職人の国ニザヴェリル
ドワーフのキャラバンと別れてから30分ほどで山間に立ち並ぶ街が見えてきた。あれがドワーフの国ニザヴェリルだろうか。アカネとフィオは既に到着して私たちを待っていたので、ラーベに地上に降りてもらって合流した。
「乗せてくれてありがとうラーベ。」
「このくらいなんでもないよ。繰り返しになるけど魔力操作はちゃんと練習してね。私もどうせ力を貸すなら本気の姿を見せたいし、私以外の他の連中も呼び出せるようになるかもしれないからね。」
「うん、わかったよ。またよろしくね。」
ラーベは魔力を放出して種に戻り、私は種をポーチへとしまった。
「ごめん2人共待たせちゃったね。」
「拙者達も今着いたところでござるよー。」
なんだこのデートの待ち合わせみたいなセリフ。アカネも元日本人だしそういうテンプレを知っているのかな。
「この街がニザヴェリルなのかな?きっちり区画整理されたミッドガルドの王都と比べると結構雑然としている感じだね。」
「ここがドワーフの国ニザヴェリルだよー。住んでいるのはドワーフが中心だけど、ドワーフ製の武器や防具を求めてやってくる冒険者も多いみたいだねー。鉱山の発掘や周辺遺跡の調査等、冒険者へのクエスト発注も盛んにおこなわれているみたいだねー。ミッドガルドとは違って王はいないけれど職人ほぼ全員が加入している職人ギルドが国の運営をしているみたいだねー。」
「山の麓に入国審査用の門があるな。とりあえず国内に入ってしまおう。」
入国審査を受けるために門へと入ると、受け付けは商人用と一般向けの入り口に分かれていた。私たちは商人ではないので一般向けの受付へと向かう。ギルドカードを提示すれば身分証明ができるので、審査は荷物検査だけだ。武器等の持ち込みも冒険者であればほとんど制限はないため簡単に終わり、無事ニザヴェリルに入国することができた。
「冒険者ならニザヴェリルにもほとんど素通りで入国できるんだね。冒険者って信頼されているんだね。」
「問題のありそうな者は審査で落とされるからな。まぁ性格面が原因で落ちる者はそういないが。冒険者になるにはそれなりの節度を持ち、人に迷惑をかけない程度の常識はわきまえている必要があるぞ。いくら能力が優れていても、当の本人が問題を起こしていては元も子もないからな。」
「それもそうか。冒険者って言うと荒くれものみたいなちょっと怖いイメージが有ったけど、そんなことはないんだね。」
「変わり者が多いし、少々荒っぽいものが居るのも事実だがな。一般人に絡むような悪人はいないと思っていいだろう。」
「その言い方だと冒険者間でのいざこざはあるのかな?」
「冒険者はパーティを組んで動くことが多い関係上対立構図ができやすいのだな。フリーで優秀な冒険者は取り合いになるし、実力が拮抗したパーティ同士だと受けたいクエストも被ってしまうからな。本気で争ったというような話は聞いたことがないし、譲り合いの精神を持っていれば気にする必要はないと思うぞ。」
「そう言えばミカのギルドカードってどうなっているの?種族は吸血鬼って書かれているの?」
「コウモリの亜人になっているな。私の正体がわかるといちいち経緯を説明しないといけないしな。ギルド長のレオが気を回したんだろう。」
それって公文書偽造なのでは?ギルドで一番偉いギルド長がやってるんだしいいのかな?
「ミカに敵意を持ってるのは人間だけみたいだから、他の国で正体がバレたとしても問題はないのかな?」
「私をどうこうできる奴なんていないから問題ないと言えばないな。私も特定の国に対して何かするつもりはないしな。」
ユグドラシルとの戦いのようにミカが少し本気を出したら誰も止められないだろう。正体を隠して何か企んでいるわけでもないし気にしないことにしよう。
一息ついたところで、街の様子を見渡してみる。気候は温暖というよりは少し暑いくらいだ。ミッドガルドとそう離れていない土地だしそこまで気候に違いあがるとは思えないが、白い煙を上げている山が有るしおそらく火山の影響だろう。鉱山の山間に作られた街なので高低差が激しく、複雑に入り組んでいる。私は方向音痴なので迷わないようにしなくてはならないな。建物は石造りで真四角ではない異形の石がぴったりと隙間なく組み合わせててできており、非常に頑丈そうだ。高い加工精度が無くてはこのような石の組み合わせはできないだろうし、ドワーフ達の技術力の高さと遊び心が伺える。また立ち並ぶ建物はほとんどが何かしらの店舗のようで看板が掲げられている。民家らしき建物はほとんど見当たらず店舗が住宅兼用になっているようだ。
「この街はすごくお店が多いね。」
「ニザヴェリルは小さい国だけど、住人のドワーフはほぼ全員が何かしらの職人だからねー。自宅兼店舗を持っている人が多いし、親族以外の弟子を取る場合も住み込みで働くことになるみたいだねー。」
「なるほど。お店も気になるけどとりあえず宿を探そうか。しばらく滞在することになるから長期で泊まれる場所がいいよね。たしかミカはニザヴェリルにも来たことがあるんだっけ?」
「来たことはあるけどずいぶん昔だから町並みは変わっているな。それに私一人なら宿に泊まる必要もなかったから利用していないし、よくわからないぞ。」
「それなら冒険者ギルドで聞いてみたらどうだ?」
「現地の人に聞くのが一番か。それじゃあ冒険者ギルドに向かおう。」
「ギルドの場所はわかるのでござるか?」
「冒険者ギルドの所在地なら図書館にデータがあるから私が案内するよー。」
ミミルに先導されて冒険者ギルドへと向かう。ギルドは入国審査の門からすぐ近くにあり、外観は他の建物と同じく頑丈な石作りになっている。ギルドに入ってみると内装はミッドガルドと同じく酒場のような雰囲気になっていた。
ギルドの受付にはドワーフの女性が腰かけて居る。ドワーフの男性は背が低く太ってヒゲを生やした想像通りの見た目だったが、女性は背が低くて細身で可愛らしいな。ともあれ宿についての情報を教えてもらおう。
「こんにちはー。」
「こんにちは。あなたがマキさんね?」
「どうして私を知っているんですか?」
「変わった冒険者が登録したって噂になっているから、ギルドの運営メンバーはみんなあなたを知っていると思いますよ。」
パンダ自体この世界に居ないみたいだし変な生き物が冒険者になったともなれば、噂になるのは仕方ないか。むしろ有名になったほうがいちいち私の姿に驚かれなくていいのかな。
「ところでどんなご用件でしょうか?」
「はい、私達はニザヴェリルに来たばかりなのですが、しばらく滞在するつもりなのでそれに適した宿を探しているんです。」
「この国を訪れる冒険者は多いので、冒険者用の宿泊施設をギルドで運営していますよ。4人の相部屋でよければ申請すればすぐにでも使えますけど、どうしますか?」
「それでいいかな?」
「吾輩は構わんぞ。」
「拙者もそれでいいでござるよ。」
「私はどこでもいいぞ。」
「それじゃあ宿泊申請をお願いします。」
「承知しました。4人のギルドカードを提示してください。」
4人は受付の女性にギルドカードを渡した。女性は手元の端末を使いカードの照会をしている。確認はすぐに終わりカードを返してもらった。
「4人とも冒険者パーティ・アルゴノーツのメンバーなので、アルゴノーツ名義で申請を受理しておきますね。施設はギルド直営なので冒険者であれば無料で利用できますが、掃除等は各自でやってください。部屋を汚したら追い出しますよ。また、食事に関してですが部屋にキッチンがあるので自分たちで料理するか外食してくださいね。基本的に泊まるだけの施設なので食堂は有りません。みなさんの部屋は2階の203号室なので鍵をお渡しします。」
女性から部屋の鍵を受け取りポーチにしまう。
「ありがとうございます。ところでお姉さんの名前を伺ってもいいですか?」
「まだ名乗っていませんでしたね。私はフラウと申します。日中であればだいたいここに居ますので、何か分からないことがあれば聞いてくださいね。」
「はい、わかりました。」
「ミッドガルドでのクエスト達成記録があるのでわかっていると思いますが、カウンター脇の端末を使ってクエストの受注を行うことができますよ。私に直接クエスト受注の申請をしてくれてもいいのですが、だいたいみなさん端末を使いますね。」
冒険者の活動は記録されて共有されているのか。私も魔力操作ができるようになったので、あとで端末の使い方を確認しておこう。
「いろいろありがとうございました。クエストを受けに来ると思うのでまた来ますね。」
フラウに挨拶してギルドを後にし、ギルドの裏手にあるという宿泊施設へと向かう。
「ドワーフの女性はかわいいんだね。あっちの世界ではヒゲを生やして太った姿で描かれることもあったからそんなイメージをしていたけど。」
「この世界の物事と創作の設定ではいろいろと齟齬があるな。記憶保持者でも克明に記憶を有しているものは少ないからかもしれない。参考にはなるがすべてを鵜呑みにすることはできないな。」
「吸血鬼に関わる伝説もミカ殿とは全然違っているでござるな。」
「私に関しては事情が違う気がするけど、創作の設定は面白おかしくするために誇張や改変が含まれているからな。記憶の曖昧さもあるだろうがあえて崩している場合も多いんだろうな。」
ミカは人の神によって怪物としての風評を広められているらしいが、女神はなぜそんなことをしているんだろう。お互い知り合いのようだし手紙を出すような仲ならいがみ合っているわけではないと思うが。
ギルドの裏手に回るとすぐに宿泊施設に到着した。施設は他の建物と同様に外観は石造りで、2階建てでかなり大きい。日中なのであまり人がいる気配はないな。泊っているのはみな冒険者なので出かけているのだろう。
一行は2階の203号室へ移動する。鍵は掛けられておらず扉は開放されていたので、そのまま部屋の中へと入る。室内は結構広くキッチンと広間、寝室、トイレに分かれている。
「宿は決まったし今後の予定を立てようか。」
「ニザヴェリルまで修行しながら走ってきたから、まずは汗を流したいでござるな。」
「個室に風呂はないが一階に共用の大浴場があるみたいだぞ。施設の案内板に書かれていた。」
「私とミカもユグドラシルのところで模擬戦をした時の汚れが有るしみんなでお風呂に入ろうか。」
「この辺は火山地帯だから温泉になっているかもな。早速行ってみよう。」
今後の予定は汗を流してから決めよう。一行は荷物を置いて鍵をかけて部屋を後にした。




