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ヴァンパイアとパンダ  作者: 怪獣大熊猫
マイン遺跡調査 ~超古代文明の遺産~
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戦闘の分析と課題

 ヘラクレスがぐっすり眠っていることを確認した5人は、そろそろ昼食の準備ができただろうとアルゴノーツのテントへとやって来た。

 テント内にはご飯を炊いたいい匂いと、ハーブやナッツの香りも広がっていた。

 余った食材を全部使ってしまうと言っていたので、結構な量の料理を作っているな。

 ちょっとした宴会のようになりそうだ。


「ただいまー。いい匂いだね。」

「おかえり。もうすぐ完成だからテーブルの用意をしておいてくれ。」


 想定通り料理は佳境のようだったので、言われた通りテーブルを掃除して食器類を用意する。

 8人も居るからちゃぶ台のようなテーブルでは少し手狭だな。


 ほどなくして料理は完成し、調理班の3人が魔法を使ってフワフワと運んできた。そしてそのままテーブルの大皿に盛りつけていく。毎度の事ではあるが、魔法は便利だな。

「これでよし。お昼もだいぶ過ぎてしまったしすぐ食事にしよう。」

 私とミカは不老不死なので本来何も食べなくても問題ない。空腹感も感じないため、何かに集中していると食事を忘れてしまうな。

 他のみんなはそういうわけにいかないし、食事のタイミングは逃さないように注意しよう。


 昼食のメニューは栗ご飯が主食で、きのこと山菜のスープが付いている。おかずには玉子焼きと何かの肉のソテー、川魚の塩焼き、鳥の丸焼きなど様々だ。中でも目を引くのが内臓らしきものにハーブとナッツを混ぜて炒めた物だが、これはなんだろう?

(一同)「いただきます。」

「おいしそうだね。でもお米なんてあったっけ?」

「私達が用意していた携帯食料の干し飯(ほしいい)を戻して使ったよ。」

「それとアカネの五色米も色抜きして使ったぞ。」

「あーあれか。色抜きは必要なの?」

「五色米の染色剤は自然由来でござるけど、あまり体にいいものではないでござるからな。せっかく目印を置いても、動物や虫に食べられたら意味がないから、あえてそうしているのでござるよ。」

「なるほど。」

 野生動物が避けるようなものって事は割と有毒そうだな。ミカ達は魔法で色抜きしたのだろうけど、炊けたご飯にはまったく染色されていた名残は見られない。


「そういえば五色米を設置していた時の、あの暗号みたいな模様はなんだったの?」

「あれは味方の忍者にだけ伝わる暗号でござるな。このパーティでは拙者以外読めないから、あまり意味はなかったのでござるが、忘れない様に復習の意味も込めて使っていたでござる。」

「そっかー。難しそうだし暗号を覚えるのは大変かな?」

「私に教えてくれれば、例えばアカネちゃんとはぐれた場合でも読めるねー。」

「ミミル殿はいつもマキ殿にくっついているし、それがいいでござるな。一応里の機密情報だから、公開は控えてもらいたいでござるが。」

「そういう事なら大丈夫だよー。図書館の記録データは基本的にすべて公開されているけど、見るだけで危険な呪いの本みたいな、人によっては危ないものは隔離しているんだよー。利用者がエルフだけなら呪い耐性も高いから問題ないけど、今後は他種族の利用も増える可能性が有るから改修したんだー。アカネちゃんの暗号みたいに、機密に関わるものは関係者以外閲覧不可能にしておくよー。」

「よろしくでござる。」

「他種族の利用が増えるって何かあるの?」

「まだ計画段階だけど、ミッドガルドの閉鎖的な状況を打開して、開かれた国にする話が出ているんだよー。」

「そうなのか?初耳だな。」

 王都のエルフであるフィオも知らない情報なのか。私達が旅に出てから決まったのかな?


「へーいいんじゃない?ミッドガルドのエルフ達はほとんど領内から出ないから、内情を知らない他種族には恐れられているみたいだし。」

 話を聞いていたシアが会話に入って来た。

「ミッドガルド以外のエルフは自由に出歩いているの?」

「うーん、森のエルフ達はほとんど森から出ないわね。私達が属している第三勢力のエルフは自由よ。」

「ミッドガルド内では不文律的にエルフの国外活動を制限していたが、シア達の勢力は国に囚われず活動しているというわけか。そしてなにも問題は起きていないのだな?」

「そうね。エルフであることが原因の事件とかは聞いたことがないわね。」

「なるほど。ミッドガルドのエルフは慎重になりすぎて可能性を狭めていたのかもしれんな。外に出てみなければ分からない事もあるものだ。」

 エルフはとても強い種族なので、あまり他国に干渉しないようにしていると聞いていた。でもこの世界では戦争が何万年も起きていないらしいし、国家間の均衡とかはあまり気にする必要がない気はする。

「予定は未定だけどねー。何か決まったら改めて教えるよー。」

「よろしく。」


 食事がひと段落した頃合いにアカネが話を切り出した。

「巨人ゴーレム戦についてなのでござるが、あのゴーレムはどのくらいの強さだったでござるか?」

「どういう意味?」

「なんというか見た目の割にはあまり強くないように感じたのでござるよ。」

「動きはそれほど速くないし、攻撃も肉弾戦一辺倒だったから脅威は感じなかったわね。」

 アカネの言にカスティルが付け加えた。

「暴走して魔法が使えない状態だったようだし、ゴ郎の想定通りに稼働できていればもっと強かったのかもしれんな。」

「言われてみれば、私が油断して一発殴られた以外は誰も攻撃を受けなかったね。」

「ソールの力を発動したエル殿だとあまり参考にできないでござるが、攻撃を受けても無傷でござったな。」

「あの時は空中に居たから回避できなかったけど、一応雷撃で防御したからね。」

 私の目にはまともに裏拳を受けたように見えていたけど、ちゃんとガードしていたのか。超集中状態で高速戦闘を目で追う事はできるようになったけれど、何をしているのか正確には判断できていないな。私も戦闘の知識を持っておいた方がいいだろうか?


「あのゴーレムの強さはそこらの巨人と同程度だな。不死身の再生力を加味すると一瞬で倒しきれる力がないと勝てないだろうけどな。」

 ミカがゴーレムについての私感を述べた。

「ゴーレムを弱く感じたのは、アカネが強くなったせいでもあるだろう。初めて会った時からは見違えるほど成長したからな。」

「フィオ殿との修行のおかげで魔力量と新忍法はかなり充実したでござるな。」

「吾輩もだが身体的にもかなり成長しているぞ。以前吾輩と模擬戦をした時のアカネならばゴーレムに傷一つ付けられなかったであろう。あまりにも急激に成長している気はするが、ユグドラシルからもらった果実の影響だろうか?」

「いまだにフィオ殿には勝てていないでござるし、もっと修行するでござるよ。」

「吾輩も一緒に成長しているからそうそう簡単に負けはしないぞ。」

「望むところでござるよー。」

 アカネは知っていたけど、フィオも結構修行好きなんだな。アカネに感化されているのかな?


「私達ももっと鍛えないといけないわね!ライバルとして!」

「鍛えた方がいいというのは同感ね。エル1人に2人がかりで負けたのはちょっとショックだったし。」

「お前たちは魔法を制限していたし本気ではなかったではないか。」

「それはそうだけど、エルだって本気ではなかったんじゃない?」

「怪我させないようにすこし手加減はしたよ。」

「魔法で治せるから別に加減は要らなかったけれど、あれだけ実力差があってはしょうがないわね。というわけで私達も修行するわよ!」

「2人ともやる気だね。もちろん私も付き合うけど。」

 アルゴナウタイの3人はエルフであるため魔法を使った方が強いはずだ。武器を使った近接戦闘にこだわっているのは、相手の土俵に合わせて戦っているからだろう。カスティルはエルに魔法も道具もどちらも使えた方がいいと言っていたし、魔法だけ強ければそれでよしと慢心してはいけないという事かな?


「ねぇフィオ、私も魔法を覚えたいんだけど教えてくれる?」

「もちろん構わんぞ。吾輩も武器を使ってみようかと思っていたところだし、お互い教え合おうではないか。」

「うん、わかった。」

「それならエル殿も朝の修行に参加するといいでござるよー。」

「そうしようかな?」

「修行仲間が増えると張り合いが出るでござるなー。いつも同じ相手だと、どうしても癖を読み合ってしまうでござるし。」

「たしかに変化が欲しいところではあったな。」

 エルが魔法を覚えたいと思っているのは朝聞いていたが、フィオも武器を使う事に興味を持ったのか。アルゴナウタイの戦いを見て何か思うところが有ったのだろう。みんな得意な事はもちろん鍛えているけれど、苦手な事でも挑戦していくんだな。

 私もできない事ばかりに気を取られず、難しくてもできる事を探して行こう。


「戦闘とは直接関係ないけど、アカネの新忍法は名前を変えた方がいいと思うよ。」

「やっぱり気になったでござるか?拙者も獣人化は安直すぎるとは思っていたでござる。」

「トランスフォーム!がいいんじゃない?」

「ロボットじゃないでござるよエル殿ー。」

「シンプルに変身でいいんじゃないか?」

「身体強化しているだけで、変身しているわけでもないでござるからなー。」

「他の忍法に合わせて、なんかかっこいい熟語を使いたいよね。」

「獣人と言えばやはり月でござるかね?狼男は満月の夜に変身するというでござるし。忍法・満月・・・ちょっとしっくりこないでござるな。」

「満月の言いかえなら望月とかかな?」

盈月えいげつとか天満月あまみつつきなんて言葉もあるな。」

「うーん、もうひとつしっくりこないでござるなー。」

 みんなでいろんな案を出すが、アカネはなかなか決められないようだ。獣人化はアカネにとって奥の手的な忍法だろうし、名付けにはこだわりたいのだろう。その割には最初の名前が適当だったけれど。


 少し考えてからエルが思いついたように口を開いた。

「それじゃあ月輪がちりんなんてどう?」

「忍法・月輪でござるか。なかなかいいでござるな。」

「決まりかな?」

「そうでござるな。その名前をいただくでござる。」

 エルが提案した月輪というのは何かのロボットの名前だった気がするが、アカネは気に入っているようだしまぁ別にいいか。丸い月の事を表す言葉だし意味は通るだろう。


「新技と言えばフィオのクリアマインドだっけ?あれってなんなの?」

明鏡止水クリアマインドは複合強化魔法だ。ユグドラシルのところでドラゴンと戦った時は、複数の魔法を重ね掛けしていただろう?あれだと時間もかかるし魔力効率も悪いので、強化効果をまとめた新魔法を作っておいたのだ。」

「へー具体的にはどんな効果なの?」

「身体強化一式と魔法や呪いへの耐性強化、それと自動回復に復活効果など。まぁ早い話が吾輩が使える強化魔法の全部乗せだ。」

「よくわからないけどすごい複雑そうだね。」

「いや、そうでもない。各種魔法の重ね掛けをするのと制御の難易度は変わらんし、単純に一本化した感じだな。」

「そうなんだ?」

「これも旅に出た成果だな。王都に居た時は効率化など考えていなかったからな。」

 フィオは簡単にやっていたけど、魔法の重ね掛けって結構難しいのかな?


「ちなみに私達の強化魔法も大体同じ感じよ。複合している魔法の種類とかは多少違うだろうけどね。」

「シアとフィオではオーラみたいな奴の色が違ったけど、魔法の種類が違うせいなのかな?」

「オーラの色には特に意味はないが、しいて言うなら気分の問題だな。心を落ち着かせれば青に近くなるようだぞ。」

「私達の場合なぜか金色になるけど、別に意識してやっているわけじゃないわね。」

「別に意味はないのか。」

「私は何色でも出せるぞ。私の体に強化魔法は効果ないけどな。」

 そう言うとミカはオーラを出して虹色にグラデーションさせて見せた。

 特に意味はないらしいけどきれいだな。


「アカネの月輪は毛が伸びたり、爪や牙が大きくなったり変化も起きてたけど、フィオ達の場合は見た目は変わらないね。」

「フィオ殿達の強化魔法は魔法による身体能力の補助でござるが、拙者の忍法は肉体を活性化して肉体自体を強化している感じでござるからな。」

「そういえば知らないうちに伸びた毛とかは元に戻ったね。」

「忍法を解けば戻るでござるよ。」

「なんだか不思議だね。」

 いまいち両者の違いが分からないけど、見た目に変化が有るか無いかくらいの差だと思っておけばいいのかな?


 話をしながら食事していたが、いつの間にか料理は完食していた。

(一同)「ごちそうさまでした。」


 例のごとく魔法が得意なメンバーが食事の後片付けを一瞬で終わらせてしまった。

 当初計画していた遺跡での目的はすべて果たしたので、あとはヘラクレスと話をして街へ戻るだけだな。帰り支度を始めよう。

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