piece:3 昼休みと唐揚げ
「――だから私はね、研究会でもぉぉっと大きな事をすべきだと思うのよ」
「…………じゃあまずお前が部活に来るところから始めなくちゃな」
昼休み。午前中の授業を終えた生徒達、教師達に与えられる休息時間。
教室、食堂、中庭、廊下、部室、体育館。各々がその一時間足らずで、それぞれの自由を謳歌する。
短いからこそ輝く、毎日の高校生活の清涼剤。
そんな中で二人の少年少女は、自分達の教室で弁当箱に箸を伸ばしていた。
「はぁぁぁ、ユウは本当に馬鹿ね」
その中の一角の、どことなく淀んだ空気を察知したのか、そそくさと人が去り、教室の窓際の人口密度は低い。少女は心底呆れた声で、諭すように続けた。
「私はね、忙しいの。オワカリ? お分かりでないのでしょうね。だったらこんな事聞かないわ。ユウなら分かってると思ったけど、期待外れも甚だしいわまったく……」
「えぇ…………、なんで僕がそこまで言われなくちゃならないんだよ。……僕が悪いの? なんでだよ意味分かんないよ。ただの事実じゃないか」
「だからアンタね。なぁんで私が部活に来ないと活動を拡げられないのよ。そんなのそっちが今の内にちょちょいとやって、私が帰った時にその手柄全部寄越せばいいだけじゃない」
「鬼畜がすぎる」
「私だって遊んでるわけじゃないのよ」
「遊んでなかったら何やっても許されるわけじゃないんだよ。……何でもかんでも首突っ込みすぎなんだ。自重フラグだぞ」
「何よ、せっかくの高校生活なんだから精一杯満喫してやろうってだけじゃない。なんか悪いの?」
「少なくともこれから割食う予定の僕たちに悪い」
二人の論戦の怒涛の勢いは一向に衰えることなく、何故かその手は互いの弁当箱へと高速で伸びていた。
「今日の唐揚げ冷凍じゃないわね。おばさんの手作りなんて大当たりだわ。締め切り終わったの?」
「あぁ、一昨日終わったんだ。――てか環さんの玉子焼きなんか違うな。チーズと……シソ? 美味い」
「そういえば『僕たち』じゃないわよ。光栄な事だから喜んでくれて構わないわ。――もう一個頂き」
「……………いや割食うの僕だけかよ!! 何させる気だ!? ――それで最後な!!」
「大丈夫、命の危険は最小限よ」
「メグのその境界線は一般常識から引き上げ過ぎて当てになんないんだって。…………せめて一般の子供が怪我なんてしないレベルのヌルゲーにしてくれ」
「ダメよ…………もぐもぐ」
「やっぱり危険じゃないか!! ――てかそれ本当に最後の唐揚げ!!!」
「守るべきものからは常に目を離さない事ね。これが今日の教訓よ。これから毎日一つずつ、ユウは賢くなるわ」
「新コーナーが初回から悲劇すぎる件!!」
「………………おーい」
裕也が悲嘆に暮れていると、すぐ隣から困ったような声がした。知らないが、どこかで見たことあるような男子生徒だ。学年章から先輩だと分かる。
「おっ、やっと気づいた。 いやぁなんかスマンなぁ昼飯時に」
「いや、別に構いませんけど。僕達に何か用――」
「あぁぁぁ忘れてたぁぁ!!!」
「そういうこっちゃ、瀬乃。分かったら生徒会室。ダッシュダッシュ。じゃないと、この借りをにゃんこ副会長のツケで支払うことに――」
もはや言葉尻を聞くまでもなく、慌ただしく弁当箱を鞄に押し込み、爆速で起立。適当にクラスメイトに声をかけながら教室を飛び出した。
「メグ。今週の金曜は来ないと、部長に相当絞られるぞー」
分かってるー、と手を挙げながら廊下を走る。それに生徒会らしき男子生徒も続いた。廊下を走るのは一切注意しない。
「……まあ、来ないフラグだよな……」
裕也はやれやれと、その嵐を見送って玉子焼きを頬張った。
なんだか不思議で、優しい味がした。
唐揚げって美味しいよね。毎日食える