悪い魔物じゃないよ ~ミーティング~
アルゴノーツはクエストを達成して冒険者ギルドへと帰って来た。受付嬢のフラウにクエスト達成の報告をしてから、モグラの魔物が無害であることを証明する方法について相談しよう。幸いまだ夕方までは時間が有るのでギルドに人影は少なく、フラウも忙しそうな様子はない。
「こんにちはでござるフラウ殿。エル殿の依頼、スタムメタルゴーレムの捕獲クエストを達成したでござるよ。」
「お帰りなさいアルゴノーツのみなさん。ギルドカードをお預かりしますね。」
アカネはギルドカードをフラウに渡し、クエスト達成の処理をしてもらう。
「クエスト達成については確認しました。このクエストはゴーレムのサイズ次第で報酬が上乗せされるので、エルちゃんがゴーレムを職人ギルドに登録した後で、査定してプラス分の報酬を振り込みますね。最低保証額の12万クローネは口座に振り込んでおいたので、後で確認してください。」
「ありがとうでござる。」
アカネはギルドカードを受け取り忍具袋へとしまった。
続いてモグラの魔物の件を相談しようとしたが、フラウの方から先に話を切り出してきた。
「アルゴノーツから魔物についての報告があるのよね?ギルド長の方から連絡が入っているわ。大体の事情は把握しているけど、現場の声を聞いておきたいわね。」
フラウは受付嬢としてクエストの処理をする時だけ口調が形式的になるけど、それ以外の時は若干砕けた話方になるんだな。私たちがエルと友達になったから、気軽に話してくれるようになったのかな?
「かくかくしかじか。というわけです。」
「なるほど、おおむねギルド長に聞いた通りね。魔物の中には無害で大人しい種族も居るから、その区分を作って周知しようという提案ね。このルール作りについてはギルド長主導で既に動き始めているわ。」
「冒険者ギルドってフットワークが軽いんですね。」
「最近は結構暇・・・平和だったからすぐに動くことができたのよ。それにすぐにでもルール作りをしないと、今も無害な魔物たちが謂れのない迫害を受けているかもしれないですからね。」
今まで排除すべき対象であった魔物の中に実は無害なものが居たなんて話、実のところ信じてもらえない可能性も考えていたが、フラウは本心から信じてくれているようだ。
「魔物の区分に関してはギルドにお任せしようと思うんですけど、私たちが実際に会ったモグラの魔物については私たちが無害であることを証明しようと思うんです。」
「そのことも連絡は受けているけれど、ギルドの方で動いている以上すぐに解決する問題だと思うわよ?モグラの魔物・・・グルントマオルヴルフについてはアルゴノーツからの報告によって既に無害な魔物として分類しているし、あとは周知していくだけの状態よ。」
「関わってしまった以上、そのまま放っておけないというのが本音ではあるんですけど、別の理由もあってですね。無害な魔物が居るなんていう今までの常識を覆すような話は、具体例がないと信憑性が低いと思うんですよね。だから、そのモデルケースとしてモグラさんの事を紹介しようと思うんです。無害な魔物だと分かってもらえれば、モグラさんの為にもなりますし。」
「信憑性が低いというのは確かにその通りね。私はアルゴノーツの事を知っているから報告をすぐに信用したけれど、あなた達を知らない冒険者からしたら眉唾物の話かもしれないわ。そう言う事なら、あなた達の作戦に協力するわよ。」
「よろしくお願いしますフラウさん。」
「このまま受付で話をするのもなんだし、ミーティングルームに行きましょうか。」
「受付は留守にしても平気なんですか?」
「御用の方はミーティングルームへお願いします。っと、これで大丈夫よ。夜間の酒場営業時と緊急時以外はそうそう私が必要になる場面は無いからね。」
受付は昼間は暇なのか。そう言われてみれば、ほとんど受付を利用する冒険者はいないな。情報端末を使う場合でも、疑似人格ノルンが話を聞いてくれるから、直接受付を使う機会はそんなにないんだろう。
フラウと共にミーティングルームに場所を移し、改めて作戦の打ち合わせをする。
「それじゃあ改めて打ち合わせをしましょうか。ギルド長から聞いている話だと冒険者達を街の外に集めて、モグラの魔物が無害だと証明する場を設けるって事だったけど、それでいいかしら?」
「はい、そのつもりです。」
「冒険者達を集める事については私に任せてもらって大丈夫よ。それで、実際どうやって無害であると証明するつもりなの?マキさん以外には魔物の言葉は分からないのよね?」
「そうですね。どうしたら無害であると分かってもらえますかね?」
「そこはノープランだったのね。」
打ち合わせをしているとミーティングルームのドアを叩く音がした。
「はーい、鍵は開いてますから入っていいですよ。」
「お邪魔します。」
ドアを開けて入ってきたのは、先ほど別れたばかりのエルだった。もうゴーレムの登録は終わったのだろうか?
「早かったねエル。もう用事は済んだの?」
「うん、ばっちり。マキ達はモグラの事を話していたの?」
「そうだよ。まだ話し始めたばかりだけどね。エルも一緒に打ち合わせする?」
「うん。」
後からやって来たエルもテーブルに着き、打ち合わせを再開する。
「それで、モグラさんが無害であることを証明する方法についてなんだけど、何かいい案は無いかな?」
「拙者考えていたのでござるが、モグラ殿は別に無害というわけではないでござるよね?」
「どういう事?」
「魔物というのは様は野生動物と同じようなものでござるし、モグラ殿も攻撃すれば反撃してくるわけでござるよ。害が有るか無いかというのはひどく主観的な話でござる。」
「なるほど、言いたいことはなんとなく分かるけど、つまりどういう事?」
「無害というのは正確ではないって事でござるよ。こちらから手を出さなければ暴れない大人しい動物というのは、言ってみれば普通でござる。凶暴な動物や縄張り意識の強い動物は、こちらから何もしなくとも近づくだけで襲い掛かってくるでござるが、それに相当するのがいわゆる害のある危険な魔物でござるな。」
「そう考えれば魔物か動物かという区別にもあまり意味がないかもしれないな。ようするに魔物とは、魔界出身の動物でしかないのだからな。」
「そうね、無害というのは語弊があるわね。ともすれば弱い魔物と受け取られかねないし、誤解の起きない定義が必要かもしれないわ。」
「それじゃあ普通の魔物ですかね?いやなんか違うかな?現状魔物はすべて危険だと思われているわけだし。」
種族間の問題に干渉する気はないと言って、黙って話を聞いていたミカだったが、話合いが迷走し始めたので話に入って来た。
「お前たち話が逸れているぞ。魔物の区分についてはギルドに任せると決めたんだろう?私たちが対処するのは、あのモグラの現状を打開する事だったはずだぞ。」
「そうだったね。難しい話は私たちが少人数で考えても結論が出る事じゃないし、とりあえずモグラさんの事だけに絞って話し合おうか。」
「モグラの魔物が大人しいってことを宣伝したらいいんだよね?それなら職人ギルドでも協力しようか?」
「そんなことできるの?」
「お母さんはギルド長だし、私は職人のみんなとも大体知り合いだから協力してくれると思うよ。冒険者達を集めてイベントみたいな事をやるなら、私たち職人ギルドも参加するよ。」
「その方がいいかもしれないわね。職人や商人は情報共有や拡散が早いし世界中を旅するから、魔物に関する取扱いを変える事を世界的に周知するなら協力は不可欠ね。」
職人ギルドの協力が得られそうなので、情報発信に関しては問題なさそうだ。肝心のモグラの魔物についてのイベントの内容がより重要になるな。
「難しく考えずとも拙者達は見た目はこどもなわけだし、モグラ殿と仲良くしていれば危険ではないとアピールできるんじゃないでござるか?実際無害かどうかは別にして、モグラ殿が人と敵対していないことが分かればいいわけでござるし。」
「若干騙しているようで悪いが、それが一番わかりやすいかもしれんな。」
「こどもであることは別に嘘じゃないし、騙してるわけじゃないと思うけど。」
「我々記憶保持者は言ってみれば中身は大人のようなものだからな、こどもの振りをするというのが少し気になっただけだ。吾輩もその方法は有効だと思うぞ。」
「私は前世の記憶は一部しか持っていないし、中身が大人って事もないんだけど、フィオは違うんだね。」
「そうなのか?言われてみればエルの記憶の事は詳しく聞いていなかったな。今晩にでも聞かせてくれ。」
「うん、いいよ。」
「それじゃあ、イベントでは私たちとモグラさんが仲良くしているところを見せて、こども相手でも暴れない大人しい魔物ですよ。ってところをアピールする感じでいいかな?」
「いいんじゃないかしら?ドワーフはみんなこども好きだし、エルちゃんの事もよく知っているから信用してくれると思うわ。」
「私もやるのか?まあいいけれど。」
ミカも参加してくれるようだし、この作戦で行こう。
「私は冒険者達を集めるために受付で準備をするわね。夕食の時間帯は外した方がいいから、午後6時くらいに集まってもらいましょう。モグラの方の準備はアルゴノーツに任せるわね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「私は職人ギルドの方に協力を要請してくるね。6時なら仕事が終わる時間帯だからみんな集まってくれると思うよ。」
「そっちもよろしくね。私たちはモグラさんを呼んで来よう。」
「それじゃあ作戦開始でござる!」
「おー!」
打ち合わせを終わらせて、三手に分かれて作戦を開始する。こどもであることを武器にするなんだかあざとい作戦に感じるけど、効果が期待できればなんでもいいか。私はパンダだし、こどもってわけでもないんだけれど。モグラにも作戦内容を伝えないといけないし、少し急がなくてはならないな。




