ラグナロクごっこ
ミカとユグドラシルがどれくらい強いか見せてくれることになった。周囲に被害が出ないようにユグドラシルが高い壁を出現させて大樹林全体を囲う。壁は頂上が見えないくらい高くどこまでも伸びているように感じる。この壁自体が常軌を逸した能力だと思うが、誰もつっこまないので空気を読んで黙っておこう。
「バリアを張るから3人ともその中に入っていなよ。」
ミカが私たちの周りに魔法でバリアを張った。バリアは透明な球型になっており私たちを囲んで展開された。フィオの魔法障壁とは何か違うんだろうか。
「ずいぶん厳重だね。」
「私はあまり危険な魔法を使う気はないけど、ユグドラシルは大雑把だからどうなるか分からないしな。」
戦う前の準備を終えると、ミカとユグドラシルは10m程離れた位置で向かい合った。
「それじゃあ始めるぞ。先手は譲ろう。」
「せっかくだから見栄えのする力を見せようか。宇宙樹!」
ユグドラシルは掛け声とともに巨大な木へと姿を変えた。木になったユグドラシルはミカとバリアに包まれた私たちを、足場のように生い茂った枝の上にのせてぐんぐんと伸びていく。最初に出会った時よりもはるかに高く伸び、雲を突き抜けてもまだ成長が止まる気配はない。ついには昼間なのに星が見えてきた。
「星が見えるけどこれ高さどのくらいなんだろう?」
「宇宙が見える高さはオゾン層より上だから地上から30㎞くらいかなー。今はさらに伸びて高度100㎞くらいで止まったみたいだねー。もう完全に宇宙空間だねー。」
「バリアが無かったら即死だったでござるな。このバリアどうなってるんでござるかね。」
「ユグドラシルが作った壁があるから地上の様子は分からないね。眺めが良さそうなのに。」
『もう少し驚いてよ。やりがいがないなー。』
木になったユグドラシルは発声器官を持っていないのでテレパシーで話しかけてきた。
「ユグドラシルは宇宙樹とも呼ばれているからな。想像通りというかまぁ意外性はなかったな。」
『最後にこの姿になったのは現代文明が始まるより前のはずなんだけど、どうして人に伝わってるんだろう?』
「人の神のせいかもな。それはともかく戦闘の続きだ。木になって終わりではないんだろう?」
「ミカは宇宙空間でも平気なんだね。というか空気ないのにどうやって話してるの?」
「大抵のことは気合で何とかなるよ。」
答えになってないけど、実際できているんだから仕方ないか。よく考えてみれればテレパシーも仕組みは分からないけれど、そういうものとして認識しているだけだな。ある現象として定義することで正体不明の奇妙なものという忌避感を減らせるのかもしれない。名前を付けただけで何も分かっていない事は変わらないのに、人の感覚は不思議だな。
『それじゃあ攻撃するよ。宇宙樹の雷鳴!』
ユグドラシルは木の葉を揺らし静電気を起こして放電した。ミカは飛び退いて放電を躱したが、さらに木の葉は振動して放電現象は激しさを増している。そして空中へと回避したミカに向けて一筋の雷が撃ち出された。しかしミカはバリアを張って雷を防いだ。不死身だから躱す必要はないのだろうけど、服が焦げるのが嫌だったんだろう。
「完全な真空は絶縁するはずだけどどうなってるんだろうねー。魔力を使ってないから魔法じゃなくて自然現象みたいだけど。」
『エーテル的ななんかを放出してるから、人の考える物理法則なんてボクらには関係ないよ。』
なんかってなんだ。質量保存を無視した巨大化とかしてるから今更ではあるけれど、ユグドラシルに常識は通用しない様だ。
「次はこっちから行くぞ。」
ミカは両手から魔力を放出して巨大な炎の剣を形作った。剣の刀身は100mは有りそうだ。樹高が100㎞もあるユグドラシルのせいでスケール感が狂っているが100mの剣は十分に巨大だ。
「危ないから一振りで終わらせるぞ。炎の剣!」
ミカが前方宙返りしながら剣を振り下ろすと、巨大な刀身はさらに伸びてユグドラシルを根元まで真っ二つに両断した。剣によって切り裂かれた部分は燃えることはなく崩壊している。ミカが宇宙空間で足場もなくどうやって動いているのかと思ったが、魔力をジェット噴射のように放出して移動しているようだ。
『木のままだとやりづらいな。宇宙樹の巨人!』
ユグドラシルは再び姿を変えて、巨大な木から巨人へと変貌した。見た目は小さいユグドラシルと同じで、そのまま巨大化しただけだ。枝の上に居た私たちはバリアごとユグドラシルの頭の上に乗っかった。ミカは空中に浮かんだままだ。
巨人になったユグドラシルが無造作に腕を振り上げ、ミカに向かってアッパーカットを放つ。しかしミカは微動だにせず、ユグドラシルの巨大な拳を素手で受け止めた。質量差的に普通に止めるのは無理だと思うが、拳とは反対方向に大量の魔力を放出してその場に留まっている。
巨人化したユグドラシルが少し動いただけで大地が割れて暴風が巻き起こり地上には甚大な被害が出ている。樹海には他の生物はいないし、今は壁で囲われているので周囲に影響はないはずだが、気軽にこんな戦いをされたら大変なことになるな。
「地上に被害が出ているからそろそろ終わりにするか。最後に極大魔法を見せてあげよう。小規模な破滅。」
ミカは天を覆うほど巨大な魔法陣を展開して隕石を召喚した。大きすぎてよくわからないが身長100㎞のユグドラシルよりも大きい。こんなものが地上に落ちたら星が割れそうだ。
「これ大丈夫なのでござるか?」
「大丈夫ではないが、我々の力ではどうすることもできないぞ。」
「フハハハハ!もう遅い脱出不可能よ!」
この吸血鬼なぜかノリノリである。私たちは成す術なくあたふたしていたが、ユグドラシルだけは不敵な笑みを浮かべている。
「怪獣植物。」
掛け声とともにユグドラシルが隕石に両手をかざすと隕石の表面から植物が生えてきた。瞬く間に隕石全体に木が生えて森のようになり、さらに姿を変化させていく。最終的に隕石は鯨のような姿になり地上への落下を止めた。植物でできた鯨はユグドラシルに頭を下げて、そのまま宇宙空間を泳いでどこかへと行ってしまった。
「何あれ?なんで鯨?どこに行くの?」
「よくわからんが星の破滅は防がれたようだな。」
「強いとか弱いとかいう次元の戦いじゃないでござるな―。」
「ボクたちが戦っても意味がないって事はわかってもらえたかな?この辺で終わりにするよ。」
ユグドラシルは元の小さい人型へと戻り、ミカも地上へと降りてきた。私たちを包んでいたバリアも解除してもらい、自由になってから地上を見渡す。ユグドラシルの立っていた場所は底が見えないほど深く巨大な穴が開いてその周囲には地割れができており、樹海の木々も暴風でなぎ倒されている。
「ユグドラシルの動いた跡がめちゃくちゃになってるね。」
「この世の終わりって感じでござるな―。宇宙からはよくわからなかったでござるが。」
「危ないからとりあえず元に戻すよ。」
ユグドラシルが合図を出すとなぎ倒されていた樹海の木々が動き出し、グネグネと大地を整地して元の形へと戻していく。木々も元あった位置へと移動し、あっという間に元の樹海の姿に戻ってしまった。崩壊した地盤は形だけ整えても脆いままな気がするが根っこを張っているから問題ないのかな?
「見たらわかると思うけど私たちが本気で戦うとえらいことになるぞ。」
「ボクたちが戦う理由も意味もないし、心配しなくていいけどね。」
「拙者ちょっとは強くなった気でいたでござるが、もっと精進しないといけないでござるな―。いつかは隕石くらい壊せるようになるでござるよ。」
「この二人は基準にしない方がいいと思うけどね。」
「目標は高いほどやりがいがあるでござるよ。」
目標が高いのにも限度があると思うが不可能とも言い切れないか。この世界に私の常識は通用しないし。私も何か目標でもあれば旅に張り合いが出るだろうか。現状に不満があるわけではないけれど、せっかくだから観光以外にも何かやりたいことを探そう。




