「妖怪達?の饗宴」
妖怪大戦争企画参加作品です。まぁ、お気軽にお楽しみください。
世に妖かしの類い有り。
人の目を盗みて人の間を抜け、身を隠しては……酒を飲む。
要は妖かしだって酒飲んでバカやりたいんである。
嘘だと思ったら、アンタの隣で飲んでる美人に、尻尾が有るかどうか確かめてみな?……どうやって、だと?
……べろんべろんに酔わせてみて、ひん剥いて見れば一目で判るぞ。その代わり……
……人間だったら、まぁ……良いじゃないか?思わぬ眼福って事でさ!!……後でどうなっても知らないがな?
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(……遅いなぁ、まさか帰った訳じゃ……)
俺はカウンターの片隅で、すっかり氷の溶けた水のグラスを前に、溜め息混じりで呟きながら待ち侘びていた。
何軒目かは覚えていないけど、同僚のヤハギに連れられて入った店が酷く、早々に店を変えようと路地を歩くうちに、どうやら後を歩くヤハギと別々の店に入ってしまったらしい。
でも、電話しながらお互いの入った店の入口にはネオンサインの看板が下がり、店の扉はピンク色。スナックというのは合っている筈だったけれど「綺麗なコが沢山いるぞ!」と自慢気に話す奴の鼻の下は、きっとヘソに届く位に伸びていることだろう……。
……それに引き換え、コッチは店番を頼まれていたのか、小さな女の子がカウンターでイビキをかいて寝ているし……女っ気どころか店員すら居ない!仕方がないからセルフで水を汲んで、手持ち無沙汰を解消してみて……でも、なぁ……。
じゃ、何でそんな店に居るのかって?……理由は簡単さ!
【……済まないけれど、連れが戻るまで少しだけ待って居てくれないか?】
……そう言って、店から出ようとした俺に、幾ばくかの飲み代を残して一人の男が店から出ていったから……なんだよなぁ。
「えっ!?いや、俺も帰ろうって思ったから……てか、連れがって!知らない人を待つなんて無理ですよ!!」
「……君、つまらぬ事を聞くが……奥さんはいらっしゃるかい?」
「お、奥さん!?……い、いや……居ないです……」
「……では、帰りを待つ異性等も……?」
「い、居なくて悪かったですね!!」
いきり立って返した俺に、仕立ての良さそうなスーツ姿のその男は、こちらとの生地の違いを見せつけるつもりもないだろうが、嫌でも判るような落ち着いた光沢の裏地のポケットから財布を取り出して、
「……これは迷惑料と、まぁ子守り代みたいなものだな……済まないが、これで手を打って貰えないだろうか?」
言われてつい受け取ってしまってから気付き、呼び止めようと顔を上げて声を掛けようとしたのだが……
「あ、あれ?……居ない……ぞ?」
周りを見回しても見当たらない。白髪混じりの初老の男性が、そこまで機敏な動きで消え去る訳はないだろうけど、煙のように姿を消してしまったのだ。
こうして手持ち無沙汰なのも困るので、仕方なく周囲を眺めていると、不意に寝ていた少女がガバッ、と身を起こして、
「……ふああぁっ!!……っと、ハルカっ!!は……そうか、今日は居らなんだか……お!?そちは客か!?」
「……あ~、ゴメンね起こしちゃって……てか、お店のヒト、誰か居ないの?」
「…………お、お店のヒトか!?……い、今呼んでくるから待っててねじゃ!!」
数瞬間、硬直してからその女の子(中学生位か?)は、慌てていたのか妙な喋り方をしながらバタバタと走り出し、店の奥へと消えて暫くして、
「……そう言われましても……別にココの従業員では……」
歯切れの悪い事を言いながら、一人の店員が現れて、俺と目が合い、
「あら、もうお客様が居たんですか?……ヒトが悪いんですから……全く……」
その白と黒の古風な感じの衣装を身につけた店員は、俺の前に立つと店のメニューを手に取りながら、
「……ふんふん、あ、成る程……だから値段が書いてない、と……ノジャさんったら相変わらずなんだから……」
……と、呟いてから耳の上に髪の毛を掻き上げながら、
「……さて、お客さん、何をお作りいたしましょうか?」
「えっ?……ここ、スナックじゃないの?」
「ここは確かにスナックですが……カクテル位出しても宜しいじゃありませんか?……それに、私はそちらが専門で他は全くからきしですし……」
と、二人で話すその時、背後の扉がチリリリリリ……、と鈴を鳴らして開き、新しい来店客を報せたのだけど……
「イッエエエエエエェェイイイイイイイィ~~~~ッ!!!おっはよぉ~諸君そしてひっさびさに来たよぉ~ッ!!!!!……うぇ?……あれ?……」
バーン!!と扉を軽快に蹴り開けて飛び込んできたのは、何処からどう見ても……女だったけれど……いや、
「……ああああぁ……一番面倒な奴が来てしもうたわ……フィオーラ!!そちが来てはいちいち説明するのも……よしっ!!済まぬ!!妖魔の情けじゃ!!ちぇすとぉ~ッ!!」
……背中からカーニバルダンサー宜しく、もふもふした尻尾が九本も揺れてる銀髪のイヌ耳女性を目にした瞬間、背後に立った少女が俺の後頭部に強烈な一撃を見舞って……
「……チェストは……胸部だからぁ……はぐぅ……」
それだけ何とか口にして、俺の意識は…………
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「……だ~か~らぁ~!!悪かったって言ってるでしょ~!?……だって、あんまり久々に呼ばれたから、約束より早く着き過ぎて待つのが面倒だったんだもん……」
ぐったりと伸びた男性を軽々と持ち上げて、特設された畳の上に横たえさせてから、フィオーラと呼ばれた妖魔は手にしたお銚子をそのまま煽り、
「……くうううぅ~♪向こうで飲み慣れたせいで熱燗うっまぁ~いッ!!ねぇねぇ、また来てもいーいぃ?」
「全く……妾の店をなんじゃと思っとるのか……奴のお陰でハルカは朝から居らぬし、見知らぬ客が迷い込むし、厄介モンの九尾までやって来るし……」
能天気な事を言う九尾の狐の娘は、言われて居る事を全く意にも介さずカウンターに立つ店員にお銚子を振りながら、
「おねーさん!!お代わりちょーだいなぁ!!」
「……もう、飲み過ぎですよ?……それに……」
「……私は元よりおねえさんじゃないですから……私は立派な男……アーレヴって言う名前の立派なインキュバスなんですよ?」
……何が立派なのかは知らないが、それだけ言うと哀しげに溜め息を一つ、そして空になったお銚子を手にして、【大籍・吟醸】と書かれた一升瓶を持ち上げると燗付けの準備をするのだった。
正体不明の男は……まぁ、作者と思ってください。ちなみに不幸な犠牲者となった彼は無事に現世へと放り出されて無事でしたとさ。
登場人物→少女・ノジャ。異世界スナックの主人。正体不明の妖怪。
フィオーラ。稲村作品の「もしもかぐや姫が傾国の妖狐だったら」に登場する主人公。九尾の狐と融合した人狼娘。尻尾は姉を筆頭に様々な人々が封じられている。基本的にバカ。
アーレヴ。稲村作品によく登場するバーテンダーのインキュバス。当然ながらイケメン。時々女性にみられる……事もある。
初老の男性。設定的に作者。ただし本物には白髪も金もない。