piece:1 勇者伝説と暴君少女
その日は、五百円玉を二枚握らされて送り出された。
バニラ、チョコ、チョコミント、それとフルーツ系を何でもひとつ。合わせて四つの定番アイスを片手に提げて、少年は帰路に着く。
気まぐれもなく見飽きた家々を通り過ぎて、
少女が行く手を阻んでいた。
「ユウはさ。【勇者】って信じる?」
――と。
少女の問いはあまりにも突拍子がなくて、つい「からかっていいか?」と皮肉げに返してしまう。
目玉をほじくり出すぞと脅されたので丁重に断る。
隻眼に踏み切れるほど厨二病を拗らせてはいない。
なら――と、また同様の問いが投げかけられて、今度はまともに答える。そんなの信じてるやつ居ないよ。
「じゃあ【勇者】についてどう思う?」
どう思うかと言われても、正直困ってしまう。【勇者】とは確か、都市伝説みたいな御伽噺の主役であったはず。
愛と勇気で人々を守り抜く、みたいな?
なぜ疑問形なのかと、少女は語尾に棘をつけて投げ返してくる。
仕方がないだろう。その単語に感情は振れない。喜怒哀楽が波立つことは断じてない。どうとも思っていないのだから。
それでも言えというのならば、仕方がない。
うーん、そうだなぁ。
個人的には人知れず人々を助ける系とか良いかもしれない。
『例え誰に認められなくとも……俺一人だけだとしても。俺は戦う……!!』的な孤独故の葛藤とかあったら良しかな〜。
別にお前の好みなんて聞いていないと棄却された。
アイスが溶ける前にとっとと帰りたいと思った。
まあいいわ。少女は問いそのものを切って捨て、ここからが本題なのだと、三度目の正直を切り出した。
「もしも私が【勇者】になったら、ユウはどうする?」
月がこちらを見ていた。
その瞳には嘘はなく、虚勢はなく、強情も否定も疑心もない。
ただそう思ったから、そう尋ねただけ。
ふと聞きたいと思ったから、ほんの気まぐれに尋ねただけなのだろう。
少女にとっては珍しくもない――だからこそ純然たる意味と価値を持つ。
この少女の人生は十割の計画性と、もう十割の天啓で出来ている。
きっと将来的には善性を備えた暴君となる。
遠くて眩しい、月光の瞳。
身体を捉えて、捕らえ絡めて離さぬように。
それほどに澄んだ奈落を、少年は他に知らなかった。
そういえばこの時、いったい何と答えたのだったか。
でも確か、最高にカッコつけて言ったのだ。言ってやったのだキッパリと。
黒歴史確定モノの、人生最大の名台詞を。
少年は『それ』を言ってから無性に小っ恥ずかしくなったような。
全身が痒くなってから帰路に着いたような。
そこでチョコミントが盗られていたことに気づいたような。
そんな気がする、昔々で、ついこの前のお話。
はじめまして、田神へいきです。残念大学生です。期末テスト前日にこの後書きを書いています。
第一章が終わるまでは書き終えてるので毎日投稿するとして、それ以降は学業とかと両立しながらボチボチ投稿していく所存です。
第一章の毎日投稿だけで一ヶ月はかかる計算なので、我ながら無駄に沢山書いたと思います。いつか大幅に書き直して無駄文を抹消したいです。
かなり長い旅路になると思いますが、どうかうちの勇者一行をよろしくお願い致します。エタらんように頑張るますm(_ _)m