ドワーフのキャラバン
ドワーフの国ニザヴェリル編開始
ユグドラシルと別れてドワーフの国ニザヴェリルを目指す一行。歩けば1週間はかかる距離なのだが、ユグドラシルに貰った世界樹の種を使って呼び出した、植物でできた鳥・ラーベに乗せて貰っているので行程は大幅に短縮されるだろう。とはいえラーベに乗っているのは私とミカだけで、フィオとアカネは修行がてら走っているのだが、二人共高速で飛行している私たちよりも先を進んでいる。
「ラーベはかなり速いけどニザヴェリルにはどのくらいで着くかな?」
「この速度なら1時間もあれば着きそうだねー。」
「本来もっと速く飛べるのだけれど、私を呼び出したマキが未熟だから完全な力は発揮できないんだ。魔力操作がもっとうまくなったら本気の私を見せてあげるから頑張って練習してね。」
十分早いけれど本来の力ではないのか。ほんの1時間の旅だけれど魔力操作の練習をしていよう。ラーベは戦闘能力がないと言っていたが、この速度と巨体なら体当たりするだけでもすごい威力になりそうだ。ユグドラシルの呼び出したドラゴンはかなり攻撃的だったけれど、ラーベが性格的に戦いが嫌いなだけかも知れないな。ラーベに戦ってもらうようなことはないだろうし、協力してもらっているだけで私が命令できるわけではないのだけれど、仲間になったのだから性格は把握しておこう。
フィオとアカネは私たちの飛行速度に合わせていては修行にならないのか、移動しながら組手を始めてしまった。今朝の合気の修行の続きだろう。ユグドラシルの料理の影響もあるだろうけれど、ドラゴンと本気で戦った後なのに二人共体力あるな。
30分ほど飛行してニザヴェリルまでの中間地点に差し掛かったところで、通商用の道で立ち往生している3台の馬車が見えてきた。見たところニザヴェリルへ向かう行商人のキャラバンのようだが、なぜこんなところで止まっているのだろう。近づいて理由を尋ねてみよう。
「ラーベ。あの馬車の近くに降りて貰える?」
「ああ、わかったよ。降下するからちゃんと掴まっててね。」
ラーベはゆっくりとキャラバンの近くへと降下し着地した。先行していたアカネとフィオもキャラバンに気づいたようで、近くに待機していたので合流した。
「こんな道の真ん中で立ち往生とは何かあったのでござるかね?休憩中という雰囲気でもないでござるが。」
「ともかく事情を尋ねてみよう。」
「すいませーん誰かいますかー?」
返事がないな。馬車の中から魔力を感じるので誰もいないわけではないはずだが、どうしたのだろう。ちょっと失礼だけど何か事件かもしれないし馬車の中を覗いてみるか。
「誰かいませんかー?」
声をかけながら馬車の中を覗くと、ドワーフの男性が倒れていた。倒れていたというか爆睡していた。車中には争った後もないし男性に外傷もないようだ。
「どうやら寝てるだけみたいだね。」
「いや魔法の痕跡があるな。何者かに眠らされたのだろう。」
「でも馬車が荒らされた様子はないでござるな。何が目的で眠らせたのでござろうか?」
「ひとまずこいつらを起こして話を聞いてみるか。」
3台の馬車にはそれぞれ1人ずつドワーフが寝ていたので、馬車から降ろして1か所に集めた。魔法効果で眠っているのならユグドラシルの杖を使えば解除できるだろう。しかしドレイン効果も同時に働いてしまうのでやめておいた方がよいか。私にはどんな魔法かまったく分からないし、下手に手出ししない方がいいな。魔法に詳しいフィオとミカに任せることにしよう。
「起きろー!」
ミカは寝ているドワーフ達に蹴りを入れて叩き起こした。私が起こした方がマシだっただろうか。
「あいたたた。何事だ?」
「こんにちは。どうしてこんなところで寝ていたんですか?」
「うわ!なんだお前?変な動物だな、話ができるのか?」
「私はマキです。これでも冒険者ですよ。」
ドワーフ達にギルドカードを見せて確認してもらう。ドワーフ達は私のギルドカードを一瞥してすぐに納得してくれたようだ。
「どうやら本物みたいだな。ギルドのシステムはよく知らんが動物でも冒険者になれるんだな。」
「まぁその話は置いておいて、どうしてこんなところで寝ていたんですか?」
「話せば長くなるんだが、辻催眠術師に会ったようだな。」
「一言で終わってるでござるよ。なんでござるそれ?」
「寝不足で疲れていると、どこからともなく辻催眠術師が現れて、眠らされるという都市伝説があるんだ。どんな奴だったか思い出せんが、どうも実在したみたいだな。」
「不思議な事をする奴がいるものだな。何か盗まれた物はないのか?」
ドワーフ達はそれぞれの馬車を確認する。
「何も盗られてないみたいだな。都市伝説の通りただ眠らせるだけみたいだな。」
「3人ともそんなに疲れていたんですか?」
「そんなことはないと思うんだが、昨晩は酒を飲み明かしたから寝ていなかったな。」
「えー?酔っぱらって寝ていただけなんじゃないでござるか?」
「ドワーフには酒の飲みすぎで眠るようなやわな奴はいないぜ。」
「魔法の痕跡は間違いなくあるから、何者かに眠らされたのは確かだろう。盗人でもないようだし、目的は分からんが記憶を消されているのが気になるな。何か正体がバレると困るのだろうか?」
「とりあえず無事でよかったです。」
「ああ、手間かけて悪かったな俺たちはもう大丈夫だぜ。あんたたちもニザヴェリルに向かうのかい?」
「はい、そのつもりですよ。」
「お礼と言っちゃなんだがニザヴェリルで俺たちの店に来たらサービスするぜ。店の広告を渡しておくから気が向いたら来てくれよ。」
「特に何もしていないですしお気になさらず。ニザヴェリルにはしばらくいるつもりなので、お店には伺わせてもらいますね。」
「おう、待ってるぜ。ありがとな。」
受け取った広告によると3人の店は鍛冶屋でイーヴァルドという名前らしい。アカネの武器を新調する用事もあるし、ドワーフ達が帰ってくる頃合いを見計らって訪ねてみよう。
ドワーフのキャラバンと別れて再びニザヴェリルへと向かう。私とミカはラーベに乗って空を飛び、アカネとフィオも再び組手をしながら走り出した。辻催眠術師が何者なのか気になるが、悪さをしているわけでもない様だし放っておいても平気だろう。道端で眠らされるのは危険な気もするが、エルフの国と繋がっているからかこの道はとても静穏だから大丈夫だろう。
ニザヴェリルまではおよそ30分かかるので、魔力操作の練習のために目を閉じて瞑想することにする。




