ワイ子さんリローデッド(Dead的な意味で)
アルゴノーツは遺跡のアンデッドを操っていたワイトシスター・ワイ子と和睦して、遺跡のアンデッド大発生問題を解決したのだった。
ついでにワイ子の知り合いのリーパー・パー子を紹介してもらい、グングニルの素材である幽霊の衣もゲットした。
魔法鉱石の鉱脈を目指して遺跡を進みつつ、これからどうするか相談する事にした。
「今日は予定通り鉱脈まで行くとして、明日からはどうしようか?」
「魔法鉱石の採掘が済んだら当初の目的は達成だよね。早ければ今日にでも終わると思うよ。」
「そうだよね。でもせっかくテントを用意したし、何日かかけて遺跡の奥の調査もしてみたいと思うんだけど、どうかな?」
「せやなー。ええんちゃうか?」
「未探索エリアの調査はワクワクするでござるな。忍者の血が騒ぐでござる。」
「吾輩もよいと思うぞ。何かこの城についての情報が見つかるかもしれんしな。どうして廃墟となったのか、誰が住んでいたのか等が分かれば、何かの参考になるかもしれん。」
「まあ見た限り大したもんは無いやろうけどな―。」
「目ぼしいものが無いから調査されていないってのは有るだろうね。この遺跡は本来安全だし、潜る事ができないわけじゃないはずだから。」
「ん?ちょっと待って。なんでワイ子が居るの?帰ったんじゃなかったの?」
「残念だったな大佐、トリックやでー。」
ワイ子はウィンクしながらそう言った。大佐?
「まだ何か用があるのか?」
「いや別に用って程の事ではないんやけど、荷物忘れてたから取りに来ただけやで。」
「そういえば手ぶらだったね。」
「ワイの荷物は遺跡の奥やから、一緒に行こうや。」
「いいよー。」
アルゴノーツはワイ子を仲間に加えて、遺跡の奥を目指し再び進み始めるのだった。
すでにワイ子が操っていたスケルトン達は活動を停止しているので、何事もなく遺跡の中を進んでいく。何度か分岐点が有ったが逐次アカネが五色米でマーキングしているし、エルは鉱脈までのルートをすべて把握しているとのことだから迷う心配はないだろう。
「ワイ子は家に帰るって言ってたけど、家ってどこにあるの?」
「ワイの家はヘルヘイムにあるでー。パー子も一緒に住んどるんや。」
「ヘルヘイムって?」
「ヘルヘイムは地下にある王国やでー。主にアンデッドが住んどる国やな―。」
「へー。吸血鬼はアンデッドの王って言ってたけど、吸血鬼も住んでるの?」
「今ははおらんでー。一時期住んどったんやけど、吸血鬼は破壊衝動と殺人衝動が強すぎてまともに生活できへんからなー。ヘルヘイムの主人でアナトステオスでもあるヘルが怒って追い出したんや。」
アナトステオスとは、ミカやユグドラシルのように不滅の存在の古い呼び名だ。ミカにアナトスと呼んでくれと言われたから私はそう呼ぶけれど。ヘルヘイムはヘルというアナトスが管理している国なのか。あまり詳しくないけど北欧神話に関係のある名前だったはずだな。
「ミカはヘルって知ってる?」
「まあ知り合いだな。別に親しくはないけどな。」
ユグドラシルとリューベツァールに会いに行く時もそんなようなことを言ってたけど、二人とも結構仲良かったな。ミカの親しいの基準は少し厳しいのかもしれない。
「近くに有るならヘルヘイムにもそのうち行ってみよう。」
「ヘルヘイムは基本的に生者は寄り付かへんのやけど、まあ入っちゃいけないってルールは無いしええんちゃうかな?遊びに来るならワイが案内するわー。」
「うん、よろしく。」
「ところでワイ子はなんでアンデッドになったの?」
「センシティブな事を気にせず聞きよるな自分。」
「聞いたらまずいことだった?」
「いや別にええけどな。ずいぶん昔の事やし。」
ワイ子は少し間をおいてから話し始めた。
「あれは今から36万・・・いや1万4千年前くらいやったか。まあええわ。」
「振れ幅広いね。」
「ようは大昔っちゅー事や。当時ワイはこの城の城主の娘やったんや。」
「あれ?その話は嘘じゃなかったの?」
「さっきの話は半分嘘やけど半分は本当やで。当時は城主の娘やったけど、今はちゃうからな。」
「なんだかよく分からないけど複雑だね。」
「それはこの話の続きを聞けばわかるやろうから、とりあえず黙って聞いとき。」
「うん。」
「当時はまだ生きとったワイト族がここら辺の土地に住んどったんや。せやけど他所から来た奴らに滅ぼされてしもうたんや。おしまい。」
「ちょっと雑過ぎない?」
「細かく話してもしゃーないやろ結果はもう出とるんやから。いろいろ有ったんやけど最終的にはワイト族は別の種族に滅ぼされて、死霊魔術でアンデッドになったって事やな。」
「ワイ子は生きてる頃からワイト族だったの?ワイトってアンデッドの名前だと思ってたけど。」
「ワイトっていうのは古い言葉で人類みたいな意味やな。もう滅ぼされてワイト族はみんなアンデッドになってもーたから、今となってはアンデッドの種族名で間違いないんやけどな。」
「1つの種族がまとめてアンデッドになっちゃったんだ?」
「全員がなったわけやないけどな。自らをアンデッド化するのは死霊魔術の秘奥ともいえる技やから。」
1つの種族を丸ごと滅ぼすなんて怖い種族が昔は居たんだな。
「ワイ子はワイト族を滅ぼした相手を恨んでたりとかは無いの?」
「そら最初はみんな恨んどったでー。なんたって自分の仇やからな。」
「最初はって事は今は違うんだね。」
「ワイト族を滅ぼした種族もその後すぐに滅んでしもうたからなー。生き残りが海底都市に居るって話やけど、当時の連中とは関係ないしいまさら復讐しようとは思わへんなー。」
「ワイト族を滅ぼしたのは、まだ地上に居た頃のアトランティス人だったのか。」
「なんやマキはあいつらの事を知っとるんか?」
「別に知り合いではないけどね。ミカは会った事あるみたいだよ。」
「ほんまかミカ?」
「アトランティスに行ったのは結構前だけどな。アトランティス人は地上に居た頃と違ってすっかり大人しくなったな。」
「ほーんそうなんか?ワイト族もかつては別の種族を滅ぼしてこの土地を手に入れたのかもしれんし、滅ぼしたり滅ぼされたりってのは巡り合わせなんやろなぁ。」
「吾輩が知る限り戦争など起こらなくなって久しいようだが、かつてはこの世界も戦争にあふれていたのだな。」
「せやなー。」
私は先日ミカの夢に入ってかつての人類、つまりはアトランティス人の終末戦争の記憶を見てしまったのだけれど、ミカもアトランティス人らしき軍勢と戦っていたな。
ミカが彼らを滅ぼしたわけではないと思うけど、あの戦争では何があったんだろう?ミカは自分の身の上話をあまりする気がないようだし、聞いても教えてくれないかな?
ワイ子の話を聞いているうちに魔法鉱石の鉱脈へと辿り着いたようだ。
「ここが鉱脈だよ。」
エルはさっそく採掘の準備に取り掛かっている。
「宝石みたいできれいだね。」
「魔法鉱石はだいたい透き通っていて魔法効果の種類や強さ、それと鉱石自体の硬度の影響で色が決まるんだよ。きれいなものほど質がいい鉱石だと思ってくれていいけど、結局はドワーフじゃないと上手に採掘できないし覚えていても仕方ないかな。」
「鉱石の採掘は時間がかかるの?」
「順調に進んで5~6時間ってところかな?最短でも今日一日はかかるよ。」
「私達にも手伝えることはある?」
「持ち帰るときに運んでもらうくらいだね。採掘中は特に手伝って貰えることは無いよ。」
「そっかー。」
「それならば採掘はエルに任せて我々は遺跡の奥の調査をするか。」
「拙者はエル殿の周囲の見張りと護衛をしているでござるよ。アンデッドが出る心配は無くなったでござるけど、完全に安全とは限らないでござるしな。」
「ならお昼までは二手に分かれようか。エルもそれでいい?」
「うんいいよー。お昼ご飯の時間になったらここに戻ってきてよ。私のリュックにお弁当と水筒が有るからね。」
「おっけー。ここに残るのはアカネとエルで残りは調査班かな?」
「せやなー。」
「ワイ子も付き合ってくれるんだね。」
「ワイの古巣やしな。当時のままかは分からへんけど、なんか聞きたいことが有ったら聞いてや。」
「うん、よろしくね。」
こうしてアルゴノーツは二手に分かれて行動することになった。
遺跡の住人がかつて滅ぼされたワイト族であることは既に分かったのだが、未調査領域の地図を完成させたり、私達にできる事は他にもあるだろう。




