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ヴァンパイアとパンダ  作者: 怪獣大熊猫
ドワーフの国ニザヴェリル
101/194

蕪の精霊

 山の精霊リューベツァールが昼食をご馳走してくれることになったので、アルゴノーツは彼と共に彼の家に向かって山を下りていた。


「リューベツァール殿は変身以外にも魔法を使えるのでござろう?どんなものが有るのでござるか?」

「森で方向感覚を狂わせる魔法も使えるし。山の天候を変化させる事もできるぞい。この山の中限定でのわしの権能のようなものじゃから、山から出たら強力な魔法は使えないんじゃがな。」

「そうなのでござるか?不思議でござるなー。」

「リューベツァールは言ってみれば、この山そのものだからな。」

「大天狗殿は山から出られないという事もなかったでござるし、似ているけどやっぱり同じではないのでござるな。」

「まぁわしも山から出られない、という事はないんじゃがな。そろそろ家が見えてきたぞ。」

「えーっと?何もないみたいだけど?」

「ふぉっふぉっふぉ。これも幻惑じゃよ。」

 リューベツァールが杖をかざすと、何もない広場に空間の歪みのようなものが発生して、小さな木の家が出現した。家の周りには畑が作られており、根菜がたくさん栽培されているようだ。

「狭い家じゃが遠慮せずに上がってくれ。」

「お邪魔しまーす。」

 リューベツァールは鍵のかかっていない玄関を開き、家の中へ入っていったので私たちもそれに続いた。幻惑魔法で隠しているのも関係あるかもしれないが、こんな山奥の一軒家なら鍵は必要ないのだろう。


 家にあがると外観の割に内部は広く、キッチンと繋がっている客間には大きなテーブルと椅子、そしてベッドも有った。クエスト情報には幻惑魔法勝負に負けると強制的に弟子にされる、というようなことが書かれていたし、冒険者を弟子入りさせた時用の設備なのだろう。

「早速じゃがわしは昼食の準備をするから、しばらくはゆっくりしておってくれ。」

「はい。待ってます。」

 リューベツァールは再び外に出て、畑の方へと野菜の収穫へ向かったようだ。言われた通りしばらくゆっくりしていよう。

「こういう時昔話のいたずら妖精なら、泥んこや葉っぱを料理に見せかけて食べさせてくるものでござるが、リューベツァール殿は大丈夫でござるか?」

「リューベツァールはニザヴェリルでは有名な精霊だけど、人が嫌がるようないたずらは仕掛けないって話だよ。山に遊びに来た人は迷わせたりするけど、本気で迷って困っている人は家に送ってくれるみたいだし。」

「いい精霊なのでござるな。」

「そうだね。悪い噂は聞いたことがないよ。」


「そういえばミカとリューベツァールはどういう関係なの?知り合いって言ってたけど。」

「あいつと会ったのは割と最近で、前にニザヴェリルに旅行で来た時だ。霊山が有るって言うから登ってみたら、いろいろちょっかい掛けられたのが馴れ初めだな。」

「それで道中に罠が有るって知ってたんだね。」

「まあ私には幻惑魔法なんて効かないんだけどな。」

「そうなんだ?そういえば精霊って何なの?ミカやユグドラシルとは違うの?」

「精霊って言うのは色んな物に宿っていたり、自然現象なんかが意志を持って出現したものだな。それと精霊は不滅の存在と呼ばれるアナトスではないぞ。精霊に死は存在しないし歳も取らないけど、依り代にしているものが失われれば力をなくすんだ。だが私やユグドラシルみたいに、かつてアナトスと呼ばれていた存在は、精霊と違って何かに宿って力を得ているわけじゃないからな。」

「なんだか複雑なんだね。」

「分類なんて人が勝手に決めたものだから、私にはあまり関係ないし気にしなくていいけどな。」

「ドワーフに伝わっている物語だと、ユグドラシルも精霊として登場していたりするね。結構曖昧なのかな?」

「和の国では妖怪と神は紙一重みたいなところがあるでござるな。地方によって呼び名が変わる者もいるようでござるよ。」

「エルフも大昔は妖精や精霊と呼ばれていた時期があるようだし、呼び名には大した意味がないのかもしれないな。」


 精霊について話をして待っていると、リューベツァールが畑から戻って来た。

「新鮮な蕪を取って来たぞい。」

 彼が畑から取って来たのは普通の白い蕪、赤かぶ、紫の蕪、黄色い蕪、そして大根のようにちょっと長い蕪だ。全部蕪じゃないかたまげたなぁ。

「リューベツァールよ、何か手伝おうか?」

「いや大丈夫じゃ。すぐに調理してしまうからもう少し待っていてくれるかのう?棚にお茶が有るから好きに飲んでくれ。」

「はい、わかりました。」

 リューベツァールは取れたての蕪を抱えてキッチンへと向かった。


 フィオが棚からティーセットを取り出し、全員分のお茶を淹れてくれた。

「いい香りだね。ハーブティーみたいだけど、私は詳しくないから何なのか分からないな。」

「アニスやリコリスと言った薬草がブレンドされて入っているようだな。オリジナルのようだが美味いな。」

「よくわかったのう。そのハーブティーはわしの独自レシピじゃよ。」

「ハーブは全部山で採れたんですか?」

「そうじゃよ。山で使えるハーブを見つけて、家の近くに植え替えてあるんじゃ。」

「ドワーフもよくハーブを使うよ。街の花壇とかで何気なく育てられているのも大体薬草なんだ。リューベツァールに薬草の使い方を教えてもらった、なんておとぎ話もあるよ。」

「そんなこともあったかもしれんのう。」

「ドワーフと仲良しなんですね。」

「ご近所さんじゃからな。よし調理が終わったぞい。少しテーブルを片づけてくれるかのう?」


 リューベツァールに促されて全員でティーセットを片づけて、料理を並べる。お昼のメニューは蕪の炊き込みご飯に蕪スープ、蕪と蕪の葉っぱのサラダ、3色蕪の煮つけ、蕪炒め、そして長い蕪はすりおろして蕪ジュースになったようだ。蕪と蕪で被ってしまったな。

(一同)「いただきます。」

「見事に全部蕪料理でござるね。」

「蕪はいいぞい。生でも加熱しても美味しく食べられるからのう。育てるのも簡単じゃしな。」

「こだわっているだけあって美味しいでござるな。蕪は漬物か味噌汁くらいでしか食べたことがなかったし、いろいろな食べ方は新鮮でござるよ。」

「ふぉっふぉっふぉ。蕪のジュースも甘くて美味いぞい。ここは標高が高くて寒いから、蕪の甘さが増しておるんじゃ。」

「蕪のためにこんな高い場所に家を建てたのかお前?」

「まあそうじゃな。山頂から千里眼で街を眺めるのに都合がいいのもあるが。」

「蕪が本命でそっちがついでなんだ。」

「蕪と言ってもいろいろ種類があるんだね。ニザヴェリルでは白いのくらいしか流通していないよ。」

「図鑑にも乗っていないような品種もあるな。こんな山奥でどうやって手に入れているのだ?」

「珍しい品種は冒険者ギルドに依頼を出して納品してもらったものじゃな。わしは金は持っていないから、代わりに希少なハーブなんかを街に卸しているんじゃよ。」

「精霊との物々交換もしているのか。冒険者ギルドはなかなか手広いんだな。」

「歴史がある組織だからな。吾輩もそんなに詳しいわけではないが、ギルドと協力関係にある者は同盟国家間に留まらず多岐にわたっているぞ。」


「そういえばこの山には魔物は居ないんですか?気配はないみたいですけど。」

「わしみたいに山の主的な精霊がいる場合は、魔物は寄り付かんようじゃのう。理由はよくわからんのじゃが、魔物が棲みつくと人が山に入り難くなるから、わしとしては都合がよいのう。」

「魔物は精霊が苦手なんですかね?」

「魔物には分からない部分がたくさんあるからな。話の通じる魔物が居たら、聞いてみてもいいかもしれないな。」

 昨日のモグラの魔物にしてもそうだが、今まで魔物の調査はあまりされていなかったようだ。モグラの魔物は少し様子を見れば襲ってこない事は分かると思うんだけどな。私は不死身だし魔物と話す事もできるからそう思うだけで、普通の冒険者が巨大な魔物と対峙したらそんな余裕はないか。

(一同)「ごちそうさまでした。」


 リューベツァールの蕪尽くし料理を平らげて、ご馳走になったお礼に片づけはアルゴノーツですることにした。テーブルの食器を片づけてキッチンのシンクへと運ぶ。

「あれ?水道とかコンロはないんだね。」

「山奥だしな。魔法が得意な者ならすべて魔法で賄えるから、必要ないというのもあるだろう。」

「そっかーそれじゃあ私は皿洗いは手伝えないね。」

「私も魔法は苦手だから無理かな。」

「まあ仕方あるまい。マキとエルは洗った皿を棚にしまってくれ。」

 私とエル以外の3人は水の魔法を使って食器を洗い、ついでに風の魔法で乾かした。洗い終わった皿を棚に戻し、テーブルも布巾で拭いて片づけはすぐに終わった。


「クエストも終わったし、そろそろ街に帰るか?」

「もう帰るのか?急に呼び出してすまんかったのう。なかなか楽しかったわい。」

「こちらこそ、いろいろ話が聞けて良かったです。ごはんもごちそうさまでした。」

「ギルドにはわしが魔法で帰してやろう。強制転移でいきなり呼び出した事の、せめてもの罪滅ぼしじゃな。」

「そう言う事ならばお願いしようか。」

「よろしくでござるよ。」

「それではさらばじゃ皆の衆。機会が有ればまた会おう。」

「お達者でー。」

「バイバイ。」


 リューベツァールが杖を構えると、朝と同じく私たちは白い霧に包み込まれて周囲が見えなくなった。そして霧が晴れると朝座っていたギルドのテーブルに戻ってきていた。

 ギルドのテーブルの状態は、強制転移で呼び出される前と変わっていなかったので、誰も私たちが消えた事には気づいていなかったようだ。私たちは直接受けていなかったけれど、リューベツァールの幻惑魔法は、かなり強力な効果を持っているようだ。

「何事もなかったように戻って来たでござるけど、さっきのは夢じゃないでござるよね?」

「私もちゃんと覚えているし夢じゃないよ。」

「我々5人まとめて、それなりの距離を強制転移させるとは、考えてみればすごい魔法だな。」

「クエストの達成報告は私がやっておくから、それが済んだら朝の続きをしようか。」

「おっけー。」


 気を取り直して新しく受注するクエストを選ぶことにしよう。

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