり馴染みにくいよな」

「アリシアはともかく、レヴィは難しいかもね」


 すでに完成されているグループに入ることはかなり難しい。

 主席のアリシアはいろんな意味で目をつけられているから、会話すること自体は簡単だろうが、俺の場合は話に入る余地すらない。

 カムルスがいなければボッチ確定だっただろう。


 俺は適当な席に座る。そして、知らぬ間にボッチを回避していたことを内心で歓喜していると、教師と思しき男が教室に入ってきた。長身で細身の男……俺の試験監督だった教師だろう。


「これから、授業を行いたいのだが……その前に、軽く自己紹介をしておこう。私はキャメル、この学園で講師をやっている」


 そう言って、キャメルは魔法学の講義を始めた。

 彼はいきなり専門的なことを説明するのではなく、まずは魔法の基礎的な概念を話し出した。


「魔法は、魔力を用いて物理現象を引き起こす力だ。そして、魔法を使うには魔力を活性化させないといけない。ここまではいいな?」


 キャメルが言葉を切って、教室を見渡す。


 魔法を使おうと思った時に、必ず考えなければいけないことが魔力だ。そもそも、魔力とは体内に存在する目に見えない小さな粒子の集まりだと考えられている。

 そして、この微粒子を高速で動かすことができれば、「活性化した」状態になり物理現象が生じるというのが、魔法の全容だ。


 また、その微粒子が動く速さの順に、火属性、風属性、水属性、土属性と生じる魔法が変化する。

 例えば、微粒子を物凄く高速で動かすことで活性化させた魔力は炎魔法を生じる。逆に、ゆっくり動かして魔力を活性化させれば、土魔法を発動できる。


 魔法使いは魔力の活性化に変化をつけることで、多様な魔法を使うことができるのだ。


「また、魔法のほとんどはこれらの4属性の複合だが、それに該当しない例外の属性が存在する。雷属性と無属性だ」


 雷属性は魔力を超高エネルギーまで活性化させたときに生じる。条件は単純だが、発動するのは困難だ。しかも、高エネルギーを持つ電気は扱いづらいことこのうえない。下手に使えば、感電してしまう危険もある。つまり、それだけ上級者向けの属性だと言えるだろう。


 一方の無属性は、魔法の上手い下手関係なく、先天的に使える者が決まっている属性だ。時間操作や瞬間移動などロマン溢れる能力があるそうだが、その存在は文献の中でしか確認されておらず、もはや幻の存在となっている。


「さて、魔法の属性の話は一旦この辺りにして、次は魔力量の話をしようか」


 魔法を使ったときに活性化させた魔力は、もう一度使えるようになるまでしばらく時間がかかる。そのため、一度に使える魔力には上限があり、これが魔力量と呼ばれている。


 ちなみに、魔力は目に見えないので測定のしようがないと思うのだが、この世界には魔力測定器なるものが存在している。

 なんでも、昔の偉い人が発明したそうなのだが、正直興味がないのでどんな仕組みかは知らない。



「そうだな……アリシア、君の魔力量はどのくらいかな?」


 ここで、突然キャメルが話を変えた。今までの話の続きなのか、アリシアの魔力量を訊ねる。他の生徒たちも、主席合格の魔力量は気になるのだろう。


 魔力測定器はそれなりに普及していて、貴族なら大抵一つは持っている。もちろん、アリシアも測定したことがあり、自分の魔力量は把握している。


 だから、アリシアはキャメルの質問にも迷わず即答した。


「30万です」


 その瞬間、教室内が凍りついた。他の生徒たちを始め、それを訊いたキャメルさえも顔を引き攣らせて固まっている。


 ちなみに、一般的な魔法使いの平均魔力量は、だいたい5,000ほど。一流と言われる魔法使いで2万程度だ。単純計算でその15倍なので、まさに破格の魔力を持っていると言えるだろう。


 加えて、魔力測定器が発明されて魔力が目に見えるようになってから、魔法使いたちは魔力量を妙に神聖視する様になった。おそらく、ここにいるほとんどもそうだろう。


 そんな人たちが、自分の10倍はあるアリシアの魔力量を聞いた時の心境を想うと……ご愁傷様ですとしか言いようがない。


(完全に地雷だったな……)


 苦笑いする俺と、驚いて固まってしまった生徒と教師。

 その中で、唯一アリシアだけが何も分かっていないような顔をしているのだった。

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