冒険者クエスト―スタムメタルゴーレムの捕獲― ~契約の祭壇~
鉱山で出会ったモグラの魔物と会話してみると、人にとっては無害な生物であることが分かった。魔物は排除するべき対象として認知されているので、冒険者ギルドに無害な魔物が居る事を報告し、危険な魔物と区分する事を提案した。魔物への対処に関するルール作りはギルドに任せるとして、目の前のモグラについては私たちアルゴノーツで解決することにした。
アルゴノーツとエルの一行はモグラのもとに集まり、モグラが冒険者に襲われないために今後どうするかを相談する事にした。
「お待たせしました。仲間たちにはあなたが危険な存在ではない事を説明してきました。」
「そうか、それでどうするつもりなんだ?わざわざ仲間を呼んできたという事は、何か考えがあるのだろう?」
「街であなたが危険ではない事を証明すれば、冒険者に襲われることは無くなると思います。とりあえずギルドには無害な魔物が存在することは報告したんですが、あなたが無害であることを証明するために私たちに協力してくれませんか?」
「今後襲われなくなるならば協力するにやぶさかではないが、一体どうするつもりなんだ?」
私も特に具体案があるわけではないので、みんなの知恵を借りよう。
「えっと、あなたの事はなんて呼べばいいですか?」
「私に固有の名前は無いから好きに呼んで構わないぞ。」
「それじゃあモグラさんで。ミカは聞いてたと思うけど、モグラさんが無害であることを証明するために、本人が協力してくれるそうです。そこで、何かいい案が有りませんか?」
「ギルドに直接出向いて無害であると証明したらどうでござる?」
「モグラさんは街に入れるかな?入国審査を通らない気がするけど。」
「我々アルゴノーツの制御下に入っているという事にすれば、審査自体は通ることができるだろう。魔物を力で従えている、魔物使いの冒険者も世の中には居ると聞くしな。」
「魔物使いは見た事があるけど、街に入るときは魔物を檻に閉じ込めていたよ。そのままだと入国できないんじゃないかな?」
「モグラさんを檻に入れて街の中に入るって話なんですけど、どうですか?」
「檻に閉じ込められるのは私としては拒否するぞ。出会ったばかりのお前たちを完全に信用しているわけではないからな。いつでも逃げられる状態を確保するのが協力する最低条件だ。」
「それはそうですよね。モグラさんは檻に入るのはダメだって言っているよ。」
「フラウさんに頼んで冒険者達を街の外に集めてもらうのはどうかな?多くの冒険者は夕方ごろにギルドに戻るはずだから、その時にチャンスがあると思うよ。」
「街の外で無害を証明する機会を設けるって事ですけど、どうですかモグラさん?」
「うむ、街の外ならいざとなればすぐに逃げ出すこともできるし、私はそれで構わないぞ。」
「モグラさんもその方法ならいいって言ってるよ。」
私だけ両方の言葉が分かっているからなんだか不思議な感じだな。ミカも言葉は分かっているはずだけど、種族間の問題に干渉する気はないみたいだし、私が両者の橋渡しをしないといけないな。責任重大だけど、私にできる事はそう多くないし精一杯頑張ろう。
「方法は決まったな。そう言う事ならギルド長の方からフラウに連絡してもらった方が確実だろう。ミミルよ、ヨツンにそのように連絡してくれるか?」
「了解だよー。」
「そんなわけでモグラさん、私たちがクエストを終えて街に帰るときに一緒に来てください。」
「分かった。それまではこの場で待機していることにするよ。」
これで街の方での準備は問題ないだろう。あとはクエストを片づけて、モグラと一緒に街に帰ってからが問題だな。冒険者達にうまくモグラの魔物が無害であることを伝えられるといいけれど。
「そうと決まれば、まずはクエストをクリアしないといけないでござるな。エル殿、ゴーレムの生息地はこの先でござるか?」
「うん、もうすぐそこだよ。打ち合わせ通りゴーレムの相手は私がするから、みんなは手を出さないでね。」
「ゴーレムがどの程度の強さなのかは知らないが、本当にエル一人で大丈夫なのか?」
「私はこう見えてドワーフの中でも結構強いんだよ。ソールの名を受け継いでいるからね。」
「ソールって何?」
「えっとね、それを説明すると長くなるから、実際に私の戦いを見てくれた方がいいかな。」
「むむむ、なかなかの自信でござるな。エル殿の力にも興味があるでござるよ。先を急ぐでござる。」
アルゴノーツとエルの一行は、モグラの居た広場からさらに奥へと進み、ゴーレムの生息地へと足を踏み入れた。ゴーレムの生息地はモグラの居た広場よりもさらに開けた空間で、ここだけ他の洞窟部分とは異なり、整備された部屋のようになっている。部屋には数十体のゴーレムが侵入者を待ち構えるかのように壁際に並んで立っており、部屋の中央には相撲の土俵を思わせる祭壇らしき舞台がある。
「生息地って言うからゴーレムが徘徊しているような感じを想像してたんだけど、まるでゴーレムの保管室って感じの部屋だね。」
「この部屋は通称力比べの間って呼ばれていて、並んでいるゴーレムを選んで力比べを挑むことができる部屋だよ。力比べに勝ったら倒したゴーレムは挑戦者のいう事を聞くようになるよ。」
「合点がいったでござるよ。だからエル殿が直接戦わないといけないのでござるな。」
「うん、そういうこと。いわばこの部屋はゴーレムと契約するための儀式の間だね。部屋のさらに奥にはマキが想像しているような、ゴーレムが徘徊している洞窟が続いているはずだよ。」
「エルもこの鉱山に来るのは初めてのはずだけど詳しいんだね。」
「クエストを受けるために鉱山の地図を暗記したから。」
「脇道が入り組んでいるし、結構広い鉱山だけど全部覚えてるの?すごいね。」
「暗記は私の特技みたいなものだから・・・。」
エルは言葉の途中で一瞬黙ってしまったが、一歩踏み出しながら話を続けた。
「どのゴーレムに挑むか選んでくるね。みんなは中央の舞台の脇で待っててよ。」
私たちは言われた通り舞台の脇に移動しエルを待つことにした。エルは数十体のゴーレムから、どのゴーレムに挑戦するか厳選しているようだ。ゴーレムは不均一な金属塊がいくつも集まり人型になったような姿をしており、黒に近い鈍い銀色でメタリックな輝きを放っている。
エルは一通りすべてのゴーレムを見て回り、その後ある1体のゴーレムの前へと戻っていった。エルが選んだゴーレムは一際巨大な身長4m程の体格をしており、他のゴーレムと比べて若干黒味が強い体色をしている。私にゴーレムの良し悪しは分からないけれど、数十体の中でも一番強そうなゴーレムに見える。
「よし、この子に決めた。」
エルはそう宣言してから、ゴーレムの足元にある魔法陣のような模様に魔力を注ぎ込む。すると静かにたたずんでいたゴーレムはにわかに動き出し、部屋の中央にある舞台へと上がっていった。エルもゴーレムに続いて舞台へと上がり、いよいよ力比べが始まるようだ。




