フィオの記憶 -転生したらエルフだった‐
「吾輩と共産主義、そして日本との関係は理解していただけたかな同志諸君。」
「なるほど。(わかってない)」
「マキ殿ー共産主義って働かなくてもお金貰えるだけじゃないんでござるか?(小声)」
「それは正しい認識ではない。」
「耳いいでござるなフィオ殿。」
「続きを話すとしよう。」
吾輩が理想としていた共産主義を端的に表すならば『すべての人が平等で、自らの信念を持ち、誰にも強制されずに、個人ではなく全体への貢献を果たすこと』だ。これは社会システムの話ではなく人がどう生きるかという哲学なのだ。
日露戦争後、わが祖国ロシア帝国では革命の機運が高まっていた。戦争での敗北と経済の悪化に対する不満が爆発した形であるな。吾輩は日本という共産主義の成功例を知っていたので、当時の権力者つまりは王政と貴族階級を打ち倒せば共産主義は成ると嘯く革命家達には否定的だった。真の共産主義に至る過程として必要ならばと吾輩も運動には参加していたのだが。
革命家たちが声高に叫んでいたのは権力者を打ち倒し自由を勝ち取るという、ある意味複雑な共産主義をわかりやすくシンボル化したものだった。これは共産主義の思想とはかけ離れた考えであり、気に食わない誰かを攻撃することで現状への不満を発散する試みであった。もちろん一部の同志達は崇高な思想を実現するために奔走していたのだが、その数は吾輩が知る限り多くはなかった。
結果革命は成ったが、共産主義は成らなかったというのが吾輩の認識だ。この革命は世界中に拡散し多くの革命を産んだ。しかし権力者を打ち倒した革命家たちは権力闘争に明け暮れ、新たな権力者となった。また、信念のない多数のプロレタリアートはノルマのみをこなし努力を放棄することとなった。社会は腐敗し、共産主義は理想論であり夢物語であると囁かれることとなる。これが共産主義の失敗と言われるものであろう。
だが吾輩は日本を知っていた。共産主義は成しえるものであると知っていたのだ。これまでの失敗は共産主義の崇高さに人の精神の成長が追い付いていないだけなのだと吾輩は考えた。そして日本へ渡ることを決意した。
しかしその決意は打ち砕かれてしまう。日本へ渡るために乗った船が嵐で沈んだのだ。吾輩は日本への憧憬と共産主義への情熱を秘めたまま人生の幕を下ろす・・・はずだった。
しかしそうはならなかった。吾輩はエルフとして転生し、前世の記憶を保持していたのだ。吾輩は困惑したが、日本について調べる中で輪廻転生という概念を知っていたので状況をとりあえず理解した。そして優しい両親と兄に愛されながら二度目の人生を歩み始めることとなった。




