ユグドラシルの試練―エクストラ―
アカネの朝の修行を終えて朝食にする。ミカがパンを焼いてくれたが、ユグドラシルが用意した分は昨日の夕食と同じメニューだ。ユグドラシル自身は食事が必要ないと言っていたし、料理にはあまり興味がないのだろう。ユグドラシルが修行をつけたという冒険者も毎日同じ食事をしていたなら、黄金の果実を何個も食べて寿命がかなり延びているだろう。最近は試練の挑戦者が居ないと言っていたからけっこう昔の話のようだが、その冒険者はまだ生きているかもしれないな。
「朝の組手で溜まった疲労と、擦り傷や打ち身が完全に回復しているでござるな。ユグドラシル殿の料理はすごい効果でござる。」
「一見野菜と果物ばかりで栄養バランスが悪いように見えるが、マンドレイクに色んな栄養素が入っているようだな。」
「フィオは食べただけで入っている栄養素が分かるのか。すごいね。」
「マンドレイクは人に近い組成をしているみたいだねー。見た目通り味は根菜っぽいけれど、不思議だねー。」
「ボクの作るマンドレイクは品種改良してあるからね。果物だけ食べさせていた冒険者が体壊しちゃったから作ったんだよ。」
植物に関してはなんでもありだなユグドラシル。この世界にとってどういう存在なんだろう。
食事を済ませ片づけてから今後の予定を決めることにする。
「ユグドラシルは冒険者に修行をつけていたって言ってたけど、具体的にはどんなものがあるの?」
「それは拙者も知りたいでござるな―。」
「ボクは格闘術も武器も使わないから戦闘に関しては教えられることはあんまりないよ。冒険者に修行させていたのはさっき教えた魔力操作の訓練と、体作りとかの基礎訓練だね。実戦形式で模擬戦闘の相手ならできるけど、どのくらい手を抜いたらいいのかわからないから難しいんだよね。」
「私は鍛えても変わらないから置いておくけど、アカネとフィオも体作りに関しては必要ないかな?既にかなり鍛えているみたいだし。」
「基礎体力作りが必要な感じではないね二人とも。」
「それなら模擬戦の相手をお願いしたいでござるよ。」
「ユグドラシルの戦いなら吾輩も興味があるな。どんな戦い方をするのだ?」
「それじゃあミカ以外の3人チームと模擬戦しようか。ボクは手加減が苦手だから何か適当な戦闘用植物を召喚するよ。どのくらいの強さがいいのかな?」
私は戦えないんだけど、囮くらいにはなるしまぁいいか。
「その3人なら泉のドラゴンといい勝負くらいの強さかな。」
「あれと同じくらいならスパイクローズドラゴンでいいかな。それじゃあ召喚するよ。」
私たちの返事を待たずにユグドラシルは召喚を始めた。召喚と言っても地面から植物を生やす要領と同じようだが。ユグドラシルが手をかざすと地面からトゲ付きの巨大な蔦が生えてドラゴンの形を形成していく。召喚されたのは名前の通り薔薇の花でできたドラゴンだ。いや、ドラゴン型の花なのかな、あまり変わらないけれど。尻尾を含めた体長は10mほどで頭までの高さは4m程の西洋風ドラゴンといった風貌だ。森の巨大猪よりでかいな。葉っぱが翼のように生えているから空も飛べそうだ。
「話は聞かせてもらった!冒険者達よ我が相手だ!」
「植物なのに話ができるのでござるか?知能も高そうだし強そうでござるな。」
「魔力量は我々3人の総量すら上回っているぞ。人の生活圏ではまずお目にかかれない怪物のようだな。」
「殺しはしないから全力でかかってくるがよいぞ!ちなみに我はユグドラシル様の枝葉のようなもので、別に死ぬわけではないから倒してしまっても構わんぞ。」
「死なないならこちらが手加減する必要はないってことか。」
「まずは拙者から行くでござるよ!」
アカネは手裏剣を投げて牽制しつつ、ドラゴンの背後に高速移動して刀で斬りかかった。だがドラゴンは回避すらせずにアカネの攻撃をすべて受け切ってしまった。ドラゴンには傷一つついていないようだ。
ドラゴンは飛翔し、翼を羽ばたかせて突風を起こしアカネを吹き飛ばした。アカネはひらりと空中で回転して着地したので怪我はないようだ。
「傷一つつかないとは斬撃は効かないのでござるか?」
「ならば魔法で攻めよう。天を焦がす炎の旋風フレイムサイクロン!」
フィオが魔法を放つと、飛翔しているドラゴンの真下に炎の竜巻が出現した。ドラゴンは巨大な炎に包まれ見えなくなってしまった。
「昨日の転生者よりすごい炎だね。」
「やったか!?」
「それ言っちゃダメな奴でござる。」
「効かぬわー!」
ドラゴンは翼を羽ばたかせて炎の竜巻を吹き飛ばした。再び姿を現したドラゴンはまたもや無傷で、炎もまるで効いていない様だ。
「1人ずつでは相手にならんぞ!遠慮せずに3人まとめてかかってくるがよい!」
「植物は炎に弱いはずなのだが魔法耐性が恐ろしく高いようだな。これは個々に攻めていては勝負にならんな。」
「あのドラゴン3人がかりでも到底倒せるとは思えないでござるよ。何か手があるのでござるか?」
「吾輩に秘策ありだ。我々は出会って間もないが既に無二の友人であるな?」
「まあそうだね。友達であるかどうかと付き合った時間の長さは関係ないかな。」
「拙者も仲間だと思っているでござるよ。」
「ハラショー。ならば我々の勝利だ。」
「なんだかわからんがすごい自信だ。」
「本来エルフ同士でないと使えない魔法なのだが、同志である二人ならば発動可能であろう。」
「フィオちゃんあれをやるのかい?まあ無理ではないと思うけどねー。」
居たのかミミル。相変わらず私から見えないところで飛んでいるな。
「1人で無理でも2人なら、2人でダメなら3人で。共産主義こそ我が魔法の神髄だ。群体化魔法リユニオン!」
フィオが魔法を発動すると3人とついでにミミルの体が光に包まれた。魔力感知で確認すると3人の魔力が繋がりあって一つになっているようだ。
「リユニオンは魔力を共有して1人では発動できない大魔法を使用可能とするためのものだ。エルフ同士は誰でも発動できるが、信頼し合った仲間であればエルフ以外であっても発動可能だ。身体強化や回復系魔法等の共有もできるので、普通に一緒に戦うのとは比較にならん力が発揮できるぞ。」
「よくわからんけど、とにかくすごいって事でござるな。」
「まずは身体強化、自動回復に自動復活、魔法耐性アップの魔法をかけるぞ。マッスルチャージャー。ファイネストアーマー。オーバードアクセラレーション。リジェネーター。リザレクション。アークリベリオン。」
フィオが魔法を発動すると3人全員に魔法がかかった。しかし不老不死の肉体恒常化効果で私にかかった強化魔法は打ち消されたようだ。
「これだけ多くの魔法を普通に3人にかけると消費魔力量が増大して魔力切れを起こしかねない。しかしリユニオン発動中であれば群体化した3人にまとめて魔法をかけることで魔力消費は1人分になり、その上で魔力が共有されるので自動回復量は3倍となる。3人の魔力量が同等ではないので厳密には3倍とはならないが、不死身であるマキの魔力は減少しないから魔法は使い放題だ。魔力消費量が最大魔力量を超えるような極大魔法は発動できないがな。」
「なんかずるいくらい強力な魔法だね。」
「信頼し会う仲間という厳しい条件があるからな。打算や野合の集団ならば使うことができない絆パワーを前提としているがゆえの効果だ。他者を利用するつもりの者であれば、発動することはできないので共産主義者専用の魔法と言えるな。」
「すごい力が湧いてくるでござるな。もう何も怖くないでござるよ。」
「作戦会議は終わったか?」
「待っててくれたのかドラゴン。もう大丈夫だよ。」
「ならばここからは我も本気で行くぞ!タングルドアイビー!」
ドラゴンは手足から無数の蔦を伸ばして地面に突き刺した。蔦は私たち3人の周りを取り囲むように地面から突き出し、私たちを捕らえようと猛スピードで迫ってきた。アカネとフィオは即座に飛び退いてこれを回避したが、私だけ捕まってしまった。
「素早いな。これならどうだローズストーム!」
ドラゴンは口からバラの花びら交じりの暴風を吐き出した。花びらは鋭利な刃物のようになっており巻き込まれたものを切り裂くようだ。
「フレイムサイクロン!」
フィオが炎の魔法を放ちドラゴンのブレスを相殺した。ドラゴンは蔦を伸ばして私を捕らえているので自由に身動きが取れない様だ。
「拙者も本気で行くでござるよ。獣人空手奥義の一つ獣王無尽拳でざる!」
アカネは武器をしまい素手になり腰を落として構えた。アカネの両手の拳には魔力感知しなくても視認できるほどの魔力が集まっている。少し体が揺れたかと思うとアカネの姿が消えて、複数回の爆発のような轟音とともにドラゴンは上空へと吹き飛んだ。高速移動でドラゴンに接近し、目にも留まらぬ連撃で殴り飛ばしたようだ。私を捕らえていた蔦は引きちぎられて力なく解けた。
「我が体に傷をつけるとはやるではないか。だがこの程度では我は倒しきれんぞ!」
ドラゴンはアカネの連撃で全身に亀裂が入っていたが徐々に修復しているようだ。
「いや、これで終わりだ。魂すら灰塵に帰す煉獄の爆炎を受けよ。ヘルフレア!」
フィオは魔法陣を展開し白く光り輝く爆炎を召喚した。爆炎は意志を持っているかのようにドラゴンを包み込み収縮していく。
「我を魔法耐性ごと焼き払うとは上級魔法か!?見事だ―!」
上空で炎に飲み込まれたドラゴンは、そのまま燃やし尽くされて消滅してしまった。死んだわけじゃないみたいだけどなんだか複雑な気分になるな。
「なかなかやるね3人とも。あのドラゴンに勝てるならそこら辺の魔物には負けないだろうね。」
「私もついてるしな。」
「1人ずつじゃ勝てそうもなかったのに、すごい効果だねこの魔法。」
「リユニオンこそがエルフの強さの核心であるからな。一般的なエルフ相手であれば強い冒険者は、1対1なら勝てるかもしれない。しかしエルフが2人以上でリユニオンを発動した場合は他国の総戦力をもってしても戦いにすらならないであろう。それゆえにエルフが好き勝手に他国に行くことはできないのだ。エルフが徒党を組んで暴れだすようなことはあり得ないのだが、強大な力はそこにあるだけで恐ろしいものだからな。絶対に噛まないと言われても猛獣が隣に居たら怖いであろう?」
「拙者はどちらかと言えば個としての武術の極みを目指しているのでござるが、協力するのもいいものでござるな。今の拙者1人ではあの力を出すことはできないでござる。」
「魔力量を増やして強化魔法も覚えれば、アカネ一人でもさっきの奥義を放つことができるであろう。力を合わせれば困難にも立ち向かえるが、これは個々人の努力を否定するものではない。リユニオンは人任せにするのではなく、協力し合う意思がなくては発動できないのだ。常に向上心を忘れるなよ。」
「大丈夫でござるよー。拙者はいつかミカ殿にも勝つつもりでござるからなー。」
「私は一緒に戦えてなかったけどあれでいいのかな?」
「適材適所でござるよ。戦えないなら手を出さないのもチームワークでござる。」
「サポーターも重要な役割だぞ。軍隊がいくら強くとも食料を生産する一次産業が無くては戦えないのと同じだ。そもそも戦って勝つなどというのは最終手段であるしな。人は話し合うことができるのだから人同士が戦う必要などないのだ。世界が共産主義に満たされたなら戦争など永久になくなるだろう。」
「その理論から行くと誰とでも話ができる私は誰とも戦う必要が無いことになるね。」
「相手次第であろうな。我々とて食べるために動物や植物を狩るし逆もまた然り。自然界の掟には逆らえない部分はある。」
私は食べる必要がないから自然界の掟からも外れてるんだな。ミカやユグドラシルも同じみたいだけど不老不死の存在は戦う必要がないのかな。
「ドラゴンもかなり強かったでござるが、ユグドラシル殿はどのくらい強いのでござる?」
「強いとか弱いとかじゃなくて不死身だからね。戦う意味がないよ。」
「それじゃあミカ殿とはどっちが強いでござるか?」
「不死者同士の戦いは終わりがないから果てしなく無益なんだけど、そんなに見たいなら見せてあげようか?」
「私は構わないぞ。」
「神話の世界の戦いか・・・。久しく忘れていた少年の心が蘇ってしまうな。」
「終わりが無いならどうやって決着にするの?」
「遊びみたいなものだから適当に切り上げるよ。ミカもそれでいいね?」
「構わんぞ。私は派手な魔法を2、3個見せてやるとするか。」
アカネの要望でミカとユグドラシルの戦いを見せてもらうことになった。すごく強いらしいことは聞いていたが、実際本気で戦うミカは一度も見ていないので楽しみだな。




