疑似生命体ノルン
朝食を取ってから冒険者ギルドへとやってきた。時間は朝の7時くらいでこれからクエストに出かける冒険者達でギルドは賑わっていた。昨日受付のフラウが話していた通り、ほとんどの冒険者がカウンター脇の情報端末を使ってクエストの受注をしているので、フラウはそれほど忙しくない様子だ。今日から本格的にお世話になるだろうし挨拶しておこう。
「おはようございますフラウさん。」
「おはようございます。アルゴノーツのみなさんも昨日はお疲れさまでした。」
「吸血鬼騒ぎの事ですか?結局アトラさんが一人で倒しちゃいましたけどね。」
「あの人は普段まったくクエストを受けないんだけど、最強なんて呼ばれるだけあっていざという時は頼りになりますね。」
「昨日一度死んでしまった冒険者の人達はもう大丈夫なんですか?」
「彼らなら生き返る前より調子がいいって言って、早朝からクエストに出かけて行きましたよ。」
「ともすればそのまま死んでいたのだが、立ち直りが早いな。」
「冒険者をやっていると危険なことはたくさんありますからね。次は負けないように鍛えなおすって張り切っていましたよ。」
「鉄の意思を感じるでござるな―。拙者も見習うでござるよ。」
フラウと談笑していると、ミカが少し真面目な顔で話を切り出した。
「フラウといったか?これはギルド自体への依頼なのだが、吸血鬼が現れたらすぐに私に情報を回すようにしてくれ。」
「それは構いませんがなぜですか?昨日の吸血鬼くらいなら、上位の冒険者であれば十分対処可能だと思いますけれど。」
「吸血鬼は血を吸うごとに力を増す性質を持っているし、再生能力が高く一度倒したとしても肉片から復活することもある。アトラのように対処法が分かっている者以外には、討伐依頼を出さない方がよいだろう。かつてのドラクレア事件のようにならないとも限らないから、私が対応するのが一番確実だ。」
「わかりました。ギルド本部の方に報告しておきますね。」
「頼んだぞ。」
ドラクレア事件ってなんだろう?フィオが言っていた500年前の事件の事かな?吸血鬼は頻繁に現れるものでもないらしいから、とりあえずは気にしなくていいか。
情報端末から子機を借りてきて、昨日中断したクエスト情報の確認を始める。ギルドカードをセットし空中モニターを起動して管理画面を呼び出す。
『おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?』
『おはようノルン。私が受注できるクエスト情報の確認をお願いするよ。』
『承知しました。まずはマキ一人でも受注可能なクエストを表示しますね。マキは戦闘能力が極めて低いので個人では危険度の低いエリアでの採集や街の中での活動といった、比較的簡単なクエストしか受注できませんね。現在依頼は有りませんがどんな文字でも読める特技が有るので、古代遺跡等で発掘される物品の解析もできそうですね。』
『文字が読めるだけだし知識はないから、書いてある事以上は分からないと思うけどね。あとは言葉が通じない相手と話すことができるから、それで何か受けられるクエストはないかな?』
『魔族や動物と話ができるなら戦わずに交渉で解決できるクエストがあるかもしれませんね。人語を扱う高位の魔族は基本的に他の生物に対して高圧的で攻撃的ですが、言葉が通じない低位の魔族は動物に近い行動原理を持っているので、話ができれば状況が変わるかもしれませんね。前例がないのでどうなるかわかりませんが、マキは不死身なのでリスクは少ないし試す価値はありますね。』
『せっかく持ってる能力を生かすために交渉術を学んだ方がいいかな?次はアルゴノーツがパーティ単位で受注できるクエストの確認をお願いするよ。』
『アルゴノーツの保有する能力を加味すると、人数や性別、種族制限を満たしていないもの以外はほとんどのクエストが受注可能ですね。』
『アルゴノーツ全員ならほとんどのクエストが受けられるのか。それなら私一人での活動は考えない方がいいかな。・・・ちょっと待てよ、これってミカの能力も含めて条件づけられているのかな?それだとミカ一人で大体なんでもできちゃいそうだけど。』
『ミカの特技はマキと同等、戦闘能力はフィオと同等という事になっていますよ。彼女の正確な能力はギルドでも判別不可能なので特別扱いですね。戦闘能力のランキングも特殊裁定になっています。他にもギルド長がいろいろ手を回しているようですね。』
『ああ、そうなのか。ギルド長のレオさんはこっちから何も言わなくても気遣いと根回しがすごいな。アトラさんを冒険者ギルドに加入させた件もそうだけど、問題が起きそうな案件には事前に手を打っているのかな?』
『彼はエルフの中でも特に優しいですからね。相方だったサラが破天荒だったせいでもありますが。』
『ノルンはレオさん達が冒険者だった頃の話も知っているの?ノルンが作られたのは80年くらい前だって聞いたけど、レオさん達が冒険者をやっていたのってもっとずっと前だよね?』
『私には図書館の司書であり私の産みの親でもあるヨツンの記憶が、ほぼすべてコピーされていますからね。彼女の知っていることなら、私が産まれる以前の出来事であっても記憶がありますよ。』
『ノルンは自然に会話もできるしすごいね。疑似人格とは思えないよ、本当に生きている人みたいだ。』
『私はヨツンによって作られたモノであり肉体はないですが、いわゆる魂を持っていますし生命体だと思ってもらっていいですよ。』
『SF映画なら機械の反乱とか起こりそうな設定だね。ノルンに直接聞くのもあれだけど暴走とかする危険はないの?』
『私の能力は創造者であるヨツンを越えていないですからね。たとえ暴走しても問題ないでしょう。もちろん暴走なんてするつもりはありませんが。』
『そっかー。ノルンはいろいろできるけどエルフ達にはそれほど便利だと思われていないんだっけ。』
『まあ私の身の上話はこの辺で、他のメンバー達が待っているようですよ。』
『うんありがとう、またよろしくね。』
『はい、いつでもご利用くださいね。』
図書館の情報集積装置ノルンはただのコンピューターみたいなものだと思っていたが、一個の生命体だったのか。細かい仕組みは全然わかんないけどミミルのように魔法生物を産み出すこともできるし、ヨツンの技術というか能力は私から見ると神懸かり的な力に見えるな。
ノルンについての話で本来の目的を見失いかけていたけど、私たちが受けるクエストの相談をしよう。




