冒険者クエスト―畑の獣害予防― ~夜の警備編~
アルゴノーツ一行は獣害の有った畑を警備するため、街の郊外にある農園へとやってきた。昼前に依頼者ゲッツとは打ち合わせをしたが、警備を始める前に改めて挨拶しておこう。もうすぐ日が落ちるので、仕事を切り上げているだろう。
「こんばんはー。」
「はいよー。おうあんたたちか。これから畑の警備を始めるのかい?」
「はい、そのつもりです。警備に入る前に一応報告しに来ました。」
「俺達は今仕事が終わって、これから夕食を食べに街の方へ行くんだが、警備の方はあんたたちに任せていいか?」
「ああ、我々だけで大丈夫だ。人気が無い方が畑を荒らした獣も出てきやすいかもしれないし、ゆっくり食事を楽しんできてくれ。」
「エルフの嬢ちゃんは頼もしいな。それじゃあ行ってくるぜ。」
「よろしくお願いしますね。」
依頼者であるゲッツと奥さんは夕食を取るために街へと歩いて行った。いよいよ日が落ちて暗くなってきたので、私たちは畑の方へ向かおう。
被害の有った畑へと移動したが、具体的にどうやって警備するのか聞いていなかったな。普通に見回っていればいいんだろうか?賢い動物なら見張りが居たら易々とは出てこない気もするが。
「警備ってどうやってやるつもりなの?」
「我々が畑周辺に居ては犯人の獣は出てこないだろう。だから隠れて見張るぞ。」
「近くに隠れる場所は無さそうだけど、どうやって隠れるの?」
「幻惑魔法で姿を透明にして隠れるぞ。この暗さならかなり擬態効果が期待できるな。」
「魔法は便利だなー。アカネとフィオは交代で眠るって話だったけど、どっちから見張りをするの?」
「このクエストを選んだのは吾輩だからな。まずは吾輩が見張りに立とう。アカネは先に休んでくれ。」
「了解でござる。それでは3時間後に起きるでござるよ。すやー。」
「もう寝てる。寝る速さも訓練してるのかな?忍者すごいな。」
「よし、幻惑魔法をかけるぞ。インビジブル。」
フィオが魔法を発動するとアルゴノーツ全員の姿が透明になった。しかし透明化しているお互いの姿は見えるみたいだ。この魔法は魔力感知も阻害されるようで、魔力も感じづらくなっている。
「今我々は視覚的に透明になり魔力の気配も消えているので、よほど鋭敏な感覚器官を持っているか、あるいは幻惑に高度な耐性がある者でなければ見破れないだろう。野生動物であればまず間違いなく騙しおおせるぞ。」
「おお、すごいね。」
「動き回ると物音が立つし、犯人が現れるまでは待機だな。魔力感知と視覚による監視で何かが近づけばすぐ分かるだろう。」
―――1時間後
「じっと監視していたけどなかなか何も現れないね。」
「夜行性の動物ならば日が落ちてから行動しているだろうから、現れるとしたらこれからだな。もう少し様子を見てみよう。」
「少し遠くまで魔力感知で探ってみるぞ。大型の獣ならすぐ分かるだろ。」
ミカはちょっとだけ気合を入れて魔力感知の索敵範囲を広げたようだ。
「西側の山から大型の生き物が近づいてきているな。四足歩行で静かに歩いているようだけど、あと20分もすればここに来るぞ。」
「畑に入られると厄介だし、畑と山の間で待伏せしようか。」
「そうだな、相手に察知されないように静かに移動しよう。」
畑西側の山と畑の間へと移動し、畑荒らしの犯人らしき動物の到着を待つ。
ほどなくして体長3m程の巨大な四足歩行の獣が現れた。体型はずんぐりとしていて毛皮は全体的に白っぽい灰色をしている。しかし目の周りはパンダのように黒く、鼻から額にかけては黒い筋が通っており愛嬌のある顔だ。尻尾は太くて縞々の模様が特徴で、器用そうな前脚を持っており・・・ぶっちゃけでかいアライグマだった。
アライグマは私たちの手前5mくらいまで近づくと歩みを止めて、きょろきょろとあたりを警戒しているようだ。
「むむむ・・・ただならぬ気配。」
気付かれてしまったようだし、このまま見ていても仕方がないので、小声で作戦を立てる。
「なんだかバレてるみたいだね。どうしようか?」
「予定通りまずはマキが話をしてみてくれ。私は動物が何を言っているのか分からないからな。」
「急に透明化を解除したら驚くんじゃないかな?」
「あいつが逃げだしたら私が捕まえるから大丈夫だぞ。」
「まあ自分より小さい動物が現れても逃げ出しはしないだろう。マキの幻惑効果だけ解除するぞ。」
フィオが私にかけた幻惑魔法だけを解除したので、透明化が解けてアライグマに発見された。
「何奴?いきなり現れたように見えたが、まさか忍者か?」
「私は忍者じゃないですよ。パンダのマキです。」
「うーむ、動きを見れば素人なのはわかる。たしかに忍者ではないようだな。それで拙者に何か用か?」
拙者?忍者を知っているみたいだし、このアライグマは和の国の出身なのかな?気になるけど、とりあえず畑荒らしの件を確認しよう。
「私は畑の警備を頼まれた冒険者です。あなたが畑を荒らしてメロンを食べた犯人ですか?」
「いかにもその通り。昨夜は空腹からつい手を出してしまったのだ。畑を荒らすのはやばいと思ったが、食欲を抑えきれなかった。今は反省している。」
「反省しているならどうして今日も現れたんですか?」
「拙者は人探しをしているのだが、和の国出身の忍者を見かけなかったか?この辺りから臭いがしたので探しに来たのだ。」
和の国出身の忍者といえばアカネの事かな?畑荒らしの犯人ではあるけど、話している雰囲気的に悪い人じゃなさそうだし事情を聴いてみよう。
「忍者というのはアカネの事ですか?」
「アカネを知っているのか?」
「アカネなら今は私と冒険者をやっていますよ。あなたも和の国出身みたいですけど、アカネとはどういった関係なんですか?」
「拙者とアカネは兄妹のようなものだな。同じ忍者の里で修行をした兄弟子なのだ。」
「なるほど、アカネの先輩なんですね。それで、どんな用件でアカネを探していたんですか?」
「アカネは1人で武者修行の旅をしているのは聞いているか?」
「はい、最初に会ったときに聞きましたよ。」
「アカネはちゃんと許可を取ってから旅に出たのだが、里の頭領が送り出した後に心配になってしまったようで、拙者に様子を見てくるように命じたのだ。アカネはライセンスを持ったプロの忍者であり既に一人前だが、まだまだ若いからな。親同然である頭領が心配するのも無理はない。」
「事情は分かりましたけど、アカネを見つけたらどうするつもりだったんですか?」
「様子を見てくるように言われただけだから、特に何かをするつもりはない。旅先で困っているようなら拙者が手助けするつもりだったが、既に仲間ができているようだしな。他にも何人か隠れているのだろう?拙者は逃げたりしないから姿を現したらどうだ?」
「気づいていたんですね。ミカは話を聞いていたと思うけど、二人とも出てきても大丈夫だよ。」
ミカとフィオも幻惑魔法を解いて姿を現した。
「尋常ならざる気配を感じていたが、そちらの羽付きの少女は只者ではないな。耳長の少女もかなり強いようだが次元が違うぞ。」
「見ただけで分かるんですか?」
「拙者は忍者だが見ての通り人ではなく動物なのでな、本能的に強者は見分けることができるのだ。ちなみにマキと言ったか?お前は全然強くないのもわかるぞ。」
「へーすごいですね。私も動物だけど強いとか弱いとか全然分からないですよ。」
「アカネの関係者らしいことはマキの会話からわかったが、いったい何を話しているんだ?説明してくれないか?」
フィオは動物の言葉が分からないので、まさに話半分しかわかっていないのだろう。簡単に事情を説明しよう。
「簡単に説明するとアカネの兄弟子忍者が、忍者の里の頭領にアカネの様子を見てくるように頼まれて来たって事だね。あと反省しているらしいけど、畑のメロンを食べた犯人だね。」
「畑の件はとりあえずこれ以上被害が出ないなら良しとしよう。依頼者のゲッツに事情を説明して、被害の処理をどうするかはまた考えるとしてな。ゲッツも犯人の退治が目的ではないと言っていたし、謝罪すれば許してくれるだろう。」
「クエストについてはこれで目標達成だな。それで肝心のアカネが寝ていて蚊帳の外なわけだけど、起こしてくるか?」
「そうだね。」
ミカは寝ているアカネを起こしに翼を広げて飛んで行った。畑の脇で寝ていたアカネはミカに起こされて跳ね起き、アライグマに気付いてすぐにこちらに駆けてきた。
「久しぶりでござるなオスカル!」
「ベルばら!?時に待てアカネ、その名前はおかしい。」
「アライグマといえばオスカルでござるよマキ殿。」
「いや、なんか混ざってるよそれ。もっと忍者っぽい名前にすればいいのに。」
「動物は仲間同士で名前なんて付けないから、人からなんと呼ばれても構わんさ。」
「本人がそう言うならいいか。ところでアカネはオスカルさんの言葉は分かるの?」
「言葉は分からないでござるよ。でも小さい時から一緒に修行していたから、もう家族みたいなものでござるな。以心伝心でござる。」
「オスカルさんは頭領に命じられて来たって言っていたし、人の言葉が分かるみたいですけど話すことはできないんですね。」
「人とは発声器官が違うから、人の言葉を使うことはできないぞ。身振り手振りで意思疎通はできるがな。そういうマキは動物なのに人と話ができるのだな。」
「そうですね。ミカからコピーした能力なので教えたりはできませんけど。」
「そうか、それは残念だな。まあ今もそれほど困ってはいないが。」
「それでオスカルは何をしに来たのでござるか?」
アカネが寝ている間の事情を説明する。
「かくかくしかじか。」
「なるほど、かゆかゆうまうまでござるな。」
「ウィルスに感染してそう。」
「頭領には心配いらないと伝えて欲しいでござるよ。拙者は旅だった時より強くなっているし、これからもっと強くなるでござる。」
「そのうち和の国にも行くつもりなので、その時には忍者の里の方にも挨拶に行きますね。」
「承知した。頭領にはそのように伝えよう。」
「話は変わるが、畑を荒らしてしまった事についてなのだが・・・。やはり拙者が直接謝罪に向かった方がよいだろうな。まあ言葉は通じないのだが。」
「農園の人達は今食事に行っていて留守なので、帰ってくるまで待ちますか?私たちが一緒に居れば通訳できますし。」
「拙者の不始末に付き合わせてしまって申し訳ないが、よろしくお願いいたすぞ。」
「ゲッツ達が帰ってくるのは夜遅くになるかもしれないぞ。」
「今日は簡潔な報告だけにして、謝罪と被害の処理についての相談は後日としよう。あまり遅くなると迷惑だろうしな。」
「明日も早いしアカネとフィオはとりあえず寝ていたらどうかな?ゲッツさん達が帰ってきたら起こすよ。」
「2人には悪いがそうさせてもらうか。寝不足でエルとのクエストに支障が出ては困るしな。」
「拙者も了解したでござるよ。すやー。」
「相変わらず寝るの早いな。」
「忍者だからな。」
こうして畑の獣害予防クエストは達成された。依頼者のゲッツ達が帰ってくるまでは、私とミカものんびりしていよう。アカネの関係者が犯人だった以上報酬を受け取るべきではないだろうけど、その辺はオスカルの謝罪と被害の補填なども含めて依頼者と相談しよう。




