ニザヴェリルの食習慣
獣害対策のクエストについては依頼者のゲッツと打ち合わせができた。夜間に畑の警備を行うという事になったので、それまでに別の要件を片づけたり警備の準備をしよう。一行は郊外の農園を後にして街中へと戻ってきた。
「そろそろお昼だね。」
「昼食後には鍛冶工房に行く予定だったな。早めに昼食を済ませておくか。」
「この街のレストランや食堂はお昼は営業していないぞ。ドワーフは自宅兼職場で働いているから自宅で食事を取るし、冒険者はほとんど外出していて昼間は利用者がいないからな。」
「それじゃあお昼はどうするでござる?」
「朝食を作るときにお昼の分も作っておいたから、いったんホームに戻ろう。」
「ホームって?」
「宿泊施設は借り物だけど私たちの活動拠点だし、しばらく滞在するつもりだからな。ホームって呼んだ方が冒険者っぽいだろ?」
「雰囲気は大事でござるな。アルゴノーツ、ホームに帰還するでござるよ。」
「おー。」
昼食をとるためにホームへと戻ってきた。
「外から戻ったら手洗いうがいでござる。」
「私も洗ってこよう。」
「食事の用意、といっても朝と同じサンドイッチだけど、すぐできるから食器を準備しておいてくれ。」
ミカはライ麦パンの残りをスライスし、冷蔵庫にしまっておいたサンドイッチの具材を取り出した。残り3人で食卓を拭いて人数分のお皿とコップを用意する。
「あまり気にしてなかったけど冷蔵庫が有るんだねこの部屋。電気は通ってないみたいだけどどうやって動いているの?」
「冷蔵庫は冷気を発する魔法鉱石を冷媒にしているみたいだね。」
「ミッドガルドにも冷蔵庫が導入されている家は有ったが、あれもニザヴェリル製だな。食べ物は魔法で腐らないように処理できるし、単純に冷やすこと自体も魔法でできるから、エルフには必要ないものだな。新しいものや機械製品が好きなエルフは使っていたが、一般家庭にはあまり浸透していないな。」
「ヨツンは自分で作っていたねー。船舶用の魔導式タービンの開発にはドワーフも協力してくれたんだけど、その時技術交換して色んな製品を作ったから冷蔵庫も成果の一つだねー。」
「冷蔵庫の開発にもヨツンさんが関わっていたのか。あの人なんでもやってるな。」
「和の国には冷蔵庫はないでござるが、雪女の氷室が有るでござるよ。」
「雪女って妖怪の雪女?和の国には妖怪も居るの?」
「豪雪地帯の雪山には結構いるでござるよ。西洋風に言えば雪の精霊みたいなものでござるかね。人里で氷室屋さんをやっている雪女もいるでござるよ。」
「話を聞く限り和の国はなんかいろいろと自由だよね。そのうち訪れるつもりだけど楽しそうだね。」
「和の国に行くときは拙者が観光案内するでござるよ。」
「うんよろしく。」
「準備が終わったから食事にしよう。」
昼食のメニューは朝と同じサンドイッチだが、両面にこんがりと焦げ目がついている。フライパンを使った様子はなかったし、炎の魔法で焼いたのだろう。フルーツジュースをコップに注ぎ昼食を取り始める。
(一同)「いただきます。」
「この街では朝と昼は大体同じものを食べる習慣があるぞ。職人たちは仕事で忙しい時間帯に料理に手間をかけられないからだな。その分夜は外食したり豪華な料理を作ってのんびり過ごす感じだ。」
「合理的というかストイックというか、ドワーフは夕食以外はそれほど重視していないのだな。」
「なんだか変わった習慣だね。」
「まったく同じものじゃ味気ないから、今回はちょっと焼いてみたけどな。」
「冷たいサンドイッチも美味しかったけど、焼いても美味しいんだね。」
「バターやチーズが溶けてフレッシュサンドとは違うジューシーさが有るでござるな。」
「こちらの方が甘いフルーツジュースと合っているかもしれないな。」
「ところで今夜の畑の警備の事だけど、犯人が現れるとも限らないし朝まで警備することになるかもしれないよね。警備に向かう前に夕食を済ませたり、他にも準備したほうがいいかな?」
「そうだな。食事は済ませてから警備に向かうとしよう。」
「徹夜になるなら交代で見張るでござるか?拙者は訓練しているから一晩くらいの徹夜はなんでもないでござるが。」
「私とミカはそもそも眠る必要が無いから交代しなくてもいいけど、アカネとフィオは交代で眠ったほうがいいかもね。徹夜は体に悪いし、3人がかりで見張っていれば十分だろうし。」
「それでは吾輩とアカネは3時間交代で眠ることにしよう。これも適材適所だな。」
「了解でござるよ。」
昼食と同時に夜間の警備について相談もできたので心置きなく鍛冶工房へと向かえるな。
(一同)「ごちそうさまでした。」
昼食を済ませてから4人で分担して食卓を片づけ食器を洗う。少し休憩したら鍛冶工房へ向けて出発しよう。ミッドガルドで預かった手紙がポーチに入っていることを確認し、ホームから出発する準備を始める。
「これから向かう鍛冶工房では親方に手紙を届けて、ゴーレム捕獲クエストの依頼者と会う予定だけど、アカネは武器の新調もするんだよね?」
「そうでござるね。忍具は置いていないだろうし、今使っている物を見本にオーダーメイドしてもらうつもりでござるよ。」
「手裏剣と忍者刀しか使っているのを見たことないけど、他にもあるの?」
「高所に登るための鉤爪とか撒き菱、苦無なんかもあるでござるよ。普通にジャンプすればいいから鉤爪はほとんど使わないでござるけどね。」
「アカネは身体能力が高いから武器より素手の方が強いくらいだもんね。もしかして武器自体必要ないんじゃない?」
「忍者は忍具と忍法を使うものでござるよ。空手しか使わないなら空手家でござる。」
「マキよ忍者はいいぞ最高だ。」
「あっうん、そっかー。」
フィオは忍者好きなんだな。かくいう私も結構好きだけど。
「ちょっと気になってたんだけど、アカネってずっと忍び装束だよね?」
「そうでござるな。」
「街中だとすごく目立ってるけどいいの?忍者的に。」
「1人で武者修行の旅をしていた時は、人に見つからないように隠密行動をしていたから問題なかったのでござるが、普通に活動しているとこの格好はたしかに目立つでござるな。」
「アトラのように戦闘用の装束と別に普段着も用意したらどうだ?ドワーフには服飾系の職人もいるだろうから、ちょうどよいではないか。」
「あまり目立つ忍者というのも存在価値を疑われかねないでござるし、そうするでござるよ。」
「服屋の場所は私が分かるから案内するよー。」
「それじゃあ鍛冶工房での用事が住んだら服屋にも行こう。」
「よろしくでござるよー。」
「鍛冶工房の職人達もそろそろ昼休憩が終わる頃だし出発するか。」
「そうだね。手紙の確認もしたしばっちりだよ。」
「アルゴノーツ出撃でござる。」
「おー。」
新たにアカネの普段着も仕立てることになった一行は、ホームから鍛冶工房イーヴァルドへ向けて出発した。




