足掻き
「よくも兄貴を」
全身の魔力を両手にこめて、オオカミを殴りつける。
「兄貴兄貴兄貴兄貴ーッ」
「…オワリカ」
所詮は人間のあがき、目前まで歯が迫る。
ただ弟分は目を見開き、相手を見据える。
拳の魔力をこめ直し、打ち込む。
「ガッ?!」
ありえないことが起こった。弟分の拳が歯を砕いたのだ。ありえない。いや違う。衝撃は二箇所からきた。オオカミは自分の後ろ足にいる人物に目をとめる。我が子をたぶらかした人間。
「ココニイタカ、ニンゲンガ」
その人間は手に持っていたハンマーで殴りつける。そんな蚊のような攻撃が効くわけがっ
「?!」
向きを変えようとした足が荒野の割れ目に挟まる。そのままバランスを崩し倒れる。
「グゥウ」
なんだ何が起こっている?拳にしろ、ハンマーにしろ、毛ほども食らうはずもない。だが、実際歯を砕かれ、体制を崩された。
「弟子を返せ」
自分の目の前に現れた人間はハンマーをこちらに向ける。ハンマー自体は普通のハンマーだが、まとう魔力が尋常ではない。この女の魔力なのか。
「ッ」
その女の瞳はつめたく、先ほどまでの慌てふためいた様子とは違う。
「闇落ち小槌」
女は静かにとなえハンマーを振りあげる。彼女の魔力を吸い上げ、ハンマーが歪む。不運の塊。オオカミにはわかった。これがかすりでもしたら、自分の身にどれだけの不幸が訪れるか計り知れないことを。全身から汗が吹き出し。身体は敗北を認めていた。
「カエス、カエシマス」
飲み込んでいた人間を吐き出す。
「し、、しょう?ひ、どいじゃ、ないですか」
弟子の生存を確かめると、安心したのか、その場にぺたりとすわりこんだ。
「怖かったよ〜」
おいおいと泣く姿を見て、先ほどまでとの落差についていけない。