初クエストとアルゴノーツ
冒険者ギルドに登録し早速クエストを受注したが、内容を確認する暇もなく飛び出してきてしまった。王都から出て少し西の森に来たが何をすればいいのだろうか?
「フィオ、クエストの内容はどんなのだったの?」
「この森で暴れている巨大猪の撃退だ。普段はもっと森の奥に居るはずなのだがな。王都付近まで出てきている個体がいるらしい。」
「エルフはみんな強いみたいだし王都に突っ込んではこないと思うけど、撃退しないとまずいの?」
「近隣の森には魔法薬に使う薬草の群生地もあるからな。まだ採取できる時期ではないが荒らされると困るのだ。」
「どうして猪は森の奥から出てきたんだろうね?」
「たまにいるのだはぐれ猪。群れから追い出されたのか、理由は分らぬが大抵一頭だけで決まって雄の個体だな。」
「どうやっておびき出すでござる?何やら気配がするし拙者が探してくるでござるか?」
「そうだな、よろしく頼むアカネ。」
「承知したでござるよ。猪の臭いもするしすぐ見つけるでござる。」
―――数分後
「見つけたでござるよー!そっちに追い込むでござる!」
「速いなさすがは忍者。」
「聞いてなかったけど撃退ってどうすればいいの?」
「倒すか森の奥に追い返すかだけど、力技になるだろうからマキは下がってなよ。」
ミカに言われた通り少し離れて見ていると、アカネに手裏剣や火遁で進行方向を操られながら追い立てられ、体高5m程の巨大な猪が現れた。
「よくやったアカネ。思ったよりでかいがあとは任せろ。」
「こやつ拙者の攻撃が効かないみたいだから任せたでござる。」
フィオが猪の正面に立って構えた。猪は構わず突撃するがフィオに牙を掴まれ、突撃の勢いを利用して投げ飛ばされてしまった。体重10トンほどは有ろうかというゾウを思わせる巨体が宙を舞い、地面に激しく打ち付けられる。物理的にありえんだろと思ったが合気ってすごいな。
猪はおとなしくなったが死んではいないようだ。なぜ森の奥から出てきたのか気になるし、話しかけてみるか。
「もしもし猪さん?話ができますか?」
「いててて、なんだお前?小さいけど熊か?」
「私のことはなんでもいいけど、どうして暴れてたんですか?」
「彼女に振られて自暴自棄になってたんだ。暴れたらなんかすっきりしちゃったけど、ここどこだ?」
「思ったよりどうでもいいことが原因だった。」
ミカは聞こえていただろうからフィオとアカネに猪の話を説明する。巨大猪は一応食べられるがもう暴れないようだし、ミッドガルドの食糧事情から言うと殺す必要はないので逃がしてやることにした。
「巨大猪は肉が硬いしこの量の肉となると処理も大変だ。これ以上暴れないならば逃がした方がよかろう。」
「迷惑かけたみたいで悪かったな。帰ったら彼女と話し合ってみるよ。」
「また振られても暴れるなよー。」
巨大猪は森の奥深くへと帰って行った。
「それにしてもフィオ殿の合気はすごいでござるな―。あんなでかい猪でも投げられるのでござるか。」
「相手の力を利用する技であるから、相手がでかくて速いほど威力が出るのだ。限度はあるだろうがな。」
「私は力だけで投げられるぞ。」
ミカはたまに私もできる自慢することがあるな。本当にできるみたいだから怖いがちょっとかわいい。
ギルドに戻りギルド長のレオにクエスト達成報告をする。
「巨大猪の撃退達成しました。猪は討伐せずに森の奥に帰しました。」
「初クエストお疲れ様。報酬は20万クローネだ。パーティメンバーで山分けするかい?パーティの共有口座を作ってまとめておくこともできるけれど。」
「吾輩は特に必要ないからどちらでも構わない。」
「拙者も普段はお金は要らないでござるな。和の国からずっとサバイバルだったでござるから。武器の手入れも自前でできるでござる。」
「マキが決めていいぞ。」
「それじゃあ、今後パーティメンバーが増えるかもしれないし共有口座にしようか。」
「ハラショー。やはり同志マキは共産主義者であるな。」
話の流れ的に共有の方がいいと思っただけなんだけどな。空気を読んで黙っておこう。
「共有口座にするならパーティ名を付けるかい?」
「おーいよいよ冒険者パーティっぽいでござるな―。」
「日露同盟でどうだ?」
「いや、それはちょっと。ミカは日露関係ないし。」
「亜人ジャーズにするでござる。」
「お前たちネーミングセンス悪いなー。」
「ミカも私の名前つけるとき酷かったと思う。」
わちゃわちゃとパーティ名を決めかねていると、ギルドの奥の席に腰かけていたエルフの老人が話しかけてきた。
「お嬢ちゃん方は冒険者なのかい?」
「はいそうですよ。おじいさんは誰ですか?」
「わしは元冒険者じゃよ。」
「彼は初代のギルド長でもあるけど、最古の冒険者と呼ばれているエルフだよ。魔物や怪物が蔓延っていたミッドガルドの地を切り開いたとも言われているね。」
「そんなこともあったかのう。ところでお嬢ちゃん方はパーティ名で悩んでいるようじゃな。ここは一つわしが決めてやるとしよう。」
「私は変な名前じゃなければなんでもいいよ。」
「吾輩も構わんぞ。よろしく頼むぞご老人。」
「なんかすごい人でござるな。かっこいい名前お願いするでござるよ。」
「私が決めてもいいんだけどな。」
ミカは不満そうだったがミカのネーミングセンスはちょっと酷いので我慢してもらおう。
「アルゴノーツでどうじゃ?わしがまだ冒険者をやっておった頃には珍しく異種族多国籍の連合でパーティを組んでおった者たちのパーティ名なんじゃが、お嬢ちゃん方も異種族の混成じゃしちょうどよいのではないか?ギルド創設前の話じゃから名前被りで登録できないこともないじゃろう。」
「意味は分からないがとにかくかっこいいでござるな。」
「吾輩はあまり詳しくないが、ギリシャ神話に関する英雄譚であったか。あれは船を題材にしているのでよいものだ。」
「私も詳しくないけど、なんかやたらと仲間割れするイメージなんだけど大丈夫かな?」
「私たちが仲間割れすることはないだろ。仲間って言うか友達だしな!」
「それもそうだね。」
「気に入ってくれた様じゃな。それではわしは失礼するぞ。」
老人は元居た席へと戻っていった。
「それじゃあアルゴノーツで登録するよ。共有口座に報酬は振り込んでおくから、あとで確かめておいてくれ。フィオも知らないだろうから教えておくけど、ギルドカードを提示すれば銀行から引き落としで使用できるからお金を持ち歩く必要はないよ。本人しか使えないように作られているけど失くさないようにね。」
「ありがとうございます。」
「そろそろ昼時だな。」
「お昼ごはんはどうするでござる?拙者はそこらで狩ってきてもいいでござるが。」
「初クエストクリアとパーティ結成祝いにレストランで打ち上げでもするか。お金も入ったことだしな。」
「いいね。行こう行こう。」
「おー。」
冒険者パーティアルゴノーツが結成された。あっちの世界の神話や伝承の名称が使われているのは転生者や記憶保持者の影響なのだろう。どちらが先かという問いに答えは出ないがそれほど意味のある話でもないから気にしなくていいか。ともあれ金策の問題は解決したので、お昼を食べたら王都の観光に戻ろう。




