幸運の女神
少し離れた場所から双眼鏡を覗く青年が一人、片手に持った酒瓶を引っ掛けながら事の次第を見ていた。はじめは荒野のど真ん中に現れた謎の美女を見ていた。街と街に広がる荒野を渡るには用心棒をつれて行くのが常識だ。それを一人で歩いていくなんて、いいカモである。もしくは相当な手練れか。前者なら有り金を奪えばいいし、美女とお近づきになるだけでも儲けもんだ。
後者なら、逃げるだけだ。だが女は不用心にもカミソリオオカミの縄張りに入ったばかりか、そこにいた仔犬と遊びだした。とんだアホである。当然親のオオカミは大激怒である。美女よ安らかに眠れ。
だが状況は一変する。黒服連中に追いかけられた少年が一人乱入してきたのだ。黒服に黄色いマフラーを巻いた男達の特徴を見るに、近くの街を仕切るギャング「黄蛇」たちだろう。怒りを買おうものなら、地の果てまで追いかけられると言われてる執念深い連中だ。少年の命も時間の問題だ。
「さてと」
ポケットからコインを取り出した。
「表なら、少年は見捨て、美女を救い出して、街の酒場でデートとしゃれこむ。裏なら美女は諦め、黄蛇をのして懸賞金で豪遊だ」
コインを投げる。コインは地面に落ち、数回はねたあと、地面の割れ目でちょうどコインが挟まり立った。
青年は目の前の現象に驚いたが、ニヤッと笑う。
「こいつはどっちの女神が微笑んだんだろうな」