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ヴァンパイアとパンダ  作者: 怪獣大熊猫
ドワーフの国ニザヴェリル
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悪い魔物じゃないよ ~種族の垣根~

 アルゴノーツはモグラの魔物に乗って街へと戻って来た。街の外ではエルとエルによく似た女性が、イベント会場を準備していた。冒険者達も既に集まり始めていたが、モグラの事は既にフラウから説明を受けているようで誰も驚いてはいない様子だ。危険ではない魔物が居るというアルゴノーツの報告を、案外みんな信用してくれているんだな。なんだか私が勝手に心配していたようで、イベントの開催意義が薄れるな。


 アルゴノーツはモグラから降りてエルの元へと近づく。

「おかえりみんな。」

「ただいまエル。」

「エル殿、そちらの御仁はどなたでござるか?」

「私のお母さんだよ。職人ギルドのギルド長でもあるよ。」

「あなた達がアルゴノーツね?私はエルの母のフリーダよ。よろしくね。」

「私はマキです。よろしくお願いします。」

「アカネでござる。よろしくでござる。」

「吾輩はフィオだ。よろしく。」

「私はミカだ。よろしくな。」

 エルの母、フリーダはエルとよく似た容姿をしているが事務職らしい格好をしており、鍛冶屋のエルとは印象が異なる。職人ギルドのギルド長という話だが、彼女自身は職人ではないのだろうか?


「話はエルから聞いているわ。そのモグラの魔物が危険ではないことをアピールするイベントを開くのよね?フラウとも相談して、会場の設営は職人ギルドの方でやることにしたわ。冒険者ギルドは職員が最低限しかいないから、人手を割けないからね。」

 冒険者ギルドは情報端末を使ったクエスト処理をしており、かなり自動化されているから職員が少ないのか。急な要件には対応しづらいし、普段の人員が要らないというのも善し悪しだな。ギルドの運営方針とかは知らないけれど。

「急な話だったのにありがとうございます。」

「いいのよ。私たちにも無関係な話ではないし、ドワーフはみんなイベント好きだしね。軽食店のインビスも、今日はイベント会場で出店しているのよ。」

「なんだかお祭りみたいですね。そこまで大がかりなイベントではないんですけど。」

「まあまあイベントの内容なんてなんでもいいのよ。男どもは理由をつけて飲みたいだけだからね。」

 ドワーフ達は何もなくとも普段から飲んでいるみたいだけど、そこはつっこまなくてもいいか。

「それじゃあ、エルをよろしくねアルゴノーツのみんな。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

 フリーダは会場の設営を取り仕切っているようで、エルを残して作業に戻った。


「拙者とフィオ殿は岩石の用意をしてくるでござるよ。」

「そうだったね。私はモグラさんと一緒に居ないといけないから、そっちはお願いするね。」

「了解でござる。まずはギルドに行って、フラウ殿の許可を貰うでござるよ。」

 アカネとフィオは街の方へと走っていった。


「2人は何をしに行ったの?岩石って言ってたけど。」

「モグラさんが大人しいだけじゃなくて、強力な魔物だって事もちゃんと知ってもらった方がいいから、岩を粉砕するデモンストレーションの用意をする事にしたんだ。」

「ふーん。大人しいだけじゃダメなのかな?」

「弱い魔物だと舐められないように、みたいな感じかな?」

「ところで職人達もたくさん集まっているみたいだけど、街の方はどうなってるんだ?」

「みんなに集まってもらえるように、レストランとか酒場は臨時休業になったよ。従業員はインビスを手伝ったり、出張所を会場で出したりしているみたいだね。」

「本当に大掛かりになっちゃったね。街丸ごとでイベントに参加してくれたのか。」

「お母さんも言っていたけど、みんなイベント好きだから気にしなくていいと思うよ。」

「それならいいんだけど。」

 会場を見渡すと既に酒盛りを始めているドワーフ達もいるし、冒険者達も飲食を楽しんでいるようだ。迷惑にはなっていないらしいけど、あまり急なイベントは開かない方がいいな。今後何かやる機会が有ったら、日程に余裕を持つようにしよう。


「モグラさんは大丈夫ですか?思っていた以上に大人数が集まっちゃいましたけど。」

「別に気にしないぞ。私はいざとなったら穴を掘って逃げるから、人数は大した問題じゃないしな。」

「それならよかったです。」


 しばらくしてアカネとフィオが岩石を抱えて戻って来た。巨大な岩石でとても重そうだが、フィオが2人に強化魔法を使って運んできたようだ。

「お待たせでござるよ。」

「手ごろな岩石が有ってよかったな。今朝も修行で見ていた場所だから目星はついていたのだが。」

「お疲れ様二人とも。モグラさんはこの岩石を粉砕できますか?」

「そのくらいなら容易いぞ。」

「それじゃあ後で、私が合図したらお願いします。」

「分かった。」

「準備もできたみたいだし、お母さんに連絡してイベントを始めてもらおうか?」

「うん、よろしく。」

 アカネとフィオは岩石をイベント会場中央の広場に置き、エルは母フリーダのところにイベントを開始してくれるよう連絡に行った。私とミカもモグラを連れてイベント会場中央の広場へと向かう。いよいよ本番だ。


 イベント開始の時刻である午後6時ごろになると、フラウも会場にやって来た。フリーダと合流し少し会話した後、フラウがマイクを握った。冒険者ギルド主催のイベントなので司会はフラウがやるようだ。

「本日は急な呼びかけにも関わらず、多くの方に集まっていただき、誠にありがとうございます。イベント主催である冒険者ギルドのフラウが、ギルドを代表しまして御礼申し上げます。」

 会場からは拍手が沸き起こった。酔っぱらったドワーフ達が盛り上がっているようだ。

「早速ですがイベントの主役であるモグラこと、グルントマオルヴルフを紹介します。彼?彼女?まあ性別は分かりませんが、冒険者に追われてなわばりである南の森からランメル鉱山へと逃げ込んでいたところ、冒険者パーティアルゴノーツによって発見されたという経緯がございます。この魔物は見ての通り大人しく、こちらから手を出さなければ無害であるとアルゴノーツとの接触によって判明しました。と言いますのも、アルゴノーツには魔物の言葉が分かるメンバーがおりまして、モグラ本人に実際話を聞いた結果であります。言葉だけでは信用できないという方のために、モグラがどれだけ大人しいのかを実演いたしますのでご覧ください。」

 モグラの紹介が終わりフラウがこちらに合図を送って来たので、いよいよ私たちの出番だ。まずはアルゴノーツ全員とエルでモグラに乗って、モグラが暴れないところを見せる。冒険者達は黙って見守っているが、酔っぱらったドワーフ達には好評なようで割と盛り上がっている。フリーダ含めた女性のドワーフ達は少し心配そうにしているな。エルは参加させない方がよかっただろうか?

「なんか思ったよりも地味でござるなこれ。」

「うむ、モグラが無害であることをアピールするには不足かもしれんな。」

「各々モグラ殿に戯れるでござるよ。なんかこどもっぽく。」

「すごいざっくりしてるなあ。」

「慣れない事だが仕方あるまい。」

「うん、頑張る。」

 みんなでモグラを撫でたり軽く叩いたりして、それでも大人しくしている様子を見せると、冒険者達も納得した様子を見せているので効果はあったようだ。考えてみれば私はこの世界ではよくわからない動物なんだし、かわい子ぶってもしょうがない気もするな。まあいいか。


 それなりに盛り上がったので、再びフラウがマイクを取りイベントを進行する。

「モグラがとても大人しい魔物であることはご理解いただけたようですので、次の催しに移りたいと思います。このモグラの魔物は知っての通り粉砕モグラなどと呼ばれ、それなりに強力な魔物であります。大人しいだけではなく、強い力を持った魔物であるという事も実演いたしますのでご覧ください。」

 冒険者達はモグラの力を知っているようだが、ドワーフ達は実際にその力を目にしたことは無いようで興味津々に会場を見つめている。よく知らずに大人しい魔物だからとちょっかいを掛けたら大変だし、実態を知ってもらうのはやはり重要なようだ。

「モグラさんが岩石を粉砕したら破片が飛ぶかな?」

「そうだな。力を見せるなら全力でやったほうがいいだろうが、そうすると少し危ないかもな。」

「私が広場にバリアを張ってやるから思いっきりやっていいぞ。マキ達も広場から離れていた方がいいな。マキは別に平気だろうけどな。」

 ミカに言われた通り私たちが広場を離れると、ミカは広場全体を覆うように大きなバリアを張った。これなら破壊力が分かりやすいし危険もないだろう。

「それじゃあモグラさんお願いします。」

「おう、わかった。ふん!」

 モグラは気合を入れて鋭い爪の両腕を振り上げ、思い切り岩石に叩きつける。すると岩石は一撃でバラバラに爆散した。モグラは岩盤を掘り抜くほどのパワーなので岩石を砕くことくらい朝飯前のようだ。ミカの張ったバリアによって破片は周囲には飛び散っていないが、巨大な岩石が爆散する見た目のインパクトで会場はシンと静まりかえった。しばしの静寂の後にフラウが再びマイクを取る。

「ご覧いただけた通り、モグラは非常に強い力を持っていますので、大人しいからと言ってちょっかいを掛ける事はやめましょう。大人しい彼らでも怒れば反撃してきます。彼らを積極的に排除する必要はありませんが、お互いのために距離を置いたお付き合いをしましょう。以上で本日のイベントは終了になりますが、引き続きインビスでの食事やお酒をお楽しみください。本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございました。」

 ちょっと心配だったけど、特に問題も起きずにイベントは無事終了したようだ。会場に集まった人たちは、そのまま食事や酒盛りを続けている。


 モグラの出番は終わったので、これからどうするか聞いてみることにする。

「モグラさんお疲れさまでした。」

「まあ大したことはしてないが、もういいのか?」

「はい、冒険者や街の人にモグラさんがどういう魔物なのかちゃんと伝わったと思います。今後冒険者からいきなり襲われるという事は無くなると思いますよ。」

「私の方から仲間達にそう伝えておこう。みんながみんな信用してくれるとは限らんが、こちらから人を襲う理由は特にないから、その点は問題ないだろう。」

「よろしくお願いします。それと協力してくれてありがとうございました。」

「人でも魔物でもない、もっと言えばこの世界とも魔界とも関係がないお前に礼を言われる筋は無いと思うが、両者の関係は改善されたと言えるだろう。私の方こそ礼を言うぞ、ありがとう。」

「どういたしまして。それでモグラさんはこれからどうしますか?」

「用も済んだし私はなわばりの森に帰るよ。機会が有ればまた会おう。さらばだー。」

「そうですね、また機会が有れば。それまでさようなら。」

 モグラの魔物は穴を掘って棲み処の森へと帰っていった。見たところ穴を掘るより走ったほうが速いみたいだし今度会ったら伝えよう。


 モグラにも言われたが私は種族や出身地の事で少し悩んでいた。いわば部外者の私が種族間、世界間の問題に口出ししてよかったのかどうか。今回は上手くいったようだが、むしろ悪化する可能性もあるはずだ。そうなったとき部外者の私は何も被害を受けないし、無責任なのではないかと思ったのだ。

「なんだか悩んでるみたいだけど、どうしたんだマキ?」

「えっとねミカ。私は人でも魔物でもないのに両者の関係に割って入って、その関係に変化を加えたのは正しい事だったのかなって、ちょっと悩んでたんだ。」

「マキはマキ自身がやりたいようにやればいいと思うぞ。私は私の正しいと思ったことをしているけど、それは特定の種族のためでも所属している組織のためでもない、私自身の意思で決めている事だ。だから悩まないし後悔もしない。そもそも私から見たら種族の違いも組織の違いも、あってないようなものだしな。」

 私は自分の出自にこだわりすぎていたのかもしれない。アカネやフィオが別の種族であってもきっと仲間になれただろうし、モグラに協力しようと思ったのも私が彼の人となりに好意的な感情を持ったからだ。個人の本質に種族や出身地は関係ないのだ。

「そうだね。種族とかで個人の本質が決まるわけじゃないもんね。私も私が正しいと思う事、やりたい事をするよ。パンダでも人間でもなく、日本人でも冒険者でもない、一生命体である私自身の意思でね。」

 種族が何だとか、どこの世界の出身だとかそんな事は私の一部でしかない。私は他の誰でもない私なんだ。万人にとって正しいことなんてきっと存在しないから、私は私が正しいと思う事を精一杯やろう。ミカや仲間達がそうしているように。

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