カラカラ温泉受付
街の郊外にある温泉施設『カラカラ温泉』にやって来た一行は、せっかくだからお湯につかっていく事にした。外から見た施設は割と大きな敷地を持っていたが、建物内部は簡易的な受付が有るのみで、他には何もない。さらに従業員らしき人はおらず、どうやら無人で運営されているようだ。
「誰も居ないね。」
「受付に入場料を支払ったら、あとは全部セルフサービスだからね。」
私の疑問にエルが答えた。
「受付は無人でもいいかもしれないけど、清掃とか保守のための人員が必要じゃないの?」
「えーっとね・・・中に入ってみればわかるから、見てのお楽しみって事で。」
「あっはい。」
百聞は一見に如かずって奴か。
受付の前まで進み案内板に目をやると、入場料は1人500クローネと書かれている。こども料金とかは無いのか。考えてみれば大人とこどもを分けるのは難しそうだな。種族によって大人になる年齢も異なるみたいだし。
受付カウンターの上には現金用の受入れ箱が有る他に、カード払い対応の端末も設置されている。
「ここにも端末が有るんだね。思い返してみるとどこのお店もカード払いに対応していたし、お店はみんなノルンと繋がってるのかな?」
「そうだね。この街では現金でのやり取りはほとんど行われてないから、お店にはみんなノルンと繋がったレジスターが設置されているよ。」
「あまり気にしてなかったけど、動力はどうなってるの?無補給で動くの?」
「レジに限らず街の魔道具全般がそうなんだけど、魔力で動いているよ。街の中央にある職人ギルドには大規模な魔力ジェネレーターが有るから、そこから街全体に魔力が供給されてるんだよ。」
「そういう仕組みだったのか。それじゃあ魔道具は街から離れると使えなくなるの?」
「マイン遺跡で使ったランタンみたいな小型の物は個人の魔力でも動かせるよ。ノルンとの交信が必要な機器は街から離れると使えないけどね。」
「へー、街に通信用の設備があるのかな?」
「まーそんな感じだね。」
話を聞く限り電力が魔力に変わっている事を除けば、科学の世界とあまり違いはない様に思えるな。
「何はともあれ中に入ろう。」
「そうだね。支払いは1人ずつやったほうがいいのかな?」
「5人分まとめて払っておくよ。どうせ引き落とされる口座は共有だし。」
「よろしくー。」
エルはカード端末を使って全員分の入場料を支払い、そのまま脱衣場の扉へと向かおうとしたが、アカネが足を止めて疑問を発する。
「おや?入口が1つしかないでござるな。」
「それはまぁ混浴だからね。」
「そうなの?冒険者ギルドの温泉は男女分かれていたけど、ここは違うんだね。」
「ここはというか、街の温泉施設は全部混浴だよ。」
「この街では混浴が普通なのか。」
「和の国も混浴が普通なので拙者は別に気にしないでござるけど、マキ殿は大丈夫でござるか?」
「え?何が?」
「この世界に来て日が浅いマキ殿は、日本の文化の方が馴染み深いでござろう?混浴は抵抗が有るのではないかと思った次第でござるよ。」
「あー、なるほど。私も気にしないというか、パンダだから普段から全裸だし問題ないよ。」
「それもそうでござるな。まぁ気にしないならいいのでござるよ。」
普段から全裸だから問題ないって、なんだか誤解を招きそうだな。
「ちなみにエルフも混浴だぞ。」
「私は性別とか気にしないぞ。」
フィオとミカも混浴で問題ないようだ。それぞれ出身の異なる4人が全員混浴の文化を持っているわけか。冒険者ギルドの施設では男女で分かれていた事を考えれば、その辺の文化は国や種族によって違うのだろう。
気を取り直して脱衣所の扉を開いた。




